教育勅語を現代語訳してみたよ(読む・考える・書く)
ガジェット通信 / 2018年10月6日 15時0分
今回はバージルさんのブログ『読む・考える・書く』からご寄稿いただきました。
教育勅語を現代語訳してみたよ(読む・考える・書く)
高橋源一郎氏による現代語訳
作家・高橋源一郎氏による教育勅語の現代語訳が話題となっている。Twitterで公開されている高橋氏の訳を原文との対訳の形で示すと、次のようになる。
この高橋氏訳については、くだけた表現で分かりやすいと高く評価する人もいる一方で、これでは勅語独特の、異論を許さない高圧的雰囲気が出ていないという批判もある。
教育勅語(というか明治期に創られた天皇制の思想)には独特の傲慢さがあってそれが現在の視点からみれば色々ヤヴァいのに、頭のおかしなおじさんが喋っているようになると、それが全然伝わって来ないどころか、コミカルに見えてしまうというか。
熊沢天皇による勅語みたいなw
私も同感だが、熊沢天皇というより、皇室芸人竹田恒泰あたりが勝手なことをべらべらしゃべりまくっている感じ、というほうが近そうだ。
的はずれな右からの批判
右からの批判は、高橋氏が「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」を「いったん何かが起こったら、いや、はっきりいうと、戦争が起こったりしたら、勇気を持ち、公のために奉仕してください。というか、永遠に続くぼくたち天皇家を護るために戦争に行ってください」と訳した部分に集中している。原文には「戦争」だなんて書いていない、意図的な誤訳だ[1]、というわけだ。
だが、この点については、高橋氏自身による以下の反論がまったく正しい。
「原文に『戦争』の語はない」との指摘に対し、高橋さんは「『緩急』が震災などを意味するのなら、まず現地で被災者を救うことが求められる。しかし、天皇を護れというのだから、戦争以外にはあり得ない」と語る。
繰り返すが、原文は「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」である。当然ながらこれは日本書紀神代紀の以下の一節、いわゆる「天壌無窮の神勅」[2]を踏まえたものだ。
葦原の千五百秋(ちいほあき)の瑞穂(みつほ)の国は、是(これ)、吾が子孫(うみのこ)の王(きみ)たるべき地(くに)なり。爾(いまし)皇孫(すめみま)、就(い)でまして治(しら)せ。行矣(さきくませ)。宝祚(あまのひつぎ)の隆(さか)えまさむこと、当(まさ)に天壌(あめつち)と窮(きはま)り無(な)けむ
古事記・日本書紀を読めばわかるとおり、豊かな「瑞穂の国」は、もともと天照たちの支配領域下にはなかった。この「神勅」は、軍事力で奪い取ったばかりの土地に、その新たな支配者として孫のニニギを送り込む段階で発されている。この「神勅」は、良い土地を手に入れたことを喜び、永遠に支配せよと命じる侵略戦争の勧めなのだ。
「天壌無窮」と言っている時点で「緩急」は戦争以外あり得ない。これもまた、右派ほど日本の伝統も歴史も知らないというサンプルの一つだろう。
Yet another 教育勅語現代語訳
教育勅語には、「緩急」以外にもどう訳すべきか困惑する部分が多いのだが、これには絶好のガイドブックがある。
教育勅語原文を読んでもわからんという方は、「現代語訳」にチャレンジするよりも、敗戦前までに出版された子ども向け解説本をご覧になったほうがいろいろおトクですよ。国会図書館でただで読めるもののなかでお薦めは教育勅語渙発五十周年奉賛会編『教育勅語児童読本』(帝京書房、1940年)です。
デジタル化された資料へのリンクはこちらであります。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030037
この「児童読本」を参考にしつつ、原文の文脈やニュアンスを損なわないように現代語訳を試みたところ、以下のようになった。この勅語本来の傲慢さと思い上がりがよく分かると思うのだが、どうだろうか。
[1] 『教育勅語くだけた口調で 「内容知ろう」 高橋源一郎さん現代語訳』 東京新聞 2017.3.27
[2] 坂本太郎・家永三郎・井上光貞・大野晋 『日本書紀(一)』 岩波文庫 1994年 P.132
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執筆: この記事はバージルさんのブログ『読む・考える・書く』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年10月05日時点のものです。
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