投手再挑戦でエース格も…甲子園逃し呆然「これで終わるのか」 “想定外”で止まらなかった涙
Full-Count / 2025年1月9日 6時50分
■川尻哲郎氏は日大二高で投手に再挑戦…1年秋からメンバー入りした
夢の実現はならなかった。阪神などで通算60勝を挙げ、1998年にはノーヒットノーランを達成した川尻哲郎氏は、日大二中から日大二高に進んだが、目標の甲子園には届かなかった。エースとして臨んだ1986年の3年夏は西東京大会準決勝で延長13回の激闘の末、日大三高にサヨナラ負けを喫した。「甲子園には行けるような気がしていたんですけどね」。負けた瞬間は「不思議な気がした」という。「涙が枯れるまで泣いたような……。ホント抜け殻のようになりましたね」と振り返った。
中野区立向台小から日大二中に進み、高校は日大二高。川尻氏は甲子園出場を目標に掲げて、この進路コースを選択した。「中学は違うんですけど、小学校と高校は松坂慶子さんも同じだったそうです。一度もお会いしたことはないんですけど、そういうふうに聞いていました」。ジャンルは違えど、向台小と日大二高の16歳年上の“先輩”人気女優の存在は励みにもなったのだろう。日大二中では目立った成績を残せなかったが、高校では見事に巻き返した。
小6時は投手として活躍しながら、中学では「エースは他にいたし」と主に一塁手としてプレーしたが、高校ではもう一度、投手に挑戦することにした。当時はオーバースロー。「そんなにバッティングがいいわけでもなかったし、足が速いわけでもない。お父さんともいろいろ話をしてピッチャーなら努力次第で何とかなるのではないか、ピッチャーの方が試合に出られる可能性もあるんじゃないかとなったんです」。もちろん簡単なことではない。当然、ライバルも多かった。
「同級生にも投手志望は4、5人いましたし、上級生にも4、5人いるわけですからね。まぁ1年の最初はダッシュとか、ほぼほぼ走っているだけ。あとは筋トレとか、声だしとか、ほとんどそんなのしかやってなかった」と話したが、そんな中でも次第に目立つ存在になっていった。「オープン戦とか、練習試合で投げさせてもらうようになって、けっこう抑えたんですよ。それで1年秋にはベンチ入りさせてもらったんじゃないかと思います」。
チャンスをつかみ、同学年のライバルを蹴落とした。「1年(秋)でベンチに入ったのはキャッチャー1人と内野手1人と僕の3人だけでした。僕は球は速くなかったんですが、コントロールとカーブがよかったと思う」。カーブの握りは1年上の先輩に教えてもらったそうだ。「先輩のカーブがすごく曲がるんで『どうやって投げているんですか』と聞いたら教えてくれた。僕のカーブの握りは、プロでもずっと一緒。あの時の先輩のおかげなんです」。
■2年秋から背番号1…3年夏は4強進出も延長13回惜敗
1985年の2年夏は西東京大会4回戦で中大付に8-9で負けた。「その試合、途中から僕が投げていて抑えていたんですけど、最後、上級生に代わったら打たれちゃって……。みんなは『お前が投げておけばよかったじゃん』とか言ってくれるんですけど、そんなことを言ってもしょうがないんでね」。2年秋からは背番号1のエース格になったが、秋はブロック予選決勝で八王子に敗戦。1986年の3年夏は西東京大会準決勝で日大三に敗れた。
「最後の夏は不思議と甲子園に行けるような気がしていたんです。負けるという意識がなくて、絶対行けるんだろうなって思っていたんですけどね」。初戦の中野工戦はチーム全体に緊張感が漂い2-1の辛勝だったが、その後は保谷を9-0、日大桜丘を8-1、拓大一を11-4と撃破。川尻氏も調子を上げ、準々決勝の国士舘戦は2-0で「完封しました」。しかし、準決勝で力尽きた。
7回表まで日大二が3-0でリードしながらその裏に追いつかれた。延長12回に3点を勝ち越したが、その裏にまた3点を奪われ、13回にサヨナラ負けを喫した。「両方ともサードのエラーが絡んで追いつかれたんですけどね。でも全力でやっているものはしょうがないんで、ミスは」と話したが、試合後は涙が止まらなかったという。「悔しいというか、不思議な気がしました。これで高校野球が終わるのかってね」。
小6の時から甲子園に行くために、突き進んできたのだから無理はない。「涙が枯れるまで泣いたと思う。もう出ないくらいまでね。家に帰っても抜け殻のようにボーッとしていましたから。でもそれで、何かすっきりしたようにもなったんですけどね」。次なる進路は大学1本だった。「早稲田に行きたかったんですけどね」。だが、その夢が結局叶わなかったことで、川尻氏の野球人生にまた違う流れができていった。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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