『ミスミソウ』内藤瑛亮監督&押切蓮介先生インタビュー「血が通っている人間に、どういうことをすると痛いか。それが恐怖」
ガジェット通信 / 2018年4月12日 17時0分
都会から田舎に引っ越してきた少女がクラスメイトからのイジメにあい、イジメがエスカレートしていきある事件に発展。少女は復讐の鬼へと姿を変えていく…。押切蓮介の伝説的コミックを、『ドロメ』『ライチ光倶楽部』の内藤瑛亮監督が映像化した『ミスミソウ』が現在公開中です。
数々のホラー作品を手がけてきた内藤監督と、「学生残酷映画祭」の審査員を務めるなどホラー作品に精通している押切先生の出会いはまさに胸アツ! 作品について、ホラー愛について色々とお話を伺ってきました。
――今日おそろいで取材を受けていただけているということは、映画『ミスミソウ』に太鼓判を押されているわけですよね!
押切:そうですね。正直本当に素晴らしいと思いました。自分の原作ですけど、「なんてものを観てしまったんだ!」って、いう感じなんです。でも、内藤監督が撮るということで安心はしていました。最初、安心できない監督の名前が、次から次へと候補としてあがってきていたので。
内藤:プレッシャーはありましたよ(笑)。自分と同世代の監督が、「実は自分も撮りたかったんです」っていう同世代の監督とか、「以前から好きで関わりたかった」というスタッフが多くて、幅広く愛されている作品なんだな、ということは感じていたので。
押切:内藤監督の『先生を流産させる会』(12)を観ていたので、もう安心でした。ありがたいです。
内藤:『ミスミソウ』を映画化するにあたっては、単なるコスプレや再現だけにはしないように気をつけました。原作が持っている核となるエッセンスを的確に表現すれば、『ミスミソウ』の実写化としては、正しいだろうなとは考えましたね。
押切:映画って公開されるとお客さんの反応をダイレクトに感じますが、それは漫画家では味わえないところなんです。映画館みたいな場所にファンを集めて、「さあ読んで!」ということは、まずないわけじゃないですか。映画の場合は、完成披露などいろいろと機会があってうらやましい。僕も反応が気になります。
――内藤監督は、最初原作を手に取った時は、どういう印象だったのでしょう?
内藤:もともとツイッターなどで「『ミスミソウ』を映画化するなら内藤だ」みたいな声があって、なんとなくその意図も理解しつつ、凄まじい暴力描写に圧倒された感じはありました。イジメという現実的な題材で、子どもたちが次々と殺し合うという展開は、すごいなと。最初にパンチを喰らう感じがあるけれども、突きつめていくと子どもたちの背景にあるドラマが繊細に描かれていて、そこは最終的にグッときたところでした。
押切:ありがたいですねえ。僕はもう監督やプロデューサさんに作品をあげた気持ちでしたが、映画が漫画を超えてきた感じがしたので正直、映画を観たあと悔しかったですよ。実は僕はもともと映画の道に入りたかったのですが、漫画の道に入って。だからシーンを考える時に映画っぽくなってしまいがちで、『ミスミソウ』も映画っぽいシーンが多いんです。それを実際に映像に昇華してくれて、もう何も言えない。嫉妬するほどいいなあと。
内藤:僕は逆で、実は最初漫画家になりたくて。書いて投稿くらいは、大学生の頃までしていました(笑)。でも向いてないなと思うようになり、就職をして自主映画を撮りはじめて、結果的にそれが仕事になったという流れなので、漫画家さんにはリスペクトと嫉妬がありますね(笑)。
――どこか運命のいたずら的な出会いすら感じますね(笑)。
押切:お互いそういうカタチだったという。
内藤:映画の世界にもいいところはたくさんありますが、よいものを撮るには資金集めなど時間がかかる。自分が観たい画を映像化するためには、いろいろなスタッフやキャストが表現してくれないといけない。小説家や漫画家は無から自分で創造できる仕事なので、うらやましいし、すごいなと思います。監督は現場にいなくても進めようと思えば進んじゃうところもあって、手に職があるものじゃないので、あこがれはありますかね。
――恐怖や残酷描写にあたっては、どういうこだわりがありますか?
押切:『ミスミソウ』には恐怖描写は求めていなくて、痛みや体温を保っている、血が通っている人間に、どういうことをすると痛いか? ということを考えて作りました。自分が同じ目に遭ったら嫌だなとか、とにかくあの子たちはかよわい人間であることが前提で、その子たちがちょっと悪いことをしてしまったけれど、はかなく健気に一生懸命に生きていて、そんな子たちが急にひどい目に遭って死んでしまうという……いやこれ、恐怖ですね!
内藤:脚本を書いた唯野未歩子さんが、ホラーサスペンスではなくて、ヒリヒリとした痛みをはらんだ青春映画として原作を解釈して書いたと言われていて、それは自分も撮る時に意識していたことです。ホラーやバイオレンスというよりも、その描写は当然あるけれども田舎街で閉塞感があって、スマホもなくて外界と一切つながれず、娯楽もない人たちが、どう生きているかを大切にしたいという。
押切:痛みを感じるということは、生きている証ですからね。それがどんどん失われていくということは、ショックだと思いますよ。
内藤:暴力描写もありますが、それが表面的になってしまうと、いわゆる痛みや恐怖はないんですよね。ある人物が手を傷つけられますが、その人にとって手がどういうものであるかを考えると、余計に痛みが伝わってくる。ちゃんと考えて演出してドラマを作っていけば、痛みというものは伝わるものだなと思いました。
――この先、この運命的な出会いを経て、それぞれの創作活動にも影響が出そうですね!
押切:やっぱり人間をたくさん描かないとなと思いました。人間と人間の心のありかたや群像劇、魂に響くような作品を書かないと、人の心には刺さらない。内藤監督とは見ているものが一緒なので、またタッグが組めそうな気がしています。
内藤:押切さんの作品では「サユリ」もすごく好きで、いわゆるJホラー的な物語設定ではあるけれども、それまでのJホラーで描いていた幽霊描写と比べると物語の展開が一歩進んでいる感があるんです。海外の例でいうとジェームズ・ワンが『死霊館』でJホラー的手法を取り入れつつ、アメリカンホラーとミックスして新しいスタイルを作っていますが、またきっと日本も新しい幽霊映画を作る時代が来るかもしれない。
押切:それはありますね。「サユリ」のような映画が観たいと思っていて、誰も撮らないから自分で漫画にしたところはあります。Jホラーはいつもいつも人間側の負け戦なんです。いやあ怖かったと思わせるだけでは、この先を生きる上での糧にはならないと思います。だから幽霊をブン殴ってまで勝つほうが、この先を生きる上で断然いい。なぜそれをやらないのかと。なぜ負け戦なのかと。とにかく対抗、逆襲する意識や気持ちが強いから、「ミスミソウ」もそういうことなんです。
内藤:おっしゃるように「サユリ」は、生に向かって勝ち取っていく感じがしますよね。ある人物が後半突き進んでいく描写が、すごく気持ちよくて。
押切:僕の中の代表作ですね。「ミスミソウ」に比べると知名度が落ちるかもしれないので、タイトルや話などを思い切り変えてもいいので。って事でこっちの子(サユリ)もよろしくお願いします……。
文・写真:ときたたかし
『ミスミソウ』
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会
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