口ずさまれる名曲がある限り「私たちのアイドルネッサンス」は終わらない/「アイドルネッサンス ラストライブ ヨコハマで感謝するネッサンス!!」レポート
ガジェット通信 / 2018年3月8日 9時30分
アイドルの躍動する姿を“青春”という言葉で表すのは、まったくもって陳腐だと思う。しかし純白の制服を着た10代の少女たちがステージに立ち、10代から60代、70代に渡る世代にとっての“青春のうた”をひたむきに届け続けた場所。それを“青春”という言葉抜きに語るのは難しい。
初ライブから3年8ヶ月、そんな場であり続けたアイドルグループ・アイドルネッサンスが2月24日、横浜ベイホールで行われた「アイドルネッサンス ラストライブ ヨコハマで感謝するネッサンス!!」で解散した。
「ソニー・ミュージックアーティスツ40年目にして初のアイドル」として2014年に誕生したアイドルネッサンス。「名曲ルネッサンス」という過去の名曲を彼女らなりの歌とダンスでカバーする方針は、スタート当初こそ賛否あったが、今の時代と彼女らに合わせて“更新”したカバー曲とただのヒット曲カバーに終わらぬセレクト、そして何より「歌を届ける」ということに真摯に取り組み、パフォーマンスするメンバーの姿はアイドルファンたちを惹きつけた。
近年ではZepp Divercity、ディファ有明とワンマン規模も拡大し、2017年のTOKYO IDOL FESTIVALでは、同フェスの象徴的ステージ・SMILE GARDEN で3日間の大トリを努めるまでに。また同時期、満を持してオリジナル曲を収録したミニアルバム『前髪がゆれる』をリリース。全曲を手掛けたのは初期から彼女たちと深く関わってきたBase Ball Bear小出祐介。その中でも人気音楽番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)でも取り上げられた『前髪』は、繊細な私小説のようでありながら力強さのある彼女らにしか歌えない、これまでカバーしてきた過去の名曲と比べても遜色のない渾身の一曲。
オリジナル曲第二弾制作 についてもアナウンスされていただけに「さあ、これから」という想いのファンも多かった。そのタイミングでの解散発表はまさに不意打ちとしか言いようがなかった。公式サイトに書かれた内容から解散の理由と思われる部分を抜粋するならば「2014年5月のお披露目ライブから3年8ヶ月、メンバーの頑張り、やる気、情熱、制作スタッフ並びにレーベルスタッフの尽力があったにも関わらず、それらを活かして状況を大きく打開し、ブレイクスルーさせることが出来ませんでした」。いつの時代も熱い想い が、夢が叶うとは限らない。とはいえ、普段アイドルネッサンスに関心を持ってないアイドルファンも、この発表には驚きを隠せなかった。
収容人員1100名の横浜ベイホールで行われるラストライブのチケットは早々に完売。澄んだライトブルーの空が少し暗くなってきたころ、ラストライブは始まった。照明が落ちると同時にスクリーンに映ったのはステージ直前の8人の光景。円陣を組み「どっかーん!ラスト!わきあいあい!」と気合を入れて最後のステージに向かう様に歓声が上がる。一曲目は『ミラクルをキミとおこしたいんです』(オリジナル曲:サンボマスター)。2014年のデビューライブでも一曲目に歌われた、アイドルネッサンスはじまりの曲だ。いつもどおりのクラップにいつもどおりの掛け声の交換、しかし「悲しむより踊りまくって奇跡の日々を始めようぜ」という歌詞の聴こえ方がいつもと違うことで、いやがおうにもラストライブのスイッチが入ったことに気づかされる。
続いて4度の夏を共に駆け抜けてきた夏の代表曲『夏の決心』(大江千里)。メンバーの衣装はいつもの白の制服だが、セーラー服にブレザーなど8人すべて型が違う。2014年夏のファーストシングル『17才』衣装から2016年秋のZeppワンマン衣装まで、一目でこの3年8ヶ月を象徴させたような心憎い演出である。
宮本茉凜のいつものグループ説明のMCも「1950年代から2010年代までの名曲をわたしたちの歌とダンスでパフォーマンスする名曲ルネッサンスにチャレンジして”きました”」と過去形。そんな端々に感じさせる“ラスト”、しかし今日の衣装の説明で心弾む8人を見てるとそのことすら忘れてしまう。特に原田珠々華のサードシングル『YOU』制服、野本ゆめかの5thシングル『Funny Bunny』衣装は、共に加入前だったので初披露だ。
