江川は「真剣に投げてない」 通算10HRとカモも…“日本記録保持者”が見た伝説投手の憧憬
Full-Count / 2024年12月5日 6時50分
■宇野勝氏は4年目開幕前に顎を骨折…打球が直撃した
アクシデントを乗り越えた。元中日内野手の宇野勝氏(野球評論家)はプロ4年目の1980年に初めて規定打席に到達した。121試合に出場して打率.245、12本塁打、44打点。オープン戦終盤の練習中に顎を骨折し、開幕に間に合わなかったが、4月中旬に治りかけ状態で1軍昇格して好結果を残した。シーズン1号は4月17日の巨人戦(ナゴヤ球場)。巨人の怪物・江川卓投手から放った満塁アーチだった。
高卒3年目の1979年、21歳で遊撃レギュラーの座をつかんだ宇野氏は勢いに乗っていた。「4年目(1980年)はオープン戦から絶好調だったイメージがある」。そんな時にまさかの出来事が起きた。「オープン戦終盤に後楽園球場で日本ハム戦があって、確か高橋一三さんから3本くらいヒットを打ったと思う。その次の日だよ。先発が鳴り物入りで(日本ハムに)入った木田(勇)さんということで、前の日から『明日投げるらしいぞ』と言われていたんだけどね」。
木田勇投手は社会人野球・日本鋼管から1979年ドラフト1位で日本ハム入りした左腕。1978年、1979年のドラフト会議で、2年連続3球団がドラフト1位で競合したことでも知られる(1978年は交渉権を得た広島を入団拒否)。そんな話題の投手との対決に腕を撫して球場入りした宇野氏だが、「その日の練習中に誰かの打球が顎に当たったんだよ。後ろから(中日投手コーチの)稲尾(和久)さんの『危ない』って声が聞こえたけど、当たってしまった……」。
それでも当初は軽症と思ったという。「とりあえず病院には行ったんだけど、当時そんなに詳しいレントゲンとか撮らずに大丈夫みたいなことを言われたしね。でも名古屋に帰って、ものを食べようとしたら痛いのよ。歯が痛く感じて歯医者に行ったら『これは歯じゃないよって、折れているんじゃないの』って。で、顎骨折だった。無茶苦茶、絶好調だったのに、それで開幕に間に合わなくなったんだよ」。
■4月中旬に1軍へ…121試合出場で規定打席に初到達
まさかの離脱だったが、復帰は早かった。まだ治りかけの状態で4月中旬には1軍昇格となった。4月14日未明、中日・大島康徳内野手の運転する愛車が名古屋市内でスリップ。中央分離帯に激突事故を起こして負傷した。「大島さんの事故で俺に『上がってこい』ってなった」。4月15日の巨人戦(ナゴヤ球場)には“慣らし運転”で途中から遊撃守備に就き、打っても巨人・西本聖投手から二塁打を放つなど2打数1安打だった。
17日の同カードには「2番・遊撃」で先発出場し、巨人先発・江川卓投手からシーズン1号を放った。「それはよく覚えている。満塁ホームランを打ったんだよ。中日のピッチャーは三沢(淳)さんだったよね」。試合は中日が8-1で快勝。打線の援護を受け、先発・三沢が1失点完投勝利を飾った。宇野氏は5打数2安打4打点の大活躍。コンディションが万全ではない急きょの出番で結果を出して、存在感を示した。
ちなみに江川からはこの時が1号で、通算10本塁打をマークした。相性も決して悪くなかったように見えるが、宇野氏は完全否定した。「10本って言ってもね、江川さんは、7番とか8番とか打っていた俺なんかに、ほとんど真剣に投げてないからね。真剣に投げた球を打ったイメージが全くないわけじゃないけど、かなり少ない。(阪神の)掛布(雅之)さんが江川さんから打ったのとは全然違うんだよ」。
怪我からスタートした4年目の宇野氏は、終わってみれば121試合出場でプロ初の規定打席に到達。本塁打は9月までに5本だったが、10月に7発放って12本塁打でフィニッシュした。「まぁ高校出で当時は130試合制だったし、今思ったら順調といえば、順調にきていたってことだよね」。翌5年目の1981年は大飛躍の25本塁打。有名になった“珍プレー”も飛び出すシーズンとなる。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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