パ・リーグには「行きたくない」 ドラ1候補の“決意”…予期しなかった指名球団
Full-Count / 2024年11月15日 6時50分
■中田良弘氏は1980年ドラフトで阪神から1位指名…当初は巨人、大洋を希望
1980年ドラフト会議で阪神に1位指名された中田良弘氏(野球評論家)は1978年、亜細亜大を1年夏で中退した。アルバイトを経て入社した社会人野球・日産自動車で頭角を現し、プロ12球団が注目する存在になった。ドラフトではパ・リーグ球団をすべて断り、希望は「巨人か大洋だった」という。阪神入りとなった裏には、ドラフト会議前日の阪神・田丸仁スカウトからの熱烈ラブコールがあった。
日産自動車で中田氏は野球に没頭した。横浜高1年夏の練習試合で右膝を痛め、完治しないまま復帰。全力疾走できない状態で高校生活を終え、亜大に進学も中退した。日産自動車に入社し、「痛いなんて言っていられない」と開き直ってプレー。治療しながらも走れるようにもなり、投球にも好影響をもたらした。左腕・藤田康夫投手、右腕・名取和彦投手に次ぐ位置付けで1979年の都市対抗にも出場した。
1980年はさらに成長し、アマチュア野球世界選手権日本代表候補に名を連ねた。「体操していて右手甲の辺をぶつけちゃってヒビが入って駄目になった」。予期せぬ故障で代表には選出されなかったものの、大会前までに回復させ、オール神奈川の一員として日本代表戦に先発した。「何とかその試合に間に合ってね、3イニングを投げることになって、パーフェクトに抑えたんですよ。横浜スタジアムでね。それは覚えています」。
当時の日本代表は東海大の原辰徳内野手(元巨人)、プリンスホテルの石毛宏典内野手(元西武、ダイエー)、中尾孝義捕手(元中日、巨人)らが強力打線を形成していただけに、中田氏の株は上がった。一気にドラフト上位候補に浮上したようで、全12球団から話があったという。「一応、全部の球団に会いましたね。で、パ・リーグ球団には『行きたくないです』とすべてお断りしました」。中田氏の希望は巨人か地元の大洋だった。
「西武からは『野球が終わった後も面倒みます』という話もあったんですけど、『いや、パ・リーグには行かないんで』と言いました。西武は自信があったんじゃないですかね。『ここまではっきり断られるのは初めてです』って。その時の自分は巨人か大洋しか頭になかったので、結局その2球団以外は全部断ったんですけどね。阪神もそうです」。中田氏はそう振り返ったが、肝心の巨人、大洋とは完全なる相思相愛にはなれなかった。
「巨人(のドラフト1位)は原さん。『獲れなかったら中田君』とスカウトから言われました」。この年のドラフトでは原、石毛、中尾の他に、中田氏にとって横浜高の後輩でもある、この年の甲子園V左腕・愛甲猛投手も注目の1位候補だった。「(横浜高監督の)渡辺(元智)さんにも相談に乗ってもらっていて『じゃあ中田な、後輩(愛甲)が1位で2位だったら、ちょっとかっこがつかんやろ』なんて話にもなって『それもそうかなぁ』と思ったり……」
■ドラフト前日に阪神から連絡「ウチは君1本で行く」
当初は愛甲には大洋も、との情報もあったそうで“1位愛甲、2位中田”のケースも想像できなかったわけではない。巨人が原を抽選で外せば“1位・中田”の目も出てくるが、それもどうなるか……。いろんな思いを巡らせながら、1980年11月26日のドラフト会議が近づいていた。そんな時だった。「ドラフトの前日ですよ。阪神の田丸スカウトから『もう1回会ってくれないか』って連絡があったんです」。
1度は断っていた阪神だが、中田氏は「『わかりました』と言って会うことにした」という。「田丸さんはよう見に来てくれていたんですよ。大阪の球団は怖いって思ってはいましたけどね」。熱心だった田丸スカウトだからこそだったが、ここであった連絡が、結果的には大きなものになった。「1対1で会ったんですけど『ウチ(阪神)は君1本で行くから勝負しないか』って言われたんです」。
原や石毛らドラフト超目玉がいる中で、阪神は中田氏を1位入札するという熱いラブコールだ。「誰か獲れなかったら(1位で)行くという球団はいくつかあったんですが、1本で行くと言われたのでねぇ……。ちょっと考えましたけど、(その場で)『わかりました。お願いします』と言いました」。まさに急展開。土壇場で進路に阪神が急浮上した。
本番では1位で原に巨人、大洋、広島、日本ハムの4球団、石毛に阪急、西武の2球団、新日鉄室蘭・竹本由起夫投手に近鉄、ヤクルトの2球団が競合した。残りの4球団は単独入札。中日が中尾、南海はリッカー・山内和宏投手、ロッテが愛甲、阪神が中田氏を指名した。抽選の結果、原は巨人、石毛は西武、竹本はヤクルトが交渉権を獲得。大洋は原も愛甲も獲れず、外れ1位で峰山高の左腕・広瀬新太郎投手を指名した。
中田氏が田丸スカウトからのラブコールを断っていたら、ドラフトがどんな展開になっていたかはわからない。「関西に行くことになるなんて、最初は全く思ってもいませんでしたからね」。阪神との縁ができたドラフト前日の出来事。中田氏にとっては思い出深いターニングポイントだった。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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