「今日はとにかく4年間の感謝の気持ちと集大成をお見せできればと思っております。本当に本当によろしくお願いします!」の声から始まったのはオリジナル曲『Blue Love Letter』。そこから『Good day Sunshine』(SAWA)、『6AM 』(堂島孝平)、『太陽と心臓』(東京スカパラダイスオーケストラ)、『手を打ち鳴らせ!!』(イナズマ戦隊)と、「ぐるぐるぐるぱんぱん! 」「会いたいだけ!」「な・な・な・ななこー!」にクラップと、ステージとフロアの掛け合いが楽しい曲が続く。
続いて鮮烈なギターと共に始まったのが『The Cut』(Base Ball Bear feat.RHYMESTER)。もとはlyrical schoolとのコラボ「リリカルネッサンス」として披露された曲だが、1月にアイドルネッサンス単独で初披露。その披露わずか数回とは思えないラップスキルはアイドルネッサンスの次のステージを予感させる曲であった。そしてこのブロックの最後は、様々な会場でフロアを一体にさせてきた『あの娘ぼくが ロングシュート決めたらどんな顔するだろう』(岡村靖幸)。百岡古宵の「皆の一番の声聞かせて!」という煽りに「青春って1,2,3,ジャンプ」のコール&レスポンスが爆発する。
一度ステージから離れ、白いセーラー服に着替えて登場した8人。アイドルネッサンス初のオリジナル曲『交感ノート』、『若者のすべて』(フジファブリック)、そして再びオリジナル曲『5センチメンタル』と8人の歌声をしっとりとしみ入らせるように聴かせる曲が続く。特に『若者のすべて』はディファ有明ワンマンで披露した最後の「名曲ルネッサンス」曲。「最後の花火に今年もなったな/何年経っても思い出してしまうな」そんな歌詞がひときわ胸に刻み込まれる。
そこから「最後の最後までみんなにだけモテたいぜ!」の声で始まる『愛はおしゃれじゃない』(岡村靖幸w小出祐介)。メンバーが2人見つめ合いおどけあう様が愛らしい曲、さらに曲中の原田珠々華のセリフも、本来は「伝えたいのは『あのさ…あのそのつまり…』」なのが「これからもずっと大好きです!」に。続く『金曜日のおはよう』(HoneyWorks)で男女の出会いをイメージしたシーンでは比嘉奈菜子・宮本茉凜がキスしてハッピーエンドに、とこの日ならではの演出が加えられた。
そこから『トラベラーズ・ハイ』(スキマスイッチ)、『シルエット』(KANA-BOON)とフェス感ある人気曲でさらに場をヒートさせてからの『Funny Bunny』(the pillows)。「君の夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ/風の強い日を選んで走ってきた」という歌詞を8人はどんな心境で歌っているのかは計り知れない。ただそのシンプルな振り付けの分力強く届けられる歌声は今目の前にいるファンの胸を刺してくる。
いつも通り7曲連続、8曲連続と名曲とパフォーマンスで魅せるラストライブ。事前にアンケートで選んだ曲だけに盛り上がりも一際だ。そんな中「名曲ルネッサンスの締めくくりとして75曲目の新しい曲を用意してきました」と最後の新カバー曲について明かされる。最後の曲は、アイドルネッサンスと深く関わってきた小出祐介率いるBase Ball Bearの『changes』。この日一度きりの披露となる。
石野理子が「歌詞がとても前向きで、それぞれ新たな道に進もうとしてるんですけど、そういう時に背中を推してくれるような強いメッセージ性のある曲になってます」と説明すると共に、この曲はメンバーの比嘉奈菜子の振り付けだと紹介。8人の中でもダンス経験も豊富な彼女の口から「注目してほしいのは一番最後。これからもアイドルネッサンスで学んだことで胸に、スタートを切って頑張っていくぞ、という意味を振り付けに込めました」と見せ場が語られる。
「changes さぁ、変わってく さよなら旧い自分/新現実 新しい何かが待ってる/すべてがいま変わってく すべてが始まる」というこれからの彼女らへの餞のような歌詞。そして比嘉の振り付けは『17才』『ミラクルをキミとおこしたいんです 』『Good day Sunshine』『PTA ~光のネットワーク~』『初恋』『Funny Bunny』といったこれまでのアイドルネッサンスの曲を彷彿とさせる動きが織り交ぜられているように見えた。そして最後全員が集まって親指を立てる動きは、最初の円陣の「どかーん」ポーズ、つまり“はじまり”のポーズ。こんなファンのために何かを仕掛けてくるチームの気風とそれに応えるメンバーが魅力で、アイドルネッサンスをファンは応援してきた。最後までそれに応えた一曲だった。
