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高反発禁止で「学童野球が元に戻る」 猶予期間に困惑も…迫る“バット頼り”との決別

Full-Count / 2024年12月2日 7時50分

関東新人戦では高反発バット使用にバラつきも【写真提供:フィールドフォース】

■2025年から大人用複合バット禁止…どうなる小学生野球? 関東新人戦から探る

 あまりにも打球が飛ぶことから「学童野球を変えた!」とも言われる一般軟式用の複合型バット、いわゆる“高反発バット”。本体価格が4万円を超える高価なものだが、2020年の登場から絶大な支持を得てきた。一方、中学生以上は場外ホームランなど外部に危険も生じることから使用を制限するケースも出てきており、来たる2025年からは、「安全性確保」を理由に小学生の学童軟式大会でも一切の使用が禁止となる。現在は猶予期間だが、現場の最先端ではどのような動きや意見があるのか。5年生主体の新チームの大会(新人戦)で最高位となる、11月末の関東大会で探った。

 まずはルールの整理から。2025年から全面禁止となるのは、打球部に緩衝・反発用のウレタンなど別素材を用いた「複合型バット」のうち、一般用(大人用)のみだ。小学生対象の「少年用」に制限はないが、打球の飛距離や速さが劣ることから、今夏までは都道府県大会以上では「一般用」の使用が圧倒的に多く見受けられてきた。

 関東大会は1都7県の予選を制した8チームによるトーナメント戦で、全7試合。70メートルの特設フェンスを越えたホームランは2本で、どちらも「一般用」から生まれた。6年生主体の夏の全国大会(全日本学童大会)の、50試合39本塁打に比べると率は低いが、新人戦は5年生以下なので妥当だろう。

「一般用を使える最後の大会なので、子どもたちとも話したんですけど、『使えるものは使ったほうがいい』という結論で、ウチは全員がそれで打ちました」

 こう話したのは茨城・茎崎ファイターズの吉田祐司監督。1回戦で5番・関凛太郎が左へ決勝3ランを放ち、続く準決勝は散発3安打で敗れた。指導歴28年、2019年には全国準優勝の実績もある吉田監督は、バットの使用制限によって「野球が元に戻る」と読んでおり、それを好意的に受け止めていた。

「複合型バットは昔からありましたけど、一般用は飛距離がぜんぜん違うので、野球もぜんぜん変わってきて、バットに頼る野球になりましたよね。それがまた、1点を積み重ねていく野球に戻るはず。自分はそのほうがいいと思うし、本来の学童野球はそういうものだと考えています」


茎崎ファイターズ・吉田祐司監督【写真提供:フィールドフォース】

■猶予期間の“飛ぶバット”の使用判断はバラつき…木製で対策始めるチームも

 一般用の複合型バットが現場に広まったのは、コロナ禍以降。それ以前は、レベルが上がるほど、ロースコアの接戦が多かった。全国大会もサク越えアーチより、好守や好走塁が目立ち、戦術を含む駆け引きも見どころだった。是非はさておき、新年度からはそういう勝負がまた増えることだろう。

 今夏の全国大会で準々決勝まで進んだ神奈川・平戸イーグルスは、新チームの今大会は4強入り。スタメンの8人が5年生で、一般用の使用者は1人だけだった。中村大伸監督は、その理由をこう語る。

「5年生ではやっぱり、そこまで重いバットを振れないじゃないですか。身の丈に合ったバッティングがウチの方針なので。本人が望むなら一般用も使っていいけど、ヘッドが走らないスイングをしたら、すぐに『替えなさい!』と指示します」

 中村監督は元オリンピアン。横浜商高時代に春夏連続で甲子園準優勝し、社会人のNTT東京では都市対抗に10年連続で出場した。1996年のアトランタ五輪では日本代表の主将を務めて銀メダルに。学童の指導歴は20年以上で、子どもの特性もよく理解していて言葉に重みもある。

「確かに一般用は学童野球にとって脅威でしたよ。ただ、野球の本質は変わらないので。相手に与えるべき点を与えずに、ウチが取るべき点をしっかり取れば、道具が何であろうと、あんまり関係ないかなと思いますね」

 準優勝した栃木・阿久津スポーツは、上位打線の3人が一般用を使用。OBで就任5年目の小林勇輝監督は、判断を個々に任せてきたが、「結局は一般用を使いこなせるのは振り切れる子、そこまでのパワーがある子に限られる」と語る。

 新年度に向けては木製バットを使い始めており、冬場にスイング力を強化したいという。「木のバットは、しっかり振って芯に当たれば飛びますからね。でもバットに関係なく、目指すのは野手の間を抜く強いゴロ。これから春にかけて、しっかりと振り込んでいきたいなと思います」。


関東大会で初優勝した旗の台クラブ【写真提供:フィールドフォース】

■“飛ぶバット”未使用ゲームも多数経験…打の調子狂うも関東を制した東京王者

 バット対策に最も踏み込んでいたのは、初優勝した東京・旗の台クラブだった。6試合で58得点と、猛打で東京予選を4年ぶりに制したのが10月6日。それから関東大会までの約2か月は、意図して一般用を使わない練習試合も多く組んだという。

 チーム代表を兼ねる酒井達朗監督が、こう説明する。「対戦相手の意向もお聞きして、双方で使わない試合もあれば、ウチだけが使わなかったことも。やっぱり、使うか使わないかで打球がぜんぜん違いましたね。結果として私の反省なんですけど、子どもたちの打撃の調子がそれで狂ったんですよ。関東大会でなかなか調子が上がらなかったのは、バットをとっかえひっかえした影響ですね」。

 旗の台は、1回戦の6回に長短打4本で2-1のサヨナラ勝ち。準決勝も3-2の辛勝、決勝でようやく2ケタ安打をマークして11-6で勝利した。新人戦最高位の勲章となる金メダルと引き換えに、一般用複合型バットとは決別するという。

「課題もたくさん出ましたし、バッテリーを中心に守備でペースをつくって最後に打ち勝つ。そういう野球に早く切り替えていかないと。毎年の目標を決めるのは子どもたち自身ですが、チームとしては東京4位で全国大会に出られなかった今年の雪辱を果たしたいと思っています」

 一般用の複合型バットの使用禁止で、学童野球は元の鞘に収まる。コロナ禍以前までのように、ロースコアの接戦が増えるとすると、そういう時代も経験しているベテラン指導者のチームが優位となるのかもしれない。奇しくも、新人戦の関東大会4強の指揮官たちは、数年から20年以上までのキャリアの持ち主たちだった。

〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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