コラム:映画『ランペイジ 巨獣大乱闘』の白いゴリラは実在する? 地球の歴史上最大の動物とは?(動物行動学者・新宅広二)
ガジェット通信 / 2018年5月11日 16時0分
動物行動学者の新宅広二氏からご寄稿いただきました。
◇◇◇
映画『ランペイジ 巨獣大乱闘』。巨大化した動物たちが大都会を思いっきりブッ壊すスカッと系映画でした。さて、この映画をちょっぴり動物行動学的に深掘りしてみよう。
<史上最大の動物は何か?>
まず、実際に動物たちはどこまで大きくなれるのか? 地球の歴史上(もし宇宙に生物がいないとするならば、宇宙の歴史上)最も巨大になった生物は、われらがシロナガスクジラ。絶滅した太古の巨大恐竜などを含めても、シロナガスクジラを超える生物は出現していない。こんな巨獣と同時代を過ごせた我々はラッキーだ。ちなみに最大の恐竜でも100トンに満たない。シロナガスクジラは体長30m級、最大体重190トン。25mプールからはみ出す大きさ。巨体に似合わずプランクトンなどチマチマしたモノを食べるため、これといった牙や爪のような狩りの武器はない。ところが尾ビレのパワーアタックは半端ない。水面に尾を叩き付けるだけで、海の最強生物のシャチですら失神させる破壊力! だから、うかつには近寄れない。
<陸の巨獣>
海は浮力が働くので巨大化の負担が少ないが、陸の動物たちも巨大化が生存戦略の重要な進化となっている。やはり体が大きいだけで天敵にとっては一撃で仕留められなくなるため、大きさは最強のディフェンスになるのだ。ゾウに正攻法で勝てる動物はいない。また類人猿のチンパンジー、ゴリラ、オランウータン、そしてヒトも霊長類の中では大型種で、やはりヒョウなどの天敵対策としての進化の過程で巨大化したというのが今のところ有力な説だ。
<肉食獣は大きくない?>
よくみると大型になる動物は圧倒的に草食獣が多い。肉食はなぜ巨大化しなかったのか? 答えは簡単。鈍重になり狩りが下手になるから。恐竜を含めて大型化した肉食動物は、狩りをせずに死体や食べ残しをあさる腐肉食化していく傾向にある。
イヌ科は絶滅種を含めても現生のオオカミと大差ないサイズなのは、群れで狩りをするので、大型化の必要性がなかったと考えられる。単独性のネコ科の方がイヌ科より大型化する傾向にあるが、サバンナなど隠れる場所が少ない大型のライオンは、体が大きいと単独では狩りが成功しないのでネコ科で唯一群れをつくるようになる。
<巨大なゴリラの繊細なハート>
さて、ゴリラは牙(犬歯)が大きく映画では粗暴に描かれがちなので、肉食と勘違いする人も多いが、とびっきりのベジタリアンである。あの犬歯は獲物を仕留めるものではなく、単なる見せかけ。というのも歯根が短いため、ちょっとしたケンカのワンパンで歯が吹っ飛んでしまう……。威嚇も相手と目を合わさずに自分の胸を思いっきり叩くという、いわば”自傷型”なのがゴリラの内向性をよく表している行動。実は、けっこういいヤツだ。霊長類最大にして、最も心優しく傷つきやすい巨獣である。
<白いゴリラは実在した>
ランペイジで登場する白いゴリラのジョージはモデルが実在した。それはスペイン・バルセロナ動物園のスノーフレークと呼ばれて人気があり、私が上野動物園の職員だった頃に彼の子供のビンドンがいたので、日本とのゆかりも深い。また手話で会話する様は、KOKOという米国のゴリラがモデルになっていて、映画に出てくるようなジョークを言ったりするくらいはゴリラにとっては朝飯前。
ちなみに私の経験上、理由はわからないが動物園のゴリラは、マッチョな大男を異常に嫌う傾向にある。だから、ロック様(ドウェイン・ジョンソン)演じるオコイエは、かなりゴリラの心をつかむのが上手いとみえる。普通ならゴリラはマッチョを見るだけでウンコを投げて憤(フン)慨して怒るところだ。さすがロック様だ……。おしまい。
【新宅広二(しんたく・こうじ)プロフィール】
動物行動学者、監修業。
大学院修了後、多摩動物公園、上野動物園勤務経験のほか、大学・専門学校で20年以上教鞭をとる。哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫など400種類以上の野生動物の飼育技術や生態を修得。狩猟免許も持ち国内外でのフィールドワークもこなす。監修業では英国BBC作品ほかネイチャードキュメンタリーの監修や日本語制作を数多く手がけている。
最新の著書『もっとしくじり動物大集合』(永岡書店)が発売中。150種以上の動物の下手こいた能力や特徴をイラスト付きで解説し、動物たちの知られざる生態を紹介している。
『ランペイジ 巨獣大乱闘』特集
関連記事:映画『スパイダーマン:ホームカミング』の鳥類学(動物行動学者・新宅広二)
http://getnews.jp/archives/1870029
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