叱咤してくれた先輩に「なんで怒ってんの?」 中日での後悔…プロ人生で得た“成長”
Full-Count / 2024年12月31日 7時10分
■中日で6年、独立Lで6年…2024年限りで現役を引退した若松駿太
雲の流れが速い。西日本に居座る台風10号の影響で、いつ崩れてもおかしくない福島の空は、なんとか持ちこたえている。時折吹く風が汗を乾かす今年8月の終わり。ルートインBCリーグ・福島レッドホープスの若松駿太投手が、現役最後のマウンドに上がった。中日で6年、独立リーグで6年。乱高下のプロ人生はあっという間だった。
期待値は決して高くなかったはずだ。福岡・祐誠高で目立った実績はなく、2012年のドラフトではなんとか7位指名で中日入り。担当スカウトの故・渡辺麿史さんが惚れ込んでくれているのだけが救いだった。1年目は1軍出場なし、2年目は7試合で0勝1敗、防御率4.96。分岐点は、3年目に突如として訪れた。
2015年6月のプロ初勝利から、4か月あまりで白星は2桁まで伸びた。23試合に登板して10勝4敗、防御率2.12。プロ2年目に完成させたチェンジアップが、面白いように打者を惑わせた。シーズンオフの契約更改では、年俸550万円から3600万円へと夢ある昇給を叶えた。
チームでの立場も、扱いも、口座に毎月振り込まれる金額も、全てが変わった。「結構えぐい景色でした。言葉じゃ表せないくらい、周りの目が変わった感じでした」。知らないうちに態度や考え方も変わってしまっていたと、まだその頃は気づけなかった。
ある日、選手寮から相乗りするタクシーの出発時間に少し遅れた。その姿を見ていた先輩投手から、雷を落とされた。態度を改めさせてくれようとした叱咤。今なら簡単に分かることでも、当時は反抗心がわき立った。「なんで怒ってんの? 八つ当たりだろ」。心の中でそう吐き捨てる自分がいた。
■若手に伝える教訓「自分がやっていると思っても、それを決めるのは他人だから」
代償は甚大だった。2016年こそ7勝を挙げたが、黒星が1つ先行。2017年は1勝にとどまり、2018年は1軍登板ゼロ。2桁勝利からたった3年で戦力外を言い渡された。NPB復帰をかけて2年間、BCリーグの栃木ゴールデンブレーブスでプレーしたが、再起は叶わず。2021年から福島に移った。
NPBへの思いを断ち切り、投手コーチを兼任。20歳前後の選手と向き合う中で、中日時代の自分を客観的に見ることができるようになった。未熟さを素直に反省し、一点の後悔として胸に刻み込む。虚勢を張っていたあの頃に語りかけるように、穏やかに言う。
「もう少し謙虚でいればよかった。活躍したからOKだと思ってしまっている自分がいました。もっと周りの声を聞いていれば、もう2、3年は長くNPBでやれたのかもしれない。本当にガキでしたね」
今さらもう遅いと、人は言うかもしれない。確かに、もう華やかな世界には戻れない。でも、まだ29歳。これからの人生はずいぶん長い。今気づけたことが、6シーズン過ごした独立リーグで得た財産。「自分がやっていると思っても、それを決めるのは他人だから」。教訓を込め、未来ある若手たちにそう伝える。
■引退登板は73球…ベンチで迎えてくれた弟のねぎらいに感極まる
マウンドに立って背中でも手本を示してきたが、「自分が試合で投げることで、若手の登板機会を奪っているのかもしれない」。徐々に大きくなってきた思いが、ユニホームを脱ぐ合図だった。昨年8月、2024年シーズン限りで引退する意向を岩村監督に報告。1年をかけ、伝えるべきことは伝え、やるべきことはやり切り、丁寧にプロ人生の終活をしてきた。
2024年8月31日、福島・しらさわグリーンパーク野球場での古巣の栃木戦。5回から登板し、4イニングで3安打2四球3奪三振の2失点(自責点1)だった。中日時代に遅いと揶揄されたストレートも、制球で苦労することの少なかった数多の変化球も、観客を楽しませるための超スローボールも、思うがままに73球を投げた。
マウンドを降り、ベンチ前に並んだ首脳陣やチームメートとひとりずつ握手を交わす。最後に迎えてくれた弟の若松悠平外野手のねぎらいに、思わず目頭が熱くなった。試合は延長10回の末にサヨナラ勝ち。試合終了直後、空がこらえきれず、わずかに涙雨を降らせた。
慧眼のスカウトに見出された無名の高校生にとって、上出来の12年間だったかもしれないし、もっとやれた12年間だったかもしれない。それでも、生意気だった自分も、現実と向き合った自分も、全て受け入れることができた。「これから野球に携わっていきたい思いもありますし、それ以外の選択肢も考えたいと思っています」。人間臭く、次の道を進む。(小西亮 / Ryo Konishi)
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