ホテルで突然「来季から育成ね」 戦力外に呆然…続く試合に戸惑い「どういう気持ちで」

楽天時代の佐藤智輝【写真：荒川祐史】

■Honda鈴鹿の佐藤智輝は楽天時代の2021年に教育L中に育成を打診

　ホテルの一室での通告は今でも鮮明に覚えている。Honda鈴鹿の佐藤智輝投手は楽天時代に2度の戦力外を受けた。1度目は育成契約に切り替わった2021年。高卒3年目を終え、秋季教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」参加中だった。

　2021年オフ、宮崎のホテルで突然球団の2軍マネジャーから「夜部屋に来て」と呼び出された。ジャージ姿で向かうと、戦力外通告と育成契約の打診だった。「『来季から育成ね』という感じでした。最初は予想していなかったですね」。頭が真っ白になった。

　突然の通告に戸惑ったが、それでもフェニックスリーグの試合は続いた。「明日からも試合には出てくれと言われて……。どういう気持ちでアップをすればいいんだろう」。奇しくも同日、同期入団だった引地秀一郎投手（現ショウワコーポレーション）も戦力外に。「僕の部屋に集まって『明日どうする？』ってそういう感じでしたね」。

　山形・寒河江市出身で幼少期から楽天ファン。2018年、ドラフト指名後のファン感謝祭のロッカールームで松井裕樹（現パドレス）、則本昂大両投手に対面し身震いしたのは今でも覚えている。しかし、現実は甘くなく、3年間で1軍出場はゼロ。2021年は2軍でも9試合に登板し、1勝0敗、防御率10.38とアピールできずに終わった。

■侍J・藤平からの一言「別に2軍選手なんだから」

　失意の左腕に声をかけたのは仲の良かった藤平尚真投手だった。2024年に中継でブレークし「ラグザス　プレミア12」では6試合無失点の活躍を見せた右腕は佐藤の2学年上。今でこそ球界を代表する投手の一人に成長したが、2021年はプロ入り初の1軍登板なしに終わっていた。

　同年オフに藤平も背番号「19」を剥奪され、「46」に変更していた。そんな兄貴分から食事で言われたのは、厳しくも愛のある言葉だった。「『まだ居られて良かったじゃん。支配下でもずっと2軍だったら一緒だし。別に2軍選手なんだから』って」。

　佐藤は3年間で1軍出場なし。1年目から1軍を経験している右腕の言葉は響いた。「確かにそうだなって。ずっと2軍にいて（2桁を）背負っているのはおかしい」。モヤモヤしていた気持ちが吹っ切れた。

　現実は甘くはなく、それから2年後。支配下登録は叶わず、2023年オフに2度目の戦力外通告を受けた。社会人・Honda鈴鹿に活躍の場所を移したが、再びプロを目指すのは藤平の言葉があったから。自らの立場を理解して、叶わなかった1軍の舞台を目指している。（川村虎大 / Kodai Kawamura）