抑えても「気持ちよくはない」 アマでも“絶滅危惧種”…WBC優勝右腕が語る変則の極意
Full-Count / 2024年11月18日 7時20分
■渡辺俊介氏が語る「アンダースローの今」
アンダースローの投手は近年少なくなり、時には「絶滅危惧種」とさえ言われる。アンダースローでNPBで活躍した渡辺俊介氏(現・日本製鉄かずさマジック)が減少の理由と、活躍のための極意を語った。
「最近は減っているとは思います。僕がプロ入りする前の社会人野球だと、アンダースローと言える投手は2チームに1人くらいはいたかな。今は本格的なアンダースローは社会人野球でも少ない。都市対抗に出ているチーム全体で10人もいないんじゃないですかね」。NPBではDeNAの中川颯、巨人の高橋礼、西武の與座海人、日本ハムの鈴木健矢の4投手がこの“下手投げ”を駆使している。
減少の理由についてはこう分析する。「アンダースローの方が利点を生かせるかどうかという視点で言うと、そこにマッチする選手は少ないという現状はある。速い球を投げるための方法論みたいなものは、随分確立されてきたじゃないですか。そうなると、本人が一番速い球を投げられるオーバーからサイドの間くらいの範囲で適性を探した方が、本人の将来やチームでの活躍を考えても、可能性が高いことが多いでしょうね。昔よりもその傾向は強いと思います」。
一人一人の適性を重視した結果、アンダースローが減ったということも言えそうだ。「かつては、本人に合っていないのに無理やり下から投げて、どこか痛めながら投げていたり、ぎこちないアンダースローもたくさんいました。今はアンダースローで勝負している投手って、きれいな投げ方が増えましたね。社会人でも、大学でもそうです。数は少ないけど、投げているアンダースローはみんな結構スムーズな感じですよね」。
球速重視の傾向がさらに強い米国では、逆に変則投手が多くなっている。「独立リーグとかマイナーリーグだと、すごくたくさんいますよ。サイドか、サイドよりちょっと下みたいなピッチャーは、僕がいたチームでも僕以外に2人いました。あっちだと評価基準がもっと厳しくて、93マイル(約149.7キロ)以下の投手は通用しないと判断され、腕を下げさせるとか、変則で生きる道を探さないと契約先がなくなってしまう、ということのようです。そのせいか140キロ台中盤くらいのサイドスローも多い」。日本なら通用するような球速でも、米国では見切られてしまう傾向にあるようだ。
「僕自身は球もそんなに速くなかったしコントロールも良くなくて、父親から、この先高校、大学でも野球を続けるなら、変則ピッチャーをやってみたらどうだ、って。今のままじゃ、たぶん高校でもベンチ入りできないだろうし……ということで始めました。アメリカの投手が、93マイル出せないので腕を下げるのと同じような感覚でしたね」
アンダースローの中でもリリースポイントが「世界最低」で、他に類を見ないと言われた渡辺氏。その独特のフォームは、独学で行きついたものだった。栃木の田舎では中継も巨人戦しか流れず、阪神戦での川尻哲郎や日本シリーズでの高津臣吾を参考にした。
■アンダースローには2つのタイプ
アンダースローには、大きくわけて2つのタイプがある。「一つは、フォームに力感があってバチンと投げるタイプ」。球の勢いで抑えるタイプで、真っすぐは140キロ台半ばが求められる。もう一つは「脱力して、フォームと球の緩急で抑えるタイプ」。渡辺氏は後者で、「これだと120キロ台半ばくらいでも大丈夫です」と話す。
打者を幻惑するための技術は多岐に渡っていた。真っすぐを投げる時には、腕の振りをできるだけ遅いように見せた。「本当にゆっくり振ってしまったらスピードが出ないので、あくまでそう見せられるかどうかです」。逆に緩いカーブを投げる時は、腕の振りが速く見えるように振る。「僕の場合はあえてすっぽ抜けのように投げて、本塁方向に向かって行ってくれれば良い、くらいの感じで投げていました」。
腕の振りと実際のボールとのギャップで打者を抑えるということのようだが、実は本人は「投げていて気持ちよくはない」のだという。「力を込めてバチンと投げたほうが気持ちいいんですけど、抑えられるかどうかは別の話。自分が気持ち悪いほうが、抑えられるんです。気持ち良く自己満足で投げているうちは、アンダースローとしてはまだまだかもしれません。僕も大学から社会人ではどっちつかずでした。大学では下から投げていればそれだけで抑えられたけど、社会人のトップクラスはそうはいかない。それで考えるようになって、行きついたのは脱力するフォームだったんです」。
聞けば聞くほど奥の深いアンダースローの世界。「絶滅」させるにはあまりに惜しい。指導者となった渡辺氏は、いつの日か自身を超えるアンダースローを世に送り出す日が来ることを、願ってやまない。(伊村弘真 / Hiromasa Imura)
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