【詳報・原理編】2018年ノーベル物理学賞はレーザーの革新的な研究とその応用に!(日本科学未来館科学コミュニケーションブログ 科学コミュニケーター 高知尾 理 )
ガジェット通信 / 2018年10月10日 13時0分
今回は『日本科学未来館科学コミュニケーションブログ』科学コミュニケーター 高知尾理さんの記事からご寄稿いただきました。
【詳報・原理編】2018年ノーベル物理学賞はレーザーの革新的な研究とその応用に!(日本科学未来館科学コミュニケーションブログ 科学コミュニケーター 高知尾理)
みなさんはレーザーと聞いて何を思い浮かべますか?
レーザーそのものを用いるレーザーポインターを始め、CDを読み取る装置やバーコードリーダー等にも使われています。産業や研究業界においても、物を加工する技術や距離を測る技術などとして、幅広く用いられています。
こうしたレーザーには、照明から届く光と異なりいくつかの特徴があります。それは、まっすぐ進む特徴である「直進性」や同じ色の光だけでできているという「単色性」、またエネルギーを一か所に集めやすいことなどです。 レーザーは1958年に理論が提唱され、1960年に初めて実現されました。それ以来、さきに述べた様々な応用につながっています。
今年2018年のノーベル物理学賞はレーザーの革新的な応用と性能向上に貢献した3人の研究者に授与されました。賞金の半分は、レーザーを用いた光ピンセットの発明と生物システムへの応用につなげたアーサー・アシュキン博士に、残りの半分が高強度、超短光パルスを生成する方法について共同で研究を行ったジェラール・ムル博士とドナ・ストリックランド博士に与えられました。
(1)アーサー・アシュキン博士の研究
アーサー・