そこからライブはラストスパート、『恋する感覚』(Base Ball Bear feat.花澤香菜)、『Music Lovers』(The Jelly Lee Phantom)と続く。しかし『Music Lovers』の途中、見せ場であるフェイクを終えた石野理子がステージの端で倒れ、スタッフがバックステージに抱え込む。しかもそのまま『YOU』(大江千里)のイントロがスタート。石野の「Fu!」から始まる同曲、どうなる?と心配させられたが、新井とのアイコンタクトから原田がフォロー。そしてメンバー7人、そして石野不在を察した観客が最初の石野パートを大歓声で歌い繋いでいく。曲間からは石野も復帰。トラブルではあったが、それを支えて再び笑顔でパフォーマンスし続けるメンバーの成長と逞しさ、そしてすぐに歌いだしたファンの思いを感じさせた時間だった。
石野もステージに戻り8人になっての初シングル『君の知らない物語』(supercell)、そして『前髪』(アイドルネッサンス)。メンバーそれぞれの経験を織り交ぜ、10代の少女の普遍的な一瞬を顕微鏡で覗いて美しく切り取ったような、アイドルネッサンスとして最後のオリジナル曲であり、最後の代表曲。
アイドルネッサンスが続けてきた「名曲ルネッサンス」。それに選ばれる楽曲は過去の名曲であるが、さらにいえば「当時の10代に刺さった名曲」が中心だ。高校時代にラジオやラジカセ、CD、MDプレイヤー、MP3プレイヤー、ケータイ、スマホなど、機材は違えど当時の若者の声を代弁し、若者の胸に刺さった「10代のうた」。
『前髪』は解散ライブ直前に人気音楽番組『関ジャム』に取り上げられ、そこで初めて聴いた、という声がSNSに溢れた。番組に取り上げられたのがもっと早ければ何かかわったのか、というのは愚問ではあるが、これからも折に触れてそれぞれの時代の10代に『前髪』が届けばいい。
『前髪』を歌い終え、「次の曲が最後の曲になります」というMCに静まり返るフロア。最後の一曲を前にして、メンバーひとりひとりが3年8ヶ月の思いを述べていく。
「アイドルぽくない宮本茉凜でもこうやって愛してくれた人がいたことに『ありがとう』って気持ちでいっぱいです。みんなに出会えたことが嬉しいです。みんなとはおばあちゃんになっても、ずっと一緒にいたいと思ってます。好き!」(宮本茉凜)
「アイドルになる前は自分に夢がなかったんですけど、アイドルネッサンスを初めて見た時に星のようだなと思った。ファンのみなさんはわたしたちと一緒に夢をみつけてくださって、本当に幸せなことでした」(原田珠々華)
「アイドルネッサンス結成の当初やっていた『こよ語』やっていいですか? まりるー! つらくなった時、嬉しくなった時はいつでもお空を見上げてください。いつでもお空はつながってます!」(百岡古宵)
「ダンスも歌もアイドルも未経験だったわたしに皆さんが『自分らしくでいいよ』で言ってくださって。それから4年間それを軸にぶれないで何事も続けてこれました。アイドルネッサンスが大好きです。どうしてもやりたいことがあるんですけど……待ってるにゃあ!」(南端まいな)
「叶えたかった夢が叶えられませんでした。アイドルネッサンスが終わっても、メンバー8人で沖縄行こう! みんなで海に向かっていろいろ歌いたいうたがあるんです。その時のセットリストはわたしが決めます。いつまでも、みんなの太陽でい”たいよう”!」(比嘉奈菜子)
「わたしは幼稚園生のころからトップアイドルを目指して生きてきました。理想のアイドルさんからかけ離れてる自分がつらくて、それでもたくさんの皆さんが教えてくれた楽しむこと、自分でいること、忘れないで生きていこうと思います。」(野本ゆめか)
「わたしたちのために仕事休んで来てくれる人いたりして、そこまでして『見たい』って言ってくれる人が周りにたくさんいたのが嬉しくて、自分を奮い立たせてくれました。あと私の生誕グッズを捨てたら家まで追いかけます!」(新井乃亜)
「二度と戻ってこない青春を本当にアイドルネッサンスに捧げてきました。最後までみんなでやってきて気づいたのは、青春ってつらいこととか苦しいこととかたくさんあるけど、作るものじゃなくて本当に気づかないうちに自然に出来ていくんだなと思いました。こうやってそれぞれが新たな道に進もうとしている瞬間も青春なんだろうな、とライブしながら思いました」(石野理子)
それぞれの思いを口にして、最後の曲が始まる。「最後の曲はみなさんちょっとわかってるかもしれませんが、わたしたちのはじまりの曲です。『17才』(Base Ball Bear)!」ここにいるファンにとっては何十何百回と聴いてきた前奏のギターと共に突き上げられるメンバーの掌、それに呼応するように掲げられる何百もの白いサイリウム。すべてファン有志が用意したものだ。全員少し涙まじりで「17才 It’s a seventeen!」と歌いだしながらも、すぐに笑顔のパフォーマンスに戻る。
彼女らはいつだってそうだった。初の卒業メンバーである橋本佳奈のラストライブでも、寂しさ悲しさを溢れさせるよりも完璧なライブを見せつけることで「この先は大丈夫」と橋本に思わさせるような気迫溢れるステージを見せた。その時だけでなく、どんな時でもステージに上がった時の彼女たちを見ればファンは笑顔にさせられた。
この日を迎えるまでも、彼女たちはブログや動画で「ラストライブ楽しもう!」と呼びかけ続けた。そしてこの日も最後のMCの涙以外は解散ライブ感がほとんどない「いつもの最高のアイドルネッサンス」だった。それを最後までやりきれる彼女たちは強い。
『17才』で一度終演を迎えたあと、盛大なアンコールの声に応えて飛び込むように勢いよく登場する8人。それぞれのすっきりとした満面の笑みは、卒業式を終えてあとはこの場を楽しんで次に向かうぞ! と言うかのようなポジティブなものに思える。
そして宮本の「最後にあらたなスタートラインに立てるようにメンバー8人とここにいるみなさん、SHOWROOM見てるみなさんではじまりのうたを歌って終わりたいと思います。みなさん絶対歌える曲だと思うんですけど、みなさん歌ってくれますか?」という呼びかけから、今度こそ本当に最後の『17才』。石野の「一緒に歌ってー!」の声に合わせて、会場いっぱいの大合唱がはじまる。歌い、踊り、推しの名前を叫び、クラップし、また歌う。
4年間「名曲ルネッサンス」を行ってきたアイドルネッサンス。彼女たちは歴史に残る名曲を今のかたちに更新して届けてきた。そして名曲は歌われ続けるからこそ名曲である。この最後の『17才』の大合唱は「名曲ルネッサンスを続けるのはあなたたちであり、今日から君がアイドルネッサンスだ!」というメッセージを送られたようだった。
この日、各メンバーは今後の活動についてふれなかったが、それもアイドルネッサンスという活動を封じ込めて美しい宝石にするための、そしてこのわずかな時間をそれぞれの心に刻みつけるためだったようにも思える。石野理子の「こうやってそれぞれが新たな道に進もうとしている瞬間も青春なんだろうなとライブしながら思いました」という言葉のとおり、過ぎ去っていく瞬間瞬間だけが青春であり、「彼女たちのアイドルネッサンス」である。
しかしこれから先、それぞれの心の名曲と出会うたびにアイドルネッサンスという“運動”を必ず思い出すはず。それぞれの時代の青春のうたを紡いだ、9人の女の子たちと彼女たちが生み出した熱を。「私たちのアイドルネッサンス」は終わらない。
ライブ後、ステージで完璧に披露することが出来なかった『YOU』のことをふと思い出し、あらためて頃安祐良監督によるMV『YOU』を見直してみた。T-Palette Recordsへの所属第一作として発表された同曲MVのテーマは「卒業と旅立ち」。今思えば、まるで今回のラストライブを先取りしたような内容だ。その最後、笑顔の彼女たちの後ろの黒板にはこう書かれている。「YOU are アイドルネッサンス」。この先ずっと口ずさまれる名曲がある限り、彼女たちそして私たちそれぞれの胸の中のアイドルネッサンスは消え去ることはない。
<オフィシャル写真:曽我美芽>
■アイドルネッサンス公式サイト:http://idolrenaissance.com
■アイドルネッサンス公式Youtubeチャンネル:
https://www.youtube.com/user/idolrenaissanceSMA
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(執筆者: 大坪ケムタ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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