映画レビュー:ひとつの憎しみが何を生み出し何を破壊するのか? 実在の暴動事件を描く『デトロイト』
ガジェット通信 / 2018年1月29日 17時0分
今、観てよかった。映画を観て、そんな風に思ったことがありませんか? 現在公開中のアメリカ映画、キャスリン・ビグロー監督最新作『デトロイト』は、まさに今、日本でもできるだけ多くの人に観てほしい作品です。
舞台は1967年のデトロイト。地元で生まれたモータウンサウンドがヒットチャートを賑わし、黒人アーティストの人気は全国的に広がっていましたが、白人住民たちは黒人へ根拠のない恐怖感をいだいていました。警官たちのほとんどを白人が占めるデトロイト市警も例外ではありません。ある夏の夜、若い黒人男女が開いたパーティに大勢の警官が踏み込むという事件が発生しました。その不当な仕打ちに怒りを覚えた黒人市民たちが起こした暴動は規模を拡大。武装した警官たちと怒れる住民たちの間に緊張が高まる中、怒り、暑さ、ストレス、焦り、そして恐怖にかられた一人の青年が放った一発の銃声が、恐ろしい惨劇をひきおこしてしまいます。
繋がれた獰猛な狂犬のように武器を手にして待ち構えていた市警の警官ら数人は、その銃声で解き放たれ、現場と思われるモーテルに突入します。たまたまその場にいあわせたミュージシャン志望の青年たち、ベトナム帰還兵、そして遊びに来ていた白人の少女2名を含む若者らは、無実にもかかわらず、黒人へのあざけりと憎しみを隠さない警官クラウス(ウィル・ポールター)たちに凄まじい尋問を受け、想像を絶する戦慄の一夜を体験するのです。
実際の事件をもとに入念な取材を重ねて作られたこの映画は、現場で何が起きたのかを圧倒的な緊張感と迫力で描いています。アカデミー賞を受賞した『ハート・ロッカー』、続く『ゼロ・ダーク・サーティ』で、観客に鮮烈な記憶を焼き付けたビグロー監督と脚本家マーク・ボールが再度組んだ本作は、「一体なぜ」「どうしてこんな酷いことが」「信じられない」とショックを受けずにはいられないほど、人間が放つ底知れぬ憎しみとその愚かさを容赦なく描ききります。肉体的、精神的な拷問は延々と続き、いつ暴発するかわからない人間の狂気と、死を目前にした絶望感が画面いっぱいに叩きつけられ、目をそむけたくなるシーンも少なくありません。ですがそれは実際に被害者達に起きたことであり、今もなお形を変えて続いている悲劇なのだという作り手の熱い思いが、スクリーンを通して観客の心に訴えかけてきます。
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