“悪癖”で外出禁止「遅刻の常習犯」 エースは怒り…「病気レベル」の苦悩
Full-Count / 2024年12月29日 6時50分
■天谷宗一郎氏は1年目に2軍で打率.050「試合になるとビビった」
なかなか治らなかった……。元広島外野手の天谷宗一郎氏(野球評論家)はプロ1年目の2002年、2軍でもわずか2安打に終わった。いきなりプロの壁にブチ当たった格好だが、困ったことは合宿暮らしの中でも起きていた。「どうしても朝が起きられなくて、何回も寝坊してしまって……」。この“症状”は1年目だけでなく「6、7年目くらいまで続いた」と明かす。赤ヘルの大エースにもそれが原因で怒られたことがあったという。
天谷氏のプロ1年目は、2軍で40打数2安打の打率.050だった。打球がほとんど前に飛ばなかったという。「マジ、飛ばなかったですね。ホントに飛ばなかったです。キャンプの時は意外にちゃんとというか、ちょっと前に飛んでいたと思うんですけど、シーズン前に教育リーグがあるじゃないですか。あの時に1軍クラスのピッチャーが調整で投げてきて、あれに衝撃を受けてしまった。打ちにいくのも、見て打とうとしてしまうのが1年目の時にずっとあったんですよ」。
ダイエー・斉藤和巳投手や阪神・安藤優也投手らの球を見て「怖かった」と話す。「(6歳上の)安藤さんはプロ入り同期なんですけど、スゴって思いましたし、斉藤和巳さんはブレーク前でしたが、球がゴーッて、いっているんですよ。こんなの聞いたことがないぞって。打ちにいけなくなっちゃった。バッティング練習ではちゃんと打てるんですよ。でも試合になるとビビっているし、結果も欲しいし、よりボールを見て、見て、見て、になってしまう悪い癖が出て……」。
2軍ではずっとノーヒットだった。「(1年目の)2安打は最後の雁ノ巣でのダイエーとの3連戦の頭か2試合目にスタメンで使ってもらって打ったんです。僕は寝坊が多すぎてずっと外出禁止だったんですが、(2軍監督の)木下(富雄)さんに『この試合で今シーズン初ヒットを打ったら外禁をといてやる』って言われて、ヨッシャーと思って。福岡なんて出たこともないから行きたいじゃないですか。1、2、3で打ったろうみたいな感じでやったらパカーンと右中間に……」。
それで吹っ切れたという。「ずっとやばいと思っていたんですけど、その日に2本打てた。“何やったの、今までの俺の感覚”って思いました。だから1年目の終わり方はよかったんですよ」。ただし、外出禁止の原因になった寝坊癖はなかなか治らなかった。「別に自分を守るために言うわけではないですが、たぶん病気レベルだったと思う。隣の隣の部屋まで聞こえるくらいの大音量の目覚ましが聞こえない。隣の人に叩き起こされて『えっ』て感じだったんです」。
広島で活躍した天谷宗一郎氏【写真:山口真司】
■一人暮らしになって解消された寝坊癖「気の張り方を知ったんだと」
高校までは、その“症状”に気付いていなかった。「実家だったんで起こしてくれたし、遠征とかも1人部屋とかがほぼなかったんでね」。プロ入りして初めて合宿所暮らしを経験してわかったわけだ。「6年目、7年目くらいまで治らなかったです。後輩ができたら起こしてもらっていましたが、遅刻の常習犯でした。キャンプでは10時練習開始で10時に起きたことがあったし、マーティ(・ブラウン監督)の時にバッティング練習の最後頃に球場に行ったこともあった」。
その件で広島のエース・黒田博樹投手に怒られたこともあったという。「和を乱すのをすごく嫌う方ですからね。僕が寝坊して申し訳ないような顔をしていたら、ちょっとはにかんだような形になってしまって『歯を見せてんじゃないよ!』ってパッと言われて……。勘違いなんですけど、よくよく考えたら笑顔で入ってきたように見えた自分がいけないと思いました。口を閉じていればそんなことはなかったんですからね」。
天谷氏は今でもバツが悪そうに「時代が時代だったら、もういないですよね」と話す。「(寝坊癖は)合宿を出て一人暮らしをしてから克服できました。『環境を変えます』と言ってから、1回も寝坊していないです。一人暮らしで寝坊したら、もうやばかったですからね。たぶん気が張っていたんでしょうね……」。誰も起こしてくれない状況に追い込む“逆療法”が成功したようだ。
「今は“トゥル”って音だけで目が覚めますんで、気の張り方を知ったんだと思います」と笑顔で話すが、当時はかなり大変だった。「僕は酒を全く飲まないんですが、先輩(野手)の井生(崇光)さんには『野球以外で怒られないように頑張れ、野球以外で怒られて評価を下げるな』ってずっと言われていました」。天谷氏は、そんな“闘い”も繰り広げながら1軍で活躍する選手になっていった。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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