東大主砲がスマホで綴った“6000字の感謝” たとえ「負け組」でも…笑顔で全うした野球愛
Full-Count / 2024年12月20日 7時50分
■東大で4番を務めた内田開智内野手が「六大学ブログリーグ」に記した思い
小さい頃から続けてきた野球を引退するときが来た。東京六大学リーグ・東大でプレーした内田開智内野手(4年)もその一人。同リーグでは「六大学ブログリーグ」という選手が記す公式ウェブコンテンツが存在する。内田さんがたっぷり記した6000文字には周囲への感謝があふれ出ていた。
僕は野球が大好きです――。この一文から始まるブログには東京・渋谷区の学童野球チーム・大向ベアーズ、中学硬式の名門・東京神宮リトルシニア、開成高(東東京)、東大といった所属チーム、整体師やトレーナー、野球施設「フィールドフォース」のスタッフら支えてくれた人々への感謝の言葉が並べられている。
大学ではプロ入りも目指した選手だった。記したブログが公開されると、内田さんを知る人たちの間で話題になった。感謝の言葉を伝えられた人々には、涙を流す人もいた。内田さんに文章に込めた思いを聞くと「こうやって思いを伝える機会って、なかなかないと思いました。書き始めてみたら、伝えることができなかった人がたくさんいるな、と」。ここを逃したらチャンスはない――。一球入魂。野球と同じように、好機を逃さず、挑戦した。
小学校時代のコーチには、野球の楽しい経験があったから続けることができたという感謝。その指導者にとっても嬉しい言葉だろう。大学生になった今もそのコーチとは良好な関係が続いている。中学時代は恩師と言える存在にも出会った。「東大を目指せ」と東京六大学でプレーすることを目標に立ててくれた記憶は忘れない。
「長くなってもいいから、書こう」。試合後のバスの中で、スマートフォンに文字を打ち続けた。失策した試合後に「やべぇ……」と思いながら、素直な気持ちを書いた。時には就寝前のベッドの上でも込み上げてくる思いを打った。読み返すと「羅列しているだけでした。うまい文章って伏線回収とかがあると思いますが、素直な気持ちを書いただけです」。指導者だけには留まらなかった“感謝の輪”。その文章は6000文字に渡るブログにしては長文だが、すんなりと心に入ってくる。
笑顔で大学野球を全うした内田(中央)【写真:加治屋友輝】
■内田さんを支えた家族、指導者の思い
東大野球部の選手は学業に重点を置くイメージがあるのかもしれない。だが、スポーツを通じてチームワークや忍耐力、問題解決力など、社会に通じる重要なスキルも学んでいる。野球の上手さやリーグ戦の結果や内容が、他の5つの大学と比較されることもある。イップスなどを経験した内田さんは「東大のメンバーは失敗してきた野球人生を歩んできた人が多い。大学に来ても“負け組”の野球なんです」と自虐的に笑ったが、本心はそこではなく、人間味があることだった。
ブログを見るとそれがわかる。「他のメンバーも文章も深みがあるんです。重たい文章にはなっているのですが、『そんなことを考えていたんだ……』とか陰で努力していたことがよくわかるんです」。野球をやっている中での苦しみ、勉強との両立、東大野球部だからこそ感じる悔しさ……普段一緒にいても知ることのできなかった素顔や過去が見えたこと。言葉が絆をさらに強固なものとした。
野球を通じて知った喜びも苦悩も、文字にすることで力に変わる。それを「あくまでも僕らしく、笑顔が浮かぶように書きました」。最後は東大野球部の同期への思い、そして両親に向けたメッセージで締めくくられている。2人の元に生まれて野球ができて本当に幸せでした――。
父・佳男さんのことを「でしゃばりな親父なんです」と表現するが、気がつけば、いつもネット裏で見守ってくれた。よく喧嘩もした“鬼コーチ”だった。負けたくない一心から「一番、応援してくれた。僕の原動力。仕事をする背中をこれから追いかけたい」と感謝する。そして、母・美代さんは「いつも味方でいてくれた。いつも僕に自信を与えてくれて、進む道が間違っていないということを教えてくれました」と愛されていることを改めて感じたという。照れ臭いが、本心だった。
自分の実力を見つめ、プロへの思いは断ったが、神宮で大学野球をするという大きな目標に向かって大好きな野球を全うした。現在の野球界の問題点のひとつでもあるのが、子どもと保護者、指導者の距離感。大人が原因で子どもが野球を辞めてしまうケースはまだ多い。内田さんは周りの大人が心の底から、応援してあげられたのではないか。そのような思いにさせる選手だった。
一人の野球少年が周囲や家族に対して、自然に感謝の気持ちを言葉にできる大人へと成長した。信念を持って、打ち込んだ野球に感謝できる内田さんの野球人生に拍手を送るだけでなく、彼が勉強とスポーツを通じて財産を得られるようにレールを敷いてくれた大人たちにも敬意を表したい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)
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