「映画作りのタブーはまだ発見していません(笑)」 実在の仰天オヤジを描く『オレの獲物はビンラディン』ラリー・チャールズ監督インタビュー
ガジェット通信 / 2017年12月15日 21時0分
アメリカを愛しすぎるあまり、「ウサマ・ビンラディンを捕らえよ」という神の啓示を受け、日本刀片手に単身パキスタンへ乗り込んだ一般市民ゲイリー・フォークナー。実在するこのトンデモオヤジを、『ボラット』や『ブルーノ』など、タブーすれすれ(いや、アウト?)な作品を手掛けてきたラリー・チャールズが映画化したというのだから、とんでもない映画になっているんじゃないかと思ってしまう『オレの獲物はビンラディン』。いよいよ12/16より日本公開となります。
ラリー・チャールズ監督が長らくタッグを組んできた俳優といえばサシャ・バロン・コーエンですが、今作ではなんと主演にニコラス・ケイジを起用。主演作が一年に何本も公開されるほど多作のニコラスでも、「こんなニコラス・ケイジ観たことねえ!」と思わせるような新しい演技を見せ、新境地を開拓しております。
そんな今作のラリー・チャールズ監督にインタビュー。実際のゲイリー・フォークナーとはどんな人物なのか? ニコラス・ケイジの仕事ぶりは? 色々質問をぶつけてみました。どうぞお楽しみください!
ラリー・チャールズ監督インタビュー
――ゲイリー・フォークナーという人物の存在は日本でほとんど知られていないと思います。アメリカでは一体どういう見方をされている人物なのでしょうか?
ラリー・チャールズ監督:誰も彼のことなど大して気に留めていないと思います(笑)。非常に小さなカルト的な存在で、いわゆるメインストリームからは見えていない存在なんです。私も彼のことは全く知りませんでしたが、彼について書かれた記事を読んで、とても興味を持ちましたね。いま彼はおそらく身を隠していると思いますよ。タリバンとかアルカイダとかから追われていると本気で信じているので、公衆の目から逃れているんじゃないかと。
ゲイリーは、変態的な意味でのアメリカンヒーローだと思うのです。非常に混乱していて、神の声を聞いたと信じていて、パキスタンがどこかも知らないのにものすごい使命感とやる気に満ちていて。ある意味、アメリカそのものです。なので、ゲイリーの映画を作れば、自然とそこからアメリカそのものについても語れると思いました。
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――映画を作るにあたって、実際のゲイリーさんに会ってみる機会はあったのでしょうか。
ラリー:ニック(ニコラス・ケイジ)と一緒にラスベガスに行ってゲイリーに会い、インタビューをしました。とてもチャーミングで、魅力にあふれた人だなという印象です。ただ、ゲイリーは一旦話し出すと止まらなくなってしまうので、結果としてインタビューは6時間くらいかかってしまいました。インタビュー中にあったエピソードを教えましょう。最初の質問が「9.11の時に何をしていましたか?」というものだったのですが、彼はそれについて1時間くらい延々話していたのだけれど、1時間後にもう一度「で、結局9.11の時に何をしていたか?」と聞いてみたら、「あ、寝てた」と答えたんです(笑)。
――ニコラス・ケイジにこんな意外なハマり役があったなんて!という驚きがありました。監督からはどういう演出をしたのでしょうか? ニコラスさんからのアイデアはありましたか。
ラリー:ニックとはすごく協力的なプロセスを踏むことができました。ふたりで揃ってゲイリーに会い、お互いに色んなアイデアが浮かびました。ゲイリーの外見や声の出し方、どのように演技したらいいのかということについて色々話し合いをしましたね。ニックの役の解釈というのはほとんどシェイクスピア的な解釈だったと思うんですが、ある部分はすごく大げさに、ある部分はすごくニュアンスや陰影をつけ、ある部分ではもっと違う次元の深みを与えたり、ある部分をすごく表面化したりというようなことをしていたと思います。ゲイリーのキャラクターは、スタイルをしっかり作ったものにしつつ、正直なキャラクターにしたいと思いました。ゲイリー自身、実在の人物ですがシュールな存在であり、大仰なところがあります。それは活かすようにしました。
――監督から見て出来上がったキャラクターの印象はいかがでしたか。また、ニコラスさん自身はどんな反応をしていましたか。
ラリー:私は称賛の気持ちでいっぱいでした。すごくリスクの高い、綱渡りのような役だったと思うんですが、私がやったことは安全網を提供することだったんです。それによってニックが安心してもっとリスクを取れるような状況を監督として作ったつもりです。ニックは過去にコメディの役をやったことがあって、非常にオリジナル性の高い役を演じていましたが、今回はその延長線上にあるような感じがします。ニックは役に頭から飛び込んでいくタイプの役者で、知的に理解するというよりはゲイリーになりきって突っ走るというところがあると思うんです。水中に飛び込んでゲイリーになりきって、息が付かなくなって息をするために水面に上がってきた時にはもう撮影が終わっているという感じだと思います。
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――ゲイリーさんは完成した今作を観ているんでしょうか?
ラリー:彼が観たかどうかも知らないんですよね。今は彼の連絡先が分からない状況ですが、最後に会ったのがその6時間のインタビューを撮った時です。この映画はそのインタビューをかなり基づいているところがあると思いますが、それ以降会っていない理由というのは、彼が見たバージョンの映画にしなければならないという義務感を感じたくなかった。自分なりの見方で彼の物語を作りたかったので、ゲイリーに周りにいてほしくなかったというのもあります。
――実話を映画にする上で、描く部分と敢えて描かない部分が生まれてくると思いますが、今作ではどういう取捨選択をしていますか?
ラリー:今回の映画ではドキュメンタリーを作っていた訳ではないので、色んなルールや方式を破って爆発させたところがあります。例えば神様というキャラクターが出てきた時点でこれはファンタジーか寓話なのか曖昧になってくると思いますが、“あくまでも映画である”と観客に意識させるようにしています。クレイジーで色んなルールを無視して作っているむきはありますが、同時に、観ている人が映画のストーリーの中に身を投じさせつつ、自分なりに「どうなんだろう」と考えたり、距離も持てるようにしたいと思いました。色んなものを合成させて作っていますが、思うに、真実というものは実話を超越すると思っているので、そういう風に作ろうと思いました。
――撮影中の印象的なできごとやハプニングがあれば教えてください。
ラリー:パキスタンのシーンをモロッコで撮ったので、モロッコでかなり撮影をしたんですが、そこで奇妙な経験をたくさんしました。モロッコというのは穏やかなイスラム教の国ですが、ゲイリーというのは映画の中で反イスラム的なユーモアをやっていて、彼自身反イスラム的な考えを持っているにも関わらず、結果的にすごく楽しい撮影になりました。『ボラット』の時のように本当に低予算で作ったんですが、ギャングの一団みたいに本当に映画を盗みながら作っていて楽しかったです。
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――これまでサシャ・バロン・コーエンとともにかなり強烈な人物を描いた映画を作ってきていますが、その経験が今作に活かされている部分はありますか?
ラリー:役に立ったと思います。フィクションとドキュメンタリー、真実とリアリティといったものの境を曖昧にやってきましたが、一体どこが真実なのか指摘しにくいと思うところがあると思うんです。『ボラット』でも『ブルーノ』でもそうですが、あのキャラクターはフィクションなんですが、周りにいる人たちは本物で、あそこで起こっていることは本当なんです。撮っている時にボラットが質問したりすると聞かれた人は「え、これはリアルなの?」っていうんです。それで私は「うん、リアルだよ」と答えるんですが、本当はリアルではないけれどそれは言いません。こういう映画を作ったことで色んなルールを壊していい、ジャンルをはっきりさせなくてもいいという自信が持てたので、ジャンルにこだわらずに新鮮なものを作るという経験ができた自信が、この映画を作る上でも役に立ったと思います。
――監督自身、映画製作における“自分の中のタブー”というものはあるのでしょうか。
ラリー:今のところまだ発見していませんね(笑)。
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『オレの獲物はビンラディン』
12/16より、シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
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