“火の玉”で折れた右手、止まらぬ冷や汗 ベンチから聞こえた“怒号”「力も入らない」
Full-Count / 2025年1月2日 6時50分
■天谷宗一郎氏は阪神・藤川からファウルした際、右手首を痛めた
広島の本拠地がマツダスタジアムに変わった2009年、元赤ヘル戦士の天谷宗一郎氏(野球評論家)は規定打席には届かなかったものの、317打数95安打の打率.300をマークした。この年で手痛かったのは、5月中旬から約2か月、怪我で1軍から離脱したことだ。「状態がよかったので、もったいなかったとは思います」。阪神・藤川球児投手の“火の玉ストレート”をファウルした際に右手有鉤骨を骨折したという。
プロ7年目の2008年に1軍に定着した天谷氏にとって、8年目の2009年はさらにジャンプアップしたいシーズンだった。開幕・巨人戦(4月3日、東京ドーム)には「8番・右翼」で出場し、4打数1安打。2カード目には3番で起用されるなど、マーティ・ブラウン監督率いる広島に欠かせない戦力になった。4月30日の巨人戦(マツダ)から5月4日のヤクルト戦(マツダ)まで4試合連続2安打を放つなど、調子も上がっていた。そんな時にもまたも怪我が邪魔をした。
「3番・右翼」で出場した5月13日の阪神戦(甲子園)、延長10回表の第5打席だった。マウンドには阪神の“火の玉ストッパー”がこの回から上がっていた。その日の天谷氏は4打数2安打と状態も悪くなかった。だが、アクシデントが待っていた。「初球だったかな。ファウルした時にバキッとなって……。右手はもう握れなくて、左手一本で支えている感じだった。冷や汗が出てきて、で、次待とうと思って待って……」。
天谷氏はまともにバットを握っていない状態でセーフティバントを考えたという。「それなら(左手)1本でできるかなと思ってね。ボールだったんで(バットを)引いたんですけどね。そしたらベンチから(打撃統括コーチの)内田(順三)さんの『何やってんだぁ、打てぇ』みたいな感じの声が聞こえてきたのも覚えていますね。でも、やっぱりそれどころじゃなくて……。で、結局フォアボールだったんです」。
一塁に歩いた天谷氏は永田利則一塁コーチに「たぶん(右)手が折れました」と伝えたという。「永田さんは『嘘やろ』みたいな……。『でも動きません』ってね。そしたら次の(4番打者の)栗原(健太)さんが左中間を破ったんで、ホームまで全力で走りました」。広島が2-1とし、その裏を広島・永川勝浩投手が締めて勝利をつかんだが、10回裏の守りに天谷氏の姿はなかった。「生還してグラブをはめてみたら、入らないんですよ。力も入らないし……」。
■右手有鉤骨の骨折で約2か月間の離脱…規定不足も打率.300
交代するしかなかった。翌日(5月14日)、病院に行ったら、案の定、右手有鉤骨の骨折と診断され、登録抹消となった。打率.300、2本塁打での離脱だった。「これに関しては、ずーっと右手が痛かったんですよ。突発的なパチンではなくて、いつか大きな怪我をしそうだなぁって分かった上でやっていたので納得はできました。ただ、その年がマツダスタジアムの初年度でオールスターもあったので、あの状態でいっていれば出れたかなというのはあったんでねぇ……」。
1軍に戻ったのは7月15日。「怪我をして3軍。あの頃、3軍から2軍に上がる時に連続ティーをやらなければいけない。やって段階を踏んで戻らなければいけないというのがあったんですけど『試合では打てます。ただ連続ティーをすると手首が痛いので何とか許してもらえませんか』と2軍に上がるのを早めてもらったり、けっこう無茶も聞いてもらったんですよ」。周囲のバックアップも受け、天谷氏は1軍復帰後も怪我前と変わらぬ勢いで結果を出していった。
7月18日からは、出場14試合連続安打をマークした。8月4日の巨人戦(旭川)では5打数4安打。安打、二塁打、安打、本塁打で迎えた第5打席は遊飛に倒れたが、三塁打ならサイクル安打だった。「亀井(義行)さんに打たれてサヨナラ負けした試合ですよね。あの時は三塁打を狙ったんですよ。右中間に、と思って打ったら力みあげて内野フライだったんですけどね」。そのまま9月、10月も駆け抜け、規定打席不足ながら故障離脱前と同じ打率.300でフィニッシュしたのだ。
「2009年は規定打席にのりたかったなぁっていうのはあるし、怪我をしていなかったら、どれくらいの成績を残したのかなぁっては思います。でも悔いはないですよ」と話すが、これも運命だったのだろうか。まさしく何とももったいないシーズンだった。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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