『秒速5センチメートル』へのオマージュが話題! 映画『詩季織々』リ・ハオリン監督&竹内良貴監督インタビュー
ガジェット通信 / 2018年8月7日 14時0分
『君の名は。』など新海誠監督作品で知られる「コミックス・ウェーブ・フィルム」最新作。日本と中国の3人の若手クリエイターが監督を務めたアンソロジーアニメ『詩季織々』が現在公開中。
中国の暮らしの基本となる”衣食住行”を共通テーマに、大切な思い出を抱えながら大人になった若者たちの過去と現在を紡いでいく本作。総監督を務めるリ・ハオリン監督が『秒速5センチメートル』にオマージュを捧げた「上海恋」、CGチーフとして長年にわたって新海監督作品を支え続けてきた竹内良貴監督のオリジナル初監督作品「小さなファッションショー」、これまで実写映画を手がけてきたイシャオシン監督が自信の思い出をつづった「陽だまりの朝食」と、個性豊かな作品がスクリーンを彩ります。
今回は、リ・ハオリン監督&竹内良貴監督にインタビューを敢行。作品について、新海誠監督へのリスペクトについて、色々とお話を伺いました。
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――本作楽しく拝見させていただきました。まず、テーマを”衣食住行”にした理由を教えてください。
リ・ハオリン監督:“衣食住行”は、中国の日常生活の基本的な要素です。日常の細かい感情を表現したいと思い、このテーマにしました。
――上海、北京(主には湖南省の物語)、広州とそれぞれ中国の都市を舞台にしているのも特徴的ですね。
リ・ハオリン監督:上海は僕の主審地です。湖南省はイシャオシン監督の出身地なので、この2つのエリアを登場させることは最初から決めていました。竹内監督が手がけてくださった作品の舞台である広州については、その作品のテーマが”衣”であることから、中国でファッションが流行っている地域ということで決まりました。
――竹内監督は日本人として、中国を舞台にすることは難しくなかったでしょうか?
竹内良貴監督:キャラクターたちの取る細かい仕草が日本と同じようで違うところがあり、そういう部分は調べても中々出てきません。現地に取材にも行きましたが、細かな部分はリ監督にチェックしてもらいながら制作を進めていきました。それでも中国の方が観ると「日本人っぽい」らしいです(笑)。
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▲「上海恋」
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▲「小さなファッションショー」
――お互いの作品を観た率直な感想を教えてください。
リ・ハオリン監督:一番驚いたのは、男性の竹内監督が姉妹の心境を深く理解していた事です。女心の描写が凄く上手くて、自分ではあんなに細かく切実に表現できないのではと感心していました。
竹内良貴監督:いえいえ、脚本はシナリオライターの方にお任せしていたので、その方が優秀だったんです(笑)。でも、女性の気持ちと言うよりは「人間としてこのキャラクターはこうだろう」という部分が描けたことが、そう言っていただけたのかと思います。なるべくステレオタイプに考えないように人物を描きました。「女性だから・男性だから」ではなく、そのキャラクターの行動に対する考え方を設定して、そこにキャラクター性を付けていきました。
リ・ハオリン監督:後は美術のクオリティがすごく高いと感じたのですが、本作では何回ほど修正を行ったのですか?
竹内良貴監督:1カットあたりの修正は2、3回くらいです。それ以上に修正を重ねてしまうと逆に迷いが生じてしまうこともあって。結局一番最初が良かったりとか……。リ監督の『上海恋』は、舞台となった「石庫門」の描写にすごくこだわりを感じました。観光地ではないのであまり見る機会がないのですが、あそこまで細かく描かれているのはなかなか無いと思います。
リ・ハオリン監督:ありがとうございます。現在の石庫門はどんどん壊されて原型が残っていないんです。ある程度形が残っているところもあるのですが、以前の時代にあった”家族”という意味合いが含まれていた石庫門はもうそこにはない。かつては多くの人が石庫門に住んでいて、大家族として一緒に生活していました。自分の中にある温かい記憶が、今は取り残されてしまい飾り物のようになってしまいました。今回の作品を作るにあたっては、「元々の石庫門を残したい」という想いがありました。
――なるほど。失われつつある監督にとっての温かい記憶がアニメーションの中で活かされているのですね。3名の監督は1984、1985年生まれですよね。そういった同世代ならではの共感というものは感じましたか?
リ・ハオリン監督:偶然なのですが、同世代ということは大きいと思います。僕が監督した『上海恋』はカセットテープが重要なモチーフになっていますが、登場人物達の様には高校生の時にカセットテープを使ってはいませんでしたが、映画をご覧いただいた皆さんの中で、僕らと同世代かそれ以上の方は懐かしく、下の世代にとっては新鮮に感じるのでは無いかと思います。
竹内良貴監督:僕もそれぞれのキャラクターの描写に共感できる部分がたくさんあって、世代だけではなく、中国で暮らす皆さんに対するイメージがかなり変わりました。嬉しいことや悲しいこと、悩み事は僕たち日本人と変わらないんだなと。
リ・ハオリン監督:僕はそれをアジア文化の共通性だと考えていて、ヨーロッパ等、他の国に比べると直接気持ちを出すのではなく、間接的に感情を表現することが多いと思うんです。『陽だまりの朝食』では直接「おばあちゃん大好き!」と直接言う事はないですし、『小さなファッションショー』でも姉妹お互いに「応援している」と言葉にすることはない。それでもお互いを大切に想っている気持ちは伝わる、そんなアジア文化を観客の皆さんに感じていただきたいです。
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▲「陽だまりの朝食」
――世代や国境を越えて感動することが出来るのは、まさにアニメーションの魅力ですよね。リ監督は新海誠監督の『秒速5センチメートル』に多大な影響を受けているそうですね。
リ・ハオリン監督:一番大好きな作品です。衝撃だった部分は主に2つあって、1つは表現内容です。『秒速5センチメートル』はビジネス向けではなく叙情的、エッセイ的な表現となっていて、キャラクターの感情の表現を一番大事にしているところが印象的でした。 もう1つは表現技法で、かなり新しい美術表現を使っていて、この2点が一体化していることに心動かされました。今回の作品でも、「コミックス・ウェーブ・フィルム」さんは美術に強い会社なので非常にクオリティの高い映像が完成して、とても嬉しいです。
――竹内監督は本作がオリジナル初作品で特別上映されますが、今のお気持ちはいかがですか?
竹内良貴監督:実は、この作品、最初は配信という形で進んでいたのですが、途中で特別上映に変わったんです。「コミックス・ウェーブ・フィルム」の作品としては『君の名は。』の次なので、プレッシャーです……(笑)。比較対象がとてつもない作品なので、やばい、頑張らなければと思いました。ストーリーを持った作品をやるのは初めてなので、皆さんに観ていただくまではドキドキしていますが、色々な方に観ていただきたいので、今回は中国が舞台ということで景色などはなるべく忠実に、実写とアニメの中間くらいの映像を目指して制作しているので、ぜひ楽しんで欲しいです。
――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
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『詩季織々』
予告編動画:https://www.youtube.com/watch?v=GHo2Tt6wLMU
(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
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