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ゲームプログラマが語る ソフトやアプリと携帯ゲーム課金における経済行動学

ガジェット通信 / 2012年2月4日 15時0分


そうした厳密な区分や表現が定められているわけではないが、便宜上、“ゲームソフト”を『ニンテンドー3DS』や『Play Station 3』などに代表されるようなハードへ向けたソフトや、いわゆる家庭用ゲーム向けソフトを指す表現とし、“ゲームアプリ”を『iOS』などを対象としたスマホ用アプリとする。
近年、2極化の進むゲームソフトとゲームアプリ市場。ゲームソフトの売り上げ減少や低迷が聞こえる反面、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるソーシャル系モバイルゲーム群があり、日々生まれは消えていく大量の超低価格のゲームアプリたちが拍車をかけている。あふれるゲームコンテンツ群の中から“ある1本”を選ぶ際、人々の意識に働く経済行動学とは一体どのようなものだろうか。
例えば、ゲーム購入のためにクレジットカード番号を入力しようとする心理的労力。5000円のソフトと、100円のアプリにおけるそれにおいては、後者のほうが入力しづらい。5000円のゲーム購入を決めたそのコンテンツの魅力や決心の大きさは、クレジットカード利用不安の払拭に大きく役立つが、100円のアプリではその力が弱く、「面白そうだけれども、わざわざカードを使って買うほどではない」という想いがカードを利用して購入するのを躊躇(ちゅうちょ)させる原因の一端となり得るからだ。
インターネット上にてクレジットカードを用いるという行為に対し、潜在的に個人情報などへのセキュリティ不安がつきまとう面が未だ根強く存在している。それは5000円のゲームでも100円のアプリでも同様であるが、この段階では、そのリスクに対し得られる価値が購入価格に単純比例するであろうという先入観により、100円のアプリをクレジットカードで購入しようとする際には、より強い心理ブレーキがかかる。
反面、これが店頭での現金決済における場合には事情が一転する。もしも100円のアプリが店頭販売されているならば、100円玉1枚をジュースの自動販売機へ投入するように支払うことは気軽かもしれないが、実際に財布から1000円札を“1度に5枚”取り出し、ゲーム購入のために支払う心理的原動力へのコストは大きい。
これらの販売モデルに対し、『モバゲー』や『GREE』に代表される課金型簡易ゲームコンテンツにおいて、その集金の仕組みは実に効率的だ。この仕組みのポイントは、主とする対象プラットフォームがいわいるガラケーと呼ばれる一般携帯電話契約にもとづいており、アプリ購入金やゲーム内部の課金要素にかかる費用が携帯電話利用料金と一緒に請求される。このことが非常に大きな意味を持つ。今や国民総携帯電話時代であり、その利用料金に組み込まれるという形が彩る“お手軽感”は実に圧倒的だ。
こうして3者3様に並べてみると、各コンテンツメーカー群の意識と戦略の違いが見て取れるだろう。昔ながらのゲームソフトにおける販売戦略に大きな変化はなく、パッケージとしてある程度まとまった金額が設定されるが、そのぶん内容は充実させなければならない。対極に100円のゲームアプリなどがあり、安価である代わりにそのボリュームもある程度限定的だ。昨今流行の課金型モバイルゲームなどに関しては、最早“ゲーム”とは似て非なるジャンルであるといって良く、技術的な映像美や深いゲーム性などという物には重点が置かれていないことが多い。純然たる収集意欲や簡易対戦が演出する刺激要素などが、そのコンテンツの全てであるともいえる。
これらは、各パターンにおける“財布のヒモのゆるめさせ方の違い”と置き換えることもできる。
果実店で例えてみよう。果実店の商品棚中央に威風堂々たる大きなメロンを置き、値段は張るけれど味は保証しますよとアピールする。その前面には、1粒100円のサクランボを大量に並べる。一方、表のワゴンには“当たりが出たら豪華ドリアン10キロプレゼント1回100円”というクジが山と積まれている。そして、このクジ引き代金100円は、携帯電話料金と一緒に引き落とされ、客は財布を取り出す必要がない。
こうなるとワゴンはにぎやかだ。やれミカンが当たっただとか、やれドリアンが出たと活気のある人々に興味を引かれ、背中を押された新客が「ちょっとやってみるか」と次から次へと足を止める。かばんから取り出してすらいない財布のヒモは、本人も気がつかずにゆるめられているわけだ。こうした行動学は心理学と密接しており、市場動向へ大きな影響を与えることが通例だ。
「実はドリアンが当たってもうれしくはなかった」
何千円も使って初めてそう気がつく人々は、食傷気味に100円のサクランボを摘みながら去っていくか、最初からこれを買えば良かったとメロンに想いをはせることになる。
こうした心理的結果をあらかじめ予想している客や、そもそもドリアンや他のものが当たる仕組み、ミカンが当たったなどと横の客へ自慢することに興味がない人々は、始めから店内に入りサクランボやメロンを品定めする。
サクランボを1粒だけ食べれば満足する人にとり、色や形の異なる様々な粒を目で見て選べるその棚は魅力的に映ることだろう。しかし、そのサクランボ1粒をクレジットカード決済することにはとまどいがあるわけだ。サクランボに関しては、現状、現金決済する方法に乏しいか、あっても面倒だ。店頭パッケージ販売が主流となるゲームソフト、つまり奥にあるメロンは、現金でもカードでも支払いが可能だが、高額だ。
コンテンツそのものの内容はもちろん最も重要な要素であるが、その眼前にはこうした販売形態事情が立ちはだかり、経済行動学となってその購入意志決定に至る思考回路へ大きく干渉する。
現代のゲーム制作販売においては、その形態がゲームソフトであるか、安価のゲームアプリであるか、はたまたモバイルゲーム課金であるかといったことを含めたうえで、どういった形でユーザーに届けるのかという点も深く考慮しなければならない。そのうえでどういったゲームをつくり上げるのか、ユーザーの持つ経済行動学に沿った総合設計が求められる時代であるといえる。
これからゲームを選ぶ方々は、そのゲームが面白そうであるかという点はもちろんであるが、そのゲームが“買いやすい”形になっているかという点にも注目してみるのも一興かもしれない。手がけた作品をユーザーに届けるため、その導線を多く持っている形にもきちんとこだわっているメーカーは、さてどこだろう。
画像:Apple Store (Japan)『iTunes Cards』サイトより
http://store.apple.com/jp/browse/home/shop_ipod/itunes_cards
※この記事はガジェ通ウェブライターの「Team Dyquem (ディケム)」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
本業はPS3やXBox360等の次世代機ゲームプログラマと文筆業に勤しみながら、趣味のiPhoneアプリ作成に心酔しているアラフォー、TeamDyquemで御座います。Teamとは言っても独り開発。カタッ苦しい事は抜きの心和むアプリを提供させて頂きながら、SFと技術情報を日々綴ります。


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