『彼らが本気で編むときは、』荻上直子監督インタビュー「トランスジェンダーと言っても、その境界線は幅広く本当に人それぞれ」
ガジェット通信 / 2017年3月3日 15時0分
生田斗真さんがトランスジェンダーの元男性役を演じた映画『彼らが本気で編むときは、』が現在大ヒット上映中です。
本作は『かもめ食堂』の荻上直子監督が5年ぶりにメガホンをとり、荻上監督のこれまでの作品とは異なる魅力を持った傑作ドラマ。多くの人が劇場に訪れ、押し付けずに考えさせられる暖かな人間ドラマに感動の声があがっています。
荻上監督のインタビューでは、本作を撮ろうと思ったきっかけや、監督が感銘を受けたという親子についてなど、色々とお話を伺ってきました。
【ストーリー】
11歳の女の子トモは、母親のヒロミと2人暮らし。ところがある日、ヒロミが育児放棄して家を出てしまう。ひとりぼっちになったトモが叔父マキオの家を訪ねると、マキオは美しい恋人リンコと暮らしていた。元男性であるリンコは、老人ホームで介護士として働いている。母親よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いを隠しきれないトモだったが……。
―映画大変楽しく感動して拝見させていただきました。まずお聞きしたいのが、リンコさん役に生田斗真さんを起用した件なのですが。
荻上:もうそれは「美しいから」です。
―「美しい」その言葉以上の表現が無いほど、本当に美しかったです。
荻上:「女の子のなりたい」息子にニセ乳を与えた母親の新聞記事に目が留まり、それがこの映画を作るきっかけになっているんですが、そのトランスジェンダーのお嬢さんがとても綺麗な方だったので、女の子にしたときに綺麗になりうる人にお願いしたかったのです。
―でも「美青年」って実はシャープな顔・体つきなので女性の格好が似合わない、という難しさもありますよね。
荻上:そうそう、きれいな男の人=きれいな女の人、じゃないんですよね。生田さんにお会いしたら、顔は綺麗なんですけど、意外とがっちりしていて、どうやって女の子に近づけるかは、最初はすごく大変でした。彼がスカートを履いたところで、やっぱり“男”なんです。
―そこをきれいなリンコさんにするのに一番工夫した点は何でしょうか?
荻上:まずは女性らしい所作です。「そんな飲み方じゃダメだ」とか「そんな歩き方ダメだ」とか、皆で言う事もあったんですが、何人からも言われちゃうとそれぞれの女らしさで混乱しちゃうから、指導する人は最初から1人にして。歩き方も、完全に習得するまで本人もすごく苦労して、休み時間もスカートを履いて慣れてくれたりしていました。後は、衣装やメイクです。男性が女性になる、というとどうしても色の明る過ぎる服を着せたり、髪の毛はロングで! みたいな、ステレオタイプな表現になりがちで、今回も最初は長い髪の毛のエクステンションを試していました。けれど、そうするとどうしても水商売っぽいというか、不自然になってしまう。最終的に、黒髪のショートヘアに落ち着きましたが、女性らしさというのは、見た目以上に中身からにじみ出るものだと改めて思いました。
後は、私が作り上げるリンコさんを見て、トランスジェンダーの当事者の皆さんがイヤな気持ちになってしまうのが一番困る。トランスジェンダーの女性と言っても、その境界線は幅広く、本当に人それぞれですから。
―そもそも本作と撮ろうと思ったきっかけはどんな事があったのでしょうか。
荻上:この映画は5年ぶりの作品となるのですが、その5年の間に、出産をしたり、アメリカで1年間暮らしたりしていました。その間ずっと映画を作りたいと思っており、脚本を書くんですけど、なかなかうまく成立しなくて。スランプに陥ったりしました。
アメリカでは日常的にレズビアンやゲイの人たちと出会うのに、日本に帰ってくると、途端にセクシュアル・マイノリティの人たちに出会う機会が減ることにも、不自然さを覚えていました。テレビでは毎日、人気者のおネエの皆さんが活躍しているのに、何か違和感があるというか。そういう時期に新聞で、“ニセ乳”の記事を読んで。
―劇中に出て来た“ニセ乳”というのは実話なのですね。
荻上:そうです。それで会いに行って、色々とお話を伺いました。
―確かに、なかなかそんな事出来るお母さんっていないと思います。愛情はもちろんあるし、でもどうしようか悩んで、自分も辛い、という方が多いのでは無いかと想像します。
荻上:最後まで娘さんには会わなかったんですよ。私にとっていちばん大事だったのは、お母さんの立場からのお話だったので。
―本作ではトランスジェンダーというのはもちろん大きなテーマであると思うのですが、でも乱暴な言い方かもしれませんが「説教臭い」とか私は感じなかったんです。一つの暖かい家族のお話として観れたというか。
荻上:私も20代の時にアメリカでたくさんでゲイやレズビアンのカップル、夫婦と会いましたが「受け入れる」とか「理解する」という感じでは無くて自然とすっと仲良くなれたんですよね。だから、この映画で「社会を変えるぞ!」とかそういう事では無く、「親子の関係」を描いた作品として楽しんでいただければ嬉しいです。
―今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
第67回ベルリン国際映画祭
「テディ審査員特別賞」「観客賞(2nd place)」ダブル受賞!
(パノラマ部門、ジェネレーション部門 正式出品作品)
『彼らが本気で編むときは、』
2017年2月25日(土)、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー!
脚本・監督:荻上直子
出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、りりィ、田中美佐子ほか
配給:スールキートス
(c)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
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