盗塁され放題…“走らぬ大砲”に決められる失態 隙だらけの左腕「握りが見える」
Full-Count / 2024年10月21日 6時50分
■星野伸之氏は3年目に9勝も後半失速…オフに新球習得「突然ハマった」
阪急・オリックス時代に11年連続2桁勝利をマークした星野伸之氏(野球評論家)はプロ3年目(1985年)のオフにフォークボールを覚えた。それまではストレートとカーブだけで勝負していた。プロ生活を重ねながら進化させたコンパクトなテークバックも巧みなクイックモーションもまだできていない時代。3年目には9勝をマークしたが、苦労も多かったという。「クイックをやっていない時はよく走られました」と振り返った。
星野氏はプロ3年目の1986年に35登板で9勝8敗、防御率3.88の成績を残した。シーズン当初はリリーフだったが、5月5日の西武戦(西武)で先発し、東尾修投手と投げ合って9回を2安打12奪三振無失点の力投で勝利投手(延長10回1-0)となった。「東尾さんに勝てるわけがない、点を取られたら駄目だろうと思って投げていました。そしたらゼロゼロでいって9回まで投げちゃった。あれは無茶苦茶自信がつきましたね」。
その通り、波に乗った。中5日で先発した続く5月11日の南海戦(大阪)では、2失点でプロ初完投勝利をマーク。そこから中4日で5月16日の日本ハム戦(西宮)に先発し、1失点で2試合連続完投勝利を挙げた。「この年も先発ありーの、ロングリリーフもありーのって感じだったんですよね。前半に7勝したんですけど、後半が(2勝で)あまり勝てなくて、それで当時の植村(義信)ピッチングコーチからもう1球種、増やそうって言われました」。
そこでオフに取り組んだのがフォークボールの習得だ。「最初はスプリットフィンガーファストボールをやってみろってことだったんですけど、指先にも力が伝わらないし、何か違うなぁと思って、寮の部屋でもずっとボールを持って、いろいろやっていたんです。そしたら、ある日突然ハマったんですよ。縫い目と縫い目の両方にかかった瞬間にね。この握りだと多少力抜いてもあまりぶれないし、しっくりきたんです」。
■磨いたクイック…どんどん小さくなったテークバーク
次の日に試しでその握りで投げて見た。「そしたら、ある程度落ちたんでね。これなら自分の理想にも近いかなと思って、これで行くことにしました」。星野氏の大きな武器となるフォークボールはプロ3年目のオフに、こうして誕生した。120キロ台のストレートと90キロ台のカーブに第3の球種として110キロ台のフォークが加わったわけだ。これも星野氏がプロで進化した一例だが、この頃にまだできていなかったのがクイックだ。
「よく走られましたからね。(南海の)門田(博光)さんには二盗を決められたし、(ロッテの)落合(博満)さんには三盗されました。一番駄目だったのが、足を上げて一塁に牽制した時に、そのまま走られてセーフになったこと。それでコーチに呼ばれてクイックをやろうって言われたんですけどね」と星野氏は苦笑する。遅いストレートとスローカーブを武器とする以上、クリアしなければいけない問題も多かったようだ。
投球フォームも変化していった。「カーブの時に握りが見えると言われたのでね」。テークバックはどんどん小さくなっていた。「一気に(腕の位置が)そうなったのではなく、自然と徐々に徐々に上がっていったんですけどね。クイックも練習するようになって、自分の中で、テークバックを大きくとると、もう間に合わないというのがわかるんで、だから早くトップに持っていかなきゃということで、徐々にそうなっていったと思う」。
フォークボールについても「癖がいっぱい出た」と明かす。「真っすぐの時はグラブが動かないけど、フォークの時は動くとか、いろいろね。直しても、直しても癖が出た感じでした。一度フォークで握っといて真っ直ぐに変えるのもやりました。面倒くさいけど、そういうのがうまくいかない時は打たれていましたね」。星野氏は4年目の1987年から11年連続2桁勝利をマークする。それは試行錯誤の上のいろんな“進化”があってのことだった。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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