突如の中継ぎ転向「嫌だった」 チーム事情に左右された選手人生、拒否できなかった通告
Full-Count / 2025年1月21日 6時50分
■元阪神・川尻哲郎氏、2年目は救援スタートでプロ初セーブも記録
またジャンプアップした。阪神低迷期のエース格だった川尻哲郎氏は、プロ2年目の1996年にキャリアハイの13勝をマークした。プロ1年目に先発ローテーション入りを果たしたが、2年目はチーム事情によりリリーフでスタート。5月中旬から先発に復帰して白星を積み重ねた。「リリーフの時に“先発やりたいオーラ”が出ていたんじゃないかと思う」。チームが2年連続最下位に沈んだ中、9月には月間MVPにも輝いた。
川尻氏はルーキーイヤーの1995年のシーズン途中から先発ローテーション入りして8勝をマークした。社会人・日産自動車時代は抑え投手。プロでも当初はリリーフで頑張るつもりでいたが、先発でチャンスをつかみ、考え方も変わった。「もう先発でやりたいと思っていました」。プロ2年目の1996年の春季キャンプも「先発の予定で調整していました」という。ところが、その流れが変わった。まさかの通告を受けた。
「キャンプも終わってからだったかな、もう突然ですよ。『セットアッパーで行くからな』って言われたんです。(1軍監督の)藤田平さんなのか、投手コーチの考えなのかは、わからなかったけど、チーム事情でセットアッパーが欲しかったんでしょうね。そっちやってくれってことで……。嫌だったけど、しょうがないですよね。やれって言われたら……」。こうして開幕はリリーフで迎えることになった。
開幕2戦目、4月6日の巨人戦(東京ドーム)では12-4の7回から先発・湯舟敏郎投手をリリーフし、3回1失点でプロ初セーブ。「それは点差があったんでね。抑えというわけではなかったんです」。その後も中継ぎでの登板が続き、4月20日の巨人戦(甲子園)では3-3の7回から2番手で登板して3回無失点。その間に打線が勝ち越してシーズン1勝目を挙げた。だが、調子は決してよくはなかった。
■2年目は13勝9敗1S、防御率3.26「チームが勝てない時によく投げていた」
2勝目は5月10日の巨人戦(甲子園)。8-7の9回に5番手で登板し、代打の福王昭仁内野手に同点アーチを浴びたが、その裏にサヨナラ勝ちし、勝利投手となった。「中継ぎは嫌だなと思っていましたね」。そんな中、5月18日の広島戦(甲子園)で先発機会が訪れた。「おそらく、先発がいなくなってきたから、じゃあ先発、みたいな感じだったんだと思う。僕からも“先発やりたいオーラ”が出ていたんじゃないですかね」。
結果は6回2失点で敗戦投手(シーズン2敗目)だった。試合は0-2。阪神打線は広島先発のロビンソン・チェコ投手に9回2死まで無安打に封じられた。「(阪神の)久慈(照嘉内野手)がヒット(二塁打)を打って(チェコの)ノーヒットノーランがなくなったヤツでしたね」。ようやくの先発もそんな形から始まった。その後も先発で3敗目、4敗目を喫したが、与えられた登板機会で精いっぱい投げ続けた。
6月14日の巨人戦(甲子園)は、6回2/3を1失点で3勝目。6月21日の広島戦(福井)はリリーフで投げてサヨナラ負けを食らって5敗目となり「負けてホント、悔しかった記憶があります」と話したが、6月27日の横浜戦(横浜)に先発して4勝目を挙げて調子を取り戻した。7月は1完封を含む3勝0敗。8月は1勝3敗と苦しんだものの、9月は8日の中日戦(甲子園)での8回1失点投球で初の2桁10勝に到達するなど、4勝1敗、防御率1.69で月間MVPに輝いた。
「ゲームは絶対つくるという自信があった。悪くても7回2失点、6回2失点くらいでは絶対抑えようと思っていた」。5月まで苦しんだのが嘘のように、チーム勝ち頭の13勝9敗1セーブ、防御率3.26の成績を残した。阪神が54勝76敗で2年連続最下位に沈んだ中で気を吐いた。「今考えると、チームが勝てない時によく投げていたのかなって気がしますね」。弱い時に勝ち星を稼ぐ男として阪神ファンを沸かせた。
1996年9月に阪神・藤田監督は途中休養となったが、川尻氏は「最初、中継ぎというのはあったけど、一番、僕を勝たせてくれた監督ですからね。すごく感謝しています」と話す。思い出いっぱいのプロ2年目となった。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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