なぜ非正規でいるか(データえっせい)
ガジェット通信 / 2018年9月30日 15時0分
今回は舞田敏彦さんのブログ『データえっせい』からご寄稿いただきました。
なぜ非正規でいるか(データえっせい)
雇用の非正規化は,日本社会の変化を言い表す典型ワードの一つです。戦後初期の頃までは自営が多かったのですが,今では働く人の大半は雇用労働者です。
その雇用労働者は,正規雇用者と非正規雇用者に分かれます。「非」という冠がつくことで,後者は何やら劣っているような印象を与えますが,実際のところそうです。同じ仕事をしていても給与が違いますし,職場でも見下されたような態度をとられることがしばしば。日本は役職を重視する社会ですので。
私は国際統計をよくいじるのですが,国際統計の労働者のカテゴリー分けでは,正規・非正規なんていうのはないのですよね。労働時間に依拠して,フルタイム,パートタイムというのはありますが。正規・非正規という,上下関係を彷彿させる区分けをしているのは,日本の特徴なのかもしれません。
それはさておき,非正規雇用者は増えてきています。とくに90年代以降の増加が顕著です。『就業構造基本調査*1 』によると,1992年の非正規雇用者(パート,バイト,嘱託,派遣社員)は952万人でしたが,四半世紀後の2017年では2133万人にまで膨れ上がっています。倍以上の増加です。
*1:「就業構造基本調査」『e-Stat 政府統計の総合窓口』
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200532&result_page=1
ツイッターでも発信しましたが,正規雇用者と非正規雇用者の比は以下のように変化しました。
1992年=4:1
2017年=3:2
今日では,雇用労働者の4割は非正規雇用者です。雇用の非正規化の数値的な表現です。大学進学率の上昇でバイト学生が増えていること,年金の足しにプチ労働をしている高齢者が増えていることによりますが,この変化はスゴイ。
生産年齢層でみても,非正規雇用率はアップしています。5歳刻みの年齢層ごとに非正規雇用率を出し,折れ線でつないだグラフにしてみましょう,下図は,男女に分けて,1992年と2017年のカーブを描いたものです。
![](https://px1img.getnews.jp/img/archives/2018/09/E99D9EE6ADA3E8A68FEFBCA1.png)
20~50代の生産年齢層ですが,どの層でも雇用の非正規率は上がっています。20代前半の上昇幅が大きいですが,これは学生バイトが増えているためです。
女性の非正規率も上がっていますね。男女共同参画の取組の成果で「M字」の底が浅くなった,女性の社会進出が進んだといわれますが,働く女性が増えたといっても,増分の多くは非正規のようです。
働き盛りの男性の非正規率も上がっています。私の年齢層(40代前半)でいうと,1992年の1.8%から2017年の9.6%にアップです。学校卒業時に氷河期だったという世代的要因もあるでしょう。90年代初頭では,この層の雇用労働者では非正規はほぼ皆無でしたが,最近では1割ほどいます。
しかるに,非正規というのも一つの働き方です。ライト・柔軟でゆるい働き方をできる。非正規の仕事をしている人の思惑は様々でしょう。
非正規雇用者があまりに増えてきたことを受けてか,2017年の『就業構造基本調査』では,非正規雇用の人たちに対し,現在の就業形態を選んでいる理由を答えてもらっています。「なぜ非正規でいるのですか?」という問いです。
選択肢は7つですが,「その他」という曖昧なものを除いた6つのいずれかを答えた非正規雇用者を拾ってみます。男性は501万人,女性は1284万人です。5歳刻みの年齢層ごとに,6つの理由の内訳を面グラフで表現すると,以下のようになります。
![](https://px1img.getnews.jp/img/archives/2018/09/E99D9EE6ADA3E8A68FEFBCA2.png)
ライフステージの違い,ジェンダーの違いが出ていますね。
学生が多い若年層では,学業の合間に小遣いや学費を稼ぎたいという理由が多くを占めますが,働き盛りになると,男性では「正規の仕事がないから」という理由が垂れてきます。女性では,「育児・介護と両立」「家計補助」が幅を利かします。明瞭なジェンダー差です。
「専門技能を活かせる」という理由も結構あるのですね。うーん。何とか自分の専門を生かしたいと,正規雇用の枠が著しく少ない専門職にしがみついている人たちでしょうか。図書館司書や大学非常勤講師とか…。これらの非正規率はハンパない。
ここで注目されるのは,上図のブラックの人たちです。正規の仕事がないので,やむを得ず非正規でいる人たち。いわゆる不本意非正規です。実数にすると男女合わせて268万2800人。京都府の人口よりちょっと多いくらいです。
男性の非正規では,不本意の人が多いようです。当然といえばそうです。ガツガツ稼ぐことを期待されますのでね。同じ仕事なのに正社員と給与差が大きいのは腑に落ちない,願わくは正社員になりたい。こう思っている人が多いでしょう。
昨今,どの企業も人手不足ですが,これらの人たちを掬うことはできないものでしょうか。まっさらのピチピチの新卒ばかりに目が向けられますが,非正規とはいえ,類似の職務を経験してきた人たちのほうが訓練費は安く上がりそうなものですけど。
年を食った人は人件費がかさむといわれるかもしれませんが,年齢に相応した高い給与を望んでいる人ばかりではないですよ,きっと。悪しき年功賃金は日本でも崩れつつありますし。
「非正規→正規」という流れの後押しばかりが目指されますが,その反対も起こり得るかもしれません。今後も,非正規の比重は高まっていくと思いますが,非正規がマジョリティになると,責任の重圧に晒される正規の働き方が疑問視されるようにもなるでしょう。
ツイッターでつぶやきましたが,AIの台頭により,世の中の仕事は機械がやってくれるようになります。いっそのことみんな非正規になって,ゆるい働き方をして,遊んで暮らせばいいのではないか。
パート大国のオランダのように,正規・非正規の給与差や社会保障格差をなくすならば,ゆるい働き方を志向する人たちは出てきます。私なら,そっちに傾きますけどね。最近メディアでよく報じられる「プチ勤務」「ちょい勤務」という言葉は好きです。
人間の労働に取って代わる機械労働が発達するまでは,生活の利便性が落ちるでしょうが,それでもいいのではないか。お客様を神様を崇める過剰サービスや,即日配達なんてしてもらわなくてもいい。みんながゆるい働き方し,健康で文化的な生活が営めればいい。
完全な絵空事ですが,非正規がマジョリティになり正規がマイノリティになったとき,どういう事態になるか。いっそ,後者を圧し潰してしまえ。こんなふうにも思うのです。
執筆: この記事は舞田敏彦さんのブログ『データえっせい』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年9月29日時点のものです。
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