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野球で「センスある子・ない子」は生まれつきか? 評価気にする親に伝える“真相”

Full-Count / 2025年1月21日 7時5分

野球における“才能・センス”の意味するものとは(写真はイメージ)

■少年野球の現場でよく聞く「才能ある」「センスある」の言葉の意味を専門家が解説

「あの子は才能がありそうだね」「ショートの子はセンスがいいね」。少年野球の現場で指導陣や保護者から、こんな言葉が聞こえてくることはないだろうか。親にとっては、自分の子がどう評価されているのか気になるところだが、では具体的に「才能」や「センス」とは何を指しているのだろうか。スポーツ科学・発達科学を専門とし、小学生からプロ野球選手まで幅広い年代のアスリートをサポートしている東京農業大学教授・勝亦陽一先生に話を聞いた。

「私は、“才能”と“センス”を異なるものと定義したほうが、選手を評価しやすくなると思います」と、勝亦先生はまず、野球における2つの言葉の“線引き”を明確に指摘する。

“才能”とは、生まれ持った、自分では変えることの難しい要素を指すという。たとえば、身長や筋線維組成(瞬発力に影響する白筋・速筋と、持久力に影響する赤筋・遅筋の割合)、関節弛緩性(関節の緩さ)など、遺伝子情報に大きく影響される特徴だ。スポーツ、野球では、持って生まれた身体的特徴や筋肉の質などが“才能”と称されることが多い。

「私たちは生まれた時から筋線維組成が決まっていて、基本的には大きく変えることができません。マグロの赤身が白身になることがないように、五輪の100メートル走で優勝したトップスプリンターが、マラソンで優勝するのは現実的に難しいのは、持って生まれた筋線維の割合が違うからです」

 筋線維組成は遺伝的な要素が強く、トレーニングによってある程度の変化は可能でも、根本的に変えることは難しい。この「変えられない」要素の最たる例が身長だ。野球の投手は背が高い方が有利と言われるが、「あと20センチ、背を高くしたい」と思っても、叶えられるものではない。恵まれた体格とよく表現されるが、それは生まれつきとか、運良くもたらされたものとも言える。


野球のセンスは「主体的行動」によって磨かれる(写真はイメージ)

■“才能”と違って“センス”は「伸ばせる」…その鍵は主体的行動

 一方、“センス”は異なる。勝亦先生の定義によれば、「目や耳などの五感で知覚・認知した情報を脳で処理し、状況や目的に応じて適切な行動を選択・実行できる能力」を指す。因果関係(コツ)を理解して行動する力や、興味のあることを探求する力、必要な情報を取捨選択する力なども含まれるという。

 では、野球における“センス”とは具体的に何か。

「試合の状況や展開を整理して判断・行動することです。“センスが良い”選手は、アウトカウントや走者の位置といった複数の状況を理解し、ボールが来た時に瞬時に適切な判断とプレーができます。一塁へ送球するのが基本でも、状況によっては三塁へ投げた方が良い場合があるように、野球では、数ある選択肢の中から適切なプレーを選択・実践する能力が必要です」

 そして重要なのは、“センス”は“才能”と違って「伸ばすことができる」という点だ。そのためには、「主体的に行動することが鍵」だと勝亦先生は指摘する。誰かに言われてやるのではなく、自分で考えて、意図を持って判断・行動する。そこで成功と失敗を積み重ねていくことで、適切な判断・行動ができる、つまりは“センスの良いプレーができる”ようになっていく。

 さらに、競技内容や体のメカニズムへの深い理解や、自ら課題を設定し解決していく意志、技術・体力を磨いていく向上心などによってセンスは磨かれる。その過程で培われる思考力や探究力は、野球だけではなく、普段の生活や勉強においても子どもたちの力になる。

 学童野球はとかく監督・コーチの“押し付け指導”になりがちだが、それでは子どもたちの“センス”は磨かれず、将来につながりにくいともいえるだろう。


東京農業大の勝亦陽一教授【写真:伊藤賢汰】

■「勉強ができることも野球が上手くなることも、基本は同じ」

 現在、学校教育の現場では「アクティブラーニング」や「探究学習」が重視されている。目まぐるしく変化する時代を生き抜くために必要な、自ら課題を見つけ、主体的に学ぶ力を養うためだ。勝亦先生が指摘するように、少年野球で主体的な行動経験を積むことができれば、“センス”が磨かれるだけでなく、「生きる力」を育む絶好の機会となり得る。

 たとえプロ野球選手になれなくても、この過程で育まれた力は必ず将来の財産となる。確かに才能に恵まれた“天才”は存在するが、活躍している天才の多くは、センスを磨く努力を続けている。

「勉強ができるようになることも、野球が上手くなることも、基本的な部分では同じです」と勝亦先生。“センス”はあらゆる分野に通じる。保護者や指導者は「才能」「センス」の違いを理解して、子どもの成長過程全体を見守っていくことが大切だ。(大橋礼 / Rei Ohashi)

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