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遠征先に1人残って「連夜の大暴れ」 朝7時まで痛飲も…阪神右腕がまさかのノーノー

Full-Count / 2025年1月23日 6時50分

元阪神の川尻哲郎氏【写真:山口真司】

■元阪神・川尻哲郎氏は4年目にノーヒットノーラン含む10勝5敗、防御率2.84

 背番号が19に変わったシーズン、プロ4年目での偉業だった。元阪神の川尻哲郎氏は1998年5月26日の中日戦(倉敷)で、史上66人目のノーヒットノーランを達成した。「1勝は1勝なんですけど、やっぱりちょっと意味合いが違う1勝でしたね」。何とその日の朝7時まで痛飲して臨んだマウンドでもあった。試合中の“緊急事態”における球団トレーナーからのアシストも大きかったという。

 プロ4年目の川尻氏は25登板、10勝5敗、防御率2.84の成績を残した。阪神が最下位に沈んだ中、11勝を挙げた藪恵壹投手とともに2桁勝利をマークして背番号19の存在感を見せつけた。中でも光ったのは5月で4勝0敗、防御率1.54で月間MVPを受賞。シーズン3勝目となった5月26日の中日戦ではノーヒットノーランを成し遂げた。「9回はやっぱり自分の中でもやらないといけないな、こんな機会そうないだろうって思っていましたけどね」。

 阪神は2回に新庄剛志外野手の適時打と川尻氏のスクイズで2点。それを1安打も許さずに守り切った。110球。コーナーをうまくつく緩急自在の見事な投球だった。奪った三振は初回先頭打者の李鍾範内野手からの1個。2四球と失策の走者を出しただけで投げ切った。「2-0だったんでね。野球の怖さってあるじゃないですか。1点、2点、3点なんて、ちょっとしたことでガンといっちゃうのはわかっているから、ホント一人一人っていう感じでしたね」。

 その日は朝7時まで岡山市内で飲んでいたという。「地元では行かないんですけど、地方に行くとね……。まぁ、朝まで飲んだのは何回もないですけどね。あの時は(熊谷組出身の)中日の遠藤(政隆投手)ともう1人。社会人つながりっていうのがあるから『どっかで飲みに行こうぜ』みたいな話をしていて連絡をとったら『じゃあちょこっと行こうか』って。そしたら楽しくて朝までになっちゃった。阪神の選手もいましたよ。みんなは先に帰っていましたけどね」。

 川尻氏は笑みを浮かべながら、懐かしそうに話した。「朝に帰っても(ナイターなので)そこから6、7時間は寝られるんで、全然余裕かなと思っていましたね。まだ若かったんでね。ちょっと汗をかくと、すぐOKみたいな、まぁ、それも30(歳)までですけどね。トータルで見ると、あんまりそんなことをやり過ぎていると選手寿命が短くなるだけですけどね。あの時は汗をかいたら、体がスッと軽くなったのは覚えていますよ」。

■リベラとのキャッチボールで「痛ぇなって。そこらへんから目が覚めた」

 キャッチボールはベン・リベラ投手と行った。「リベラの球は重くて、角度があって、痛ぇなって思いましたね。そこらへんから目が覚めたような……。ホントにもうそんな感じでしたよ。汗をかいてブルペンに入ったら、まぁまぁ思ったところに、ほぼほぼいっていたんですよ。それで調子は悪くないなっていうのは思っていたんですけどね」。そんな形で始まった試合でノーヒットノーランを達成した。

 加えて「(トレーナーの)常川(達三)さんのおかげ。それはかなりありますよ」と言う。「僕はイニングの合間に1本、タバコを吸うんですけど、7回頃だったかな、1本吸ったらタバコが切れちゃったんですよ。あ、タバコが、なんて話をしていたら、常川さんが『俺が買ってきてやる』と言ってくれた。球場には自動販売機がなかったんで、試合中に外まで買いに行ってくれたと思います。次の回にはタバコがありましたから。ダッシュで行ってくれたんじゃないですかね」。

 川尻氏にとって、その一服はルーティンだった。「僕のリズムだったんでね。フォームが崩れる、コントロールが悪くなる、打たれる、というのは精神的なものから全部来るわけですから。あの頃はタバコを吸っていても特に何か言う人もいなかったし、みんなもけっこう吸っていましたからね」。もしも一服なしでマウンドに上がっていたら流れも変わっていた。だからこそ“いつもの状態”をキープしてくれた常川トレーナーに大感謝しているわけだ。

 最後は中日・神野純一内野手をスライダーで遊ゴロに打ち取ってゲームセット。「(阪神から中日に移籍した)久慈(照嘉内野手)に代打で神野だったけど、久慈がそのままだったら、打たれたかもしれない。だって久慈はそういうのを崩す男なんですよ。(1996年5月18日に広島のロビンソン・)チェコのノーヒットを9回2死から阻止したり、そういう星を持っているんです。久慈とは今もそんな話をするんですけどね」とも話したが、実に見事な快挙だった。

「ノーヒットノーランは運もないとできないことですからね。1勝は1勝なんだけど、やっぱりちょっと意味合いが違う1勝という感じはします。ちょっとしたご褒美みたいなね」。その日の夜は祝杯をあげた。「次の日は休みでいいよって言われていたし、岡山で連夜の大暴れみたいな感じでした。チームはバスで帰って、僕だけ(岡山に)残ったんですけど、テレビ局の人とかもいたし、ファンの人も来て、花とかをもらったりしてね」。またまた大盛り上がりの宴だったようだ。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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