創部102年で甲子園初切符…亡き恩師は「いつもどこかにいる」 受け継いだ“お守り”と金言
Full-Count / 2025年1月26日 8時10分
■千葉黎明・中野大地監督にとっては“お守り”の品
千葉黎明が創部102年目にして重かった扉に手をかけた。24日に行われた選考委員会で春夏通じて初の甲子園出場が決まると、中野大地監督は声を震わせた。選手や保護者の顔を見た時「ちょっと込み上げてくるものがありました」。目には光るものが確かに見えた。だが、指揮官はスーツのポケットの中にあるハンカチに手を伸ばさずに、その場を耐え、言葉を紡いだ。
中野監督は千葉県出身。拓大紅陵時代に1年時の2002年夏と3年時の2004年春に甲子園出場。明大から社会人野球の日産自動車、JEF東日本でプレー。会社員から2021年12月に千葉黎明の監督に就任した。昨秋の県大会で初優勝し、関東大会では準々決勝で2023年の選抜Vの山梨学院に快勝。堅守と継投策を武器にベスト4進出して、この日、吉報が届いた。
指揮官の言葉には、深い感謝と決意が込められていた。「今、野球をできる環境があるのは、歴代の先輩方や、そこに携わってくれた指導者の方々が居られたから」と選手には常々、近隣地域の方々をはじめ、これまで野球部や自分たちの野球人生に関わった人に感謝の気持ちを忘れないでほしいと伝えている。「力を尽くしてくれた指導者の方、またその当時の選手たちの思いをしっかり背負って戦うべきと思っています」と約100年の歴史を力に変えて、戦いに出る覚悟をにじませた。
自分自身の野球人生に目を向けると、今も鮮明に残る記憶がある。拓大紅陵で捕手だった時代、名将・小枝守氏から野球の深さを学んだ。小枝氏は日大三高や拓大紅陵高の監督を歴任し、甲子園に春夏通算10回出場。2016年から2年間、U-18侍ジャパンの監督を務めた。しかし、2019年1月に他界。あれから7年が過ぎた。命日に中野監督は墓前に手を合わせ、思いを馳せていた。
甲子園出場を決めた千葉黎明【写真:編集部】
■「勝ちは知るべくして、為すべからず」の真意とは
人としての生き方まで徹底的に教わった日々が甦る。「小枝監督のようにはなれないのですが、監督という立場になった(小枝氏の存在は)いつも私のどこかにいます」。
中野監督は約20年前のミーティングで授かった金言を子どもたちに伝えている。
「勝ちは知るべくして、為すべからず」
勝つためには必ず理由がある。勝ちたいと思っているだけでは、それを手に入れることはできない。『孫子の兵法』でも記され、考え抜かれた戦略のひとつでもある。勝利を目指すなら、しっかりと準備をする必要があるという意味だ。
それを高校野球に置き換え、言葉は受け継がれている。中野監督は小枝氏から勝利するためには環境づくりが不可欠で、練習や生活から見直し、そして“勝てる動き”が必要だと教わった。
勝てる動きは技術的なことではない。「勝ちたいと思うだけで、勝てるほど野球は甘くないんです。勝てる環境を自分でまず作ること、生活であったり、相手を思いやる気持ちだったり、そういうところ。スポーツマンシップの精神、攻守交代や日頃のあいさつひとつとっても意味がある」と説いている。
堅い守備や細かい戦術で勝利を奪うチーム戦略も小枝野球と重なる。卒業後も小枝氏主宰の勉強会や自宅でずっとその野球観に触れていたそんな姿を見ていた小枝氏の妻・弥生さんからは遺品としてハンカチやタオル、ネクタイを受け取った。中野監督は千葉黎明の公式戦で必ずハンカチをポケットに忍ばせ、タオルはベンチに入れて戦ってきた。恩師が10度も立った甲子園が決まる日も、中野監督はスーツのポケットに大切にしまっていた。
高校野球の一時代を築いた恩師の精神は今、中野監督を通じて千葉黎明の選手たちに息づいている。そして100年を超える歴史と地域の願いを胸に、新たな挑戦が始まる。受け継いだハンカチに涙を含ませるのは、甲子園のベンチまでとっておく。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)
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