最後の最後まで驚き翻弄される……世界中の観客の度肝を抜いたサスペンス『エル ELLE』
ガジェット通信 / 2017年8月22日 17時0分
『ロボコップ』の、『氷の微笑』の、『トータル・リコール』の、と言わずとも、映画ファンならその名前を聞いただけで新作を期待せずにはいられない、オランダの鬼才監督ポール・ヴァーホーヴェン。数々の巨匠の作品に出演し、圧倒的な演技力と唯一無二の存在感で次々に賞をものにしてきたフランスを代表する大女優、イザベル・ユペール。その二人が初めて手を組み、世界中の観客の度肝を抜いた驚きのサスペンス映画、『エル ELLE』が8月25日より遂に公開されます!
戦慄の事件が起きたのは、まだ陽が射すある日の午後、静かな住宅街にある一軒家。その家に一人で住む、ゲーム会社の協同経営者のミシェル(イザベル・ユペール)は、いきなり押し入ってきた覆面の男に暴行されます。しかしミシェルは警察に通報もせず、訪ねてきた息子ヴァンサン(ジョナ・ブロケ)にも怪我の理由を偽り、なぜか真実を隠します。その後ミシェルの元に、謎の嫌がらせメールが届き始め、職場でもある事件が発生するのですが、かたくなに警察に届け出ようとしない理由は、ミシェルの複雑な過去に関係していたのです。
ヴァーホーヴェン監督といえば、その独特で容赦ない暴力描写に定評がありますが、本作のオープニングシーンは、それが何よりも卑劣で許しがたい犯罪であり、被害者が心身ともにどれだけ傷つくのかということを、わずかの時間で雄弁に物語っています。そんなショッキングな映像で、ミシェル同様にいきなり頭をガンと殴られた観客は、その後に待ち受けるまさかの展開に、最後の最後まで驚き、そして翻弄されることは間違いありません。
この映画の原作で、本国フランスで14万部を突破したというベストセラー小説、フィリップ・ジャン『エル ELLE』(松永りえ訳/ハヤカワ文庫)も映画にあわせて刊行されました。著者のジャンは1986年の大ヒット映画『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』の原作者としても有名です。今回の映画はほぼ原作通りに作られましたが、主人公の職業を変え、犯人探しのミステリ要素が増やされていたり、息子の彼女の設定にもある工夫がされていますが、このキャラは原作の方がはるかに強烈だと言っておきます。
映画化が成功した最大の理由は、ユペールを主人公に選んだことでしょう。今年のアカデミー賞主演女優賞は惜しくもノミネートで終わりましたが、ゴールデングローブ賞、フランスのセザール賞他、この役で世界各国のたくさんの賞を受賞しました。ミシェルという女性にふりかかる、ありとあらゆる不幸、災難、厄介ごとの数々。それらに屈せず、仕事も、恋愛も、倫理観も、自分の思うがままに自由に生きているミシェルを、ユペールは凄まじいまでの女優魂で演じきっていて、一瞬も目が離せません。
加えて、彼女が着こなすシックでゴージャスな装いも見どころの一つです。ヴァーホーヴェン監督は、監督自身が作品を解釈する必要は全くない、というスタンスを常にとっており、本作でも、そのあまりに複雑な主人公像を、あえて理解したり共感されようと型にはめることはしていません。ユペールが読んですぐにミシェル役をやりたいと切望した原作は、彼女の心の葛藤や、封印された過去、周囲の人々との複雑な関係性などが細やかに描かれています。衝撃のラストは、映画と原作ではちょっと違った印象を受けるのではないでしょうか。どちらが先でも、その面白さが半減することはありません。ユペールの凄みと小説の罠、ぜひ両方ともお楽しみください!
【著者プロフィール】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、月刊誌「本の雑誌」、「映画秘宝」等で執筆しています。
『エル ELLE』
(C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINEMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
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