日本代表も競技断念→18歳で中日チア「もう大混乱」 母になった“伝説メンバー”の今
Full-Count / 2024年12月28日 7時20分
■チアドラの元リーダー本多里香さん、刺激的な記憶が蘇った一夜
記録的な暑さが続いたこの夏、一夜だけ浴びたスポットライトが心地よかった。7月25日、バンテリンドームで開催された中日初のOB戦。往年の名選手たちが四苦八苦のプレーを見せるグラウンドで、11年ぶりに“勝利の女神”に戻った。球団のパフォーマンスチーム「チアドラゴンズ」(チアドラ)の元リーダー、本多里香さん。抜群の人気を誇った“伝説のチア”は、ひとときの華やかな舞台に浸った。
18歳でチアドラに加入。チームは落合博満監督時代の黄金期終盤で、2010年からリーグ連覇を果たした。優勝パレードでは、選手たちと車上から沿道に手を振った。10代の少女には刺激的すぎる体験。「何も分からなくて、『あー、すごーい! すごーい!』みたいな感じでした」。グッと口角が上がる愛らしい笑顔は、当時と何ら変わらない。
2013年までチアとして活動。最終年はリーダーを務めた。細かく記憶を呼び起こしても「いいことしかなかったかも。とにかくメンバーがみんな仲良くて、めっちゃ楽しかったです」。人生の方向転換を迫られた直後だったからこそ、その4年間はより鮮やかに感じたのかもしれない。
近所の教室に通い始めたのがきっかけで、幼少期からずっと新体操漬けの日々だった。世代の日本代表に選ばれ、国際大会にも出場。着実に実力をつけていったが、高校時代に膝を負傷し、一瞬にして競技人生が暗転した。「無理だ、この足じゃ」。選手として続けることを断念。突然、次の進路と言われても、頭の中は空っぽだった。
「もう本当に新体操にのめり込んでいたので、何をしたらいいか分かんなくて。選択肢すらない。世間知らずだったというか、新体操以外のことを何も知らなかった」
周囲からは様々な助言をもらった。新体操のキャリアを生かす大学なども紹介されたが、うまく心が動かない。「いま思うと、他のことをやってみたいという思いもあったのかも。でも決められなくて、どうしよう、どうしようって」。答えを出せず、立ちすくむ愛娘の背中を押したのは、父のひと言だった。
■現在は子育てに奮闘「思った以上に大変! でも、思った以上に可愛い」
「なんかこれ、いいんじゃない? 応募してみていい?」
すすめられたのは、チアドラのオーディションだった。大のドラゴンズファンの父が、ダンスが好きな娘のためにひねり出した親心。「私が悩んでいるのを察してくれて、きっかけをくれようとしたんだと思います」。思いを受け取り、合格。2010年春から短大生とチアドラの二足のわらじを履いた。
華やかなプロ野球の世界、ドームを盛り上げる大役、ファンとの交流……。世界が一変した。「混乱。もう大混乱。すべてがカルチャーショックのような感じでした」。重圧がのしかかる新体操の試合で勝つ喜びとは違った魅力が、チアにはあった。「空間を盛り上げる。お客さんと一緒に楽しむ」。パフォーマンスだけでなく、メディアへの取材対応やイベント出演と忙しかった。
新体操に関わり続けていても、充実した日々だったかもしれない。でも、18歳で迎えた転換点が社会との接点を増やし、視野を広げてくれたのは確か。「ひとつのことをするのに、裏でこれだけ人が動いて準備してくれているんだということにも気付けました」。チア引退後は、球団スタッフに転身。チケット販売やグッズ制作などに携わった。
2018年に結婚。いまは子育てに奮闘する毎日。「子どもの世話って思った以上に大変! でも、思った以上に可愛くて(笑)」。ふと、柔らかなママの顔がのぞく。
当時のチアドラメンバーたちとは、今でも交流がある。今回、OB戦に合わせて球団職員から声がかかり「踊れるか不安でしたけど、みんなと同窓会するような気持ちで参加しました」。大事に保管していた当時の衣装を難なく着こなし、スタンドの観客に笑顔を届けた。
刺激的だった日々の思い出が、鮮明に蘇った一夜。「もう本当に貴重な経験をさせてもらった4年間だったなって、あらためて思います」。最後に写真撮影をお願いすると、本多さんは少しはにかみながらも抜群のスマイルを決め、背筋正しくポーズを決めた。チアの品格は、いつまでも息づいている。(小西亮 / Ryo Konishi)
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