育成ながら「任意引退」…突然の“勲章”に感謝 叶わなかった夢、辞めると決めた覚悟
Full-Count / 2024年10月27日 7時40分
■オリックス・育成の山中尭之が現役引退「誰にも相談はしませんでした」
突然の決断に、悔いはなかった。みやざきフェニックス・リーグ参戦中に現役引退が発表されたオリックス・育成3年目の山中尭之外野手。完全燃焼の末にユニホームを脱いだ。
「シーズンが終わった時から、引退を考えていました。フェニックス・リーグで本塁打も打ちましたが、もうやり切ったという思いが強くなって、球団に引退をお願いしました」。2024年のドラフト会議が終わった直後、大阪・舞洲の球団施設で山中は語った。夢を描き、新たにプロ野球の門をくぐる若者に負けないほど清々しい笑顔でだった。
山中は茨城県出身。つくば秀英高、共栄大を経て入団したBCリーグ・茨城アストロプラネッツでは2021年に11本塁打を放ち、将来の大砲候補として2021年育成ドラフト1位でオリックスに指名されて入団した。
入団1年目は2軍で打率.195、1本塁打にとどまったが、プロ2年目は63試合に出場し、打率.218、野口智哉内野手と並ぶチームトップの6本塁打を放った。育成契約3年目の今季は35試合に出場し、打率.260、頓宮裕真捕手と並ぶチームトップの4本塁打を記録するなど、自慢の長打力を発揮してきた。
覚悟を決めて臨んだ3年目だった。球団が評価すれば再契約は可能だが、最終年のつもりでいた。ウエスタン・リーグの開幕戦、くふうハヤテ戦(ちゅ~る)で3ランを含む4安打の好スタートを切ったが、育成選手の出場枠の関係もあって出場は限られた。調子を維持することが難しく、7月末の成績は打率.217、2本塁打で支配下登録選手への昇格は果たせなかった。
「ショックはありませんでした」という山中に、育成コーチたちが猛練習に付き合ってくれた。遠征に参加できない時や、本拠地での試合出場の予定がない時には、由田慎太郎・育成コーチが打撃投手を務めてくれ、納得いくまで打ち込んだ。ネット越しには、静かに見守る波留敏夫・育成チーフコーチの姿が常にあった。
■任意引退に「育成選手なのに。球団が配慮してくださったのでしょうか」
徹底した打ち込みの成果が9月に現れた。7試合で21打数7安打の打率.337。広島戦では2試合連続の本塁打を放ち、存在感を示した。みやざきフェニックス・リーグでも、4試合に出場し1本塁打を含め10打数5安打。数字は悪くなかったが「やるべきことはやったという思いが強くなりました」と決意した。
来季は26歳。「年齢も年齢ですし、来年は新人も入ってきて出場機会はさらに少なくなります。シーズン中もずっと悩んでいたのですが、また来年、育成でやるのかと考えたら……。高卒で入ってきたら考えも違ったのでしょうが、大卒で独立リーグに入って、そこからですから」と吐露する。
決断したのは、2度目の休日となった10月16日だった。宮崎市内のホテルの部屋で夕方、ドラフトでお世話になったプロ担当スカウトに電話を入れて決意を伝えた。「誰にも相談はしませんでした。成績はよくなっていましたが、自分でやることなので自分で決めたかった」と山中。宮崎に滞在中で、ホテルの自室に駆けつけてくれた担当スカウトからは「悲しいなぁ」という言葉が返ってきた。「スカウトの方には花開くところを見せたかったですが、自分で決めたことですから」と気持ちは変わらなかった。
実は、シーズン終了後に球団から育成再契約の打診があった。「ありがたいお話でしたが、フェニックスでいい成績を残しても、続けようという気持ちに傾くことはありませんでした。完全燃焼したという思いです。こうしておけばよかったとか思いませんし、辞めたことに後悔もありません」と爽やかな表情で語る。
球団に思いを伝えた翌日、チームメートに別れを告げて帰阪。球団から23日に「任意引退」で発表された。「1軍で活躍した選手ならわかりますが、育成選手なのに。球団が配慮してくださったのでしょうか」と感謝する。戦力外で自由契約になれば、他球団で野球を続けることは可能だが、任意引退ではプロの道は閉ざされる。元々、野球を続ける気持ちがない山中にとって、任意引退は“勲章”でもあり、退路を断った決断を後押しするものでもあった。
本塁打と打点にこだわり、ドラフト指名時に色紙に記したのは「二冠王」。憧れた杉本裕太郎外野手と1軍の舞台でプレーすることはできなかったが「我が野球人生に悔いはありません」と胸を張った。(北野正樹 / Masaki Kitano)
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