母の通帳に絶句「あんなに働いたのに」 物価高で負担増も…“破格の月謝”を貫く理由
Full-Count / 2024年11月20日 7時5分
■中学軟式野球日本一の愛知・東山クラブ…お金を理由に「野球を諦める子を見たくない」
日本一強い野球チームの月謝は、日本一安い。名古屋市の中学軟式野球チーム「東山クラブ」は、土日・祝日に加えて、平日も自由参加のナイター練習も週2回実施している。他のチームと比べて運営費がかかる中、部費は月に4000円と相場より大幅に安い。チームを率いる藤川豊秀監督が月謝を値上げしない理由には、母の死を通じて知った“1000円の重み”がある。
東山クラブは今夏、全日本少年軟式野球大会で頂点に立った。38年前にチームを立ち上げた藤川監督はチームの強さに加えて、「日本一の育成」や「日本一の設備」にも自信を見せる。高校でも野球を続けたい選手の進学先を見つけ、甲子園に出場している選手も多い。オリックスの内藤鵬内野手やソフトバンクのイヒネ・イツア内野手ら、プロへ進んだOBもいる。
設備も中学生のチームとは思えないほど充実している。チームバス3台に打撃マシン7台。暗くなっても練習できるように発電機を使った照明も備えている。これだけの環境が整っていれば活動費がかかる。だが、月謝は4000円で、入会金はない。土日だけの活動で月謝は3倍、5倍のチームも珍しくない中、破格と言える。物価高騰であらゆるものの価格が上がっていても、藤川監督が月謝を値上げしたのは、2008年に3000円から4000円にした一度だけだという。
「ナイターで使っている照明の発電機はガソリンを使っているので、ガソリンの値上げで負担が大きくなっています。消費税も上がっていますし、ボール代も大会の参加費も値上げされています。苦しいのは当たり前ですよね。限界はきています」
設備費は月謝だけでは、まかなえない。不足した分は、藤川監督が自腹を切る。チームのコーチや保護者からは月謝の値上げを何度も提案されているが、指揮官はなかなか首を縦に振らない。その理由を明かす。
「野球はお金がかかります。保護者の負担も大きいです。でも、家庭が裕福ではないから、ひとり親だからという理由で野球を諦める子どもを見たくないんです。値上げしたら野球を辞める家庭があるかもしれません。助けられるなら、自分がサポートしたい。もしかしたら、そういう子どもが過去の自分と重なっているのかもしれません」
平日練習の準備をする選手たち【写真:間淳】
■母の遺品整理で目にした通帳…1000円稼ぐのも「想像以上の苦労がある」
藤川監督が育った家庭は生活にゆとりがなかったという。両親は夜遅くまで働いて、何とか生活を維持していた。体も弱く、病院に行くことも多かった。藤川監督は「日本一、救急車に乗った中学生だったと思います」と振り返る。
母親は年齢を重ねると外で働くのが難しくなり、内職をしていた。その姿を見ていた藤川監督は、お金を稼ぐ大変さを実感していた。そして、2005年9月、その重みを一層痛感する出来事が起きた。
「母は体に気を付けながら働いていました。ところが、それでも防げない交通事故によって一瞬にして命を失いました」
遺品整理をしていた藤川監督は母親の通帳を開いた。その数字を見て絶句し、涙があふれた。亡くなる1年半ほど前から始めていた内職の給料が振り込まれており、1か月分の金額が「1000円」と記されていたのだ。
「あんなに一生懸命働いていたのに、1か月でわずか1000円です。世の中には1000円を稼ぐために、他の人が想像できないくらい苦労しているケースがあるんです。月謝を1000円値上げして簡単に支払える家庭は問題ありませんが、そうではない家庭もあります。自分と同じような境遇の子どもでも、野球ができるチームが1つくらいあっても良いのではないかと思って、限界まで月謝を下げています」
選手を指導する藤川豊秀監督(左)【写真:間淳】
■月謝が安くても…日本一の育成や設備に自信
実家には借金もあった。母親に支払われた慰謝料で返済したという。藤川監督は、「母は迷惑をかけてはいけないと思って、命を懸けてこの世を去ったんだなと感じています。借金を返す方法が他にありませんでしたから」と声を詰まらせる。
月謝の安さをウリにするチームにするつもりはなかった。家計に負担をかけなくても、選手を成長させる指導力や環境にこだわった。
「月謝が安いから弱い、安いから設備が悪い、安いから進学に弱いと言われるのは悔しいですかね。設備は自分のお金を使って少しずつそろえていきました。他のチームよりも選手が上手くなるチームにしたい一心でやっていたら、設備も育成も進学も全国トップレベルと言われるまでになりました。思いを強く持ち続ければ報われると信じています」
チーム運営で稼ごうとしていないため、選手の指導に遠慮はない。「選手が辞めたら月謝が減って困るという考えはありません。選手がお客さんになってしまうと、指導や教育はできません。暴力や暴言は論外ですが、時には厳しいことや選手が嫌がることも言わなければ成長をサポートできません」と藤川監督は語る。
月謝が高いチームほど環境に恵まれ、野球が上手くなるわけではない。1000円の重みを知る指揮官には、お金で買えない価値を生み出す力と心がある。(間淳 / Jun Aida)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
阪神・坂本 忘れられない甲子園での日本一の景色「もう一回、やり返したい」FA行使せず残留表明
スポニチアネックス / 2024年11月14日 5時16分
-
少年野球に“イエローカード”導入の絶大効果 罵声撲滅へ…警告受ける大人にある「特徴」
Full-Count / 2024年11月8日 7時5分
-
中高一貫の名門・星稜中が重視する「出場機会」 大所帯でも“意欲高まる”育成術
Full-Count / 2024年10月25日 11時58分
-
平日練習は自主的で「9割言わない」 ドラフト上位も輩出…中学日本一の“育成力”
Full-Count / 2024年10月24日 17時55分
-
「点が取れないと上では勝てない」 中学軟式連覇に導いた“反応打ち”と“高校名門ドリル”
Full-Count / 2024年10月23日 11時43分
ランキング
-
1新生ホーバスジャパン白星発進!モンゴルに快勝 西田優大が3P7本で21得点12Rのダブルダブル
スポニチアネックス / 2024年11月21日 20時54分
-
2バスケ八村塁「協会批判」が波紋 ネットでファン賛否...「文句言う人は代表辞退すれば」「八村塁めっちゃ共感です」
J-CASTニュース / 2024年11月21日 16時4分
-
3あっぱれ!小園祭り 侍JがWBC決勝以来の日米対決で9得点快勝 小園が2連発含む3安打7打点!
スポニチアネックス / 2024年11月21日 22時13分
-
4《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン / 2024年11月20日 16時15分
-
5大量18選手が“戦力外”、FAで大物ダブル獲り? 26歳左腕が電撃加入も…阿部巨人の戦力整理
Full-Count / 2024年11月20日 16時38分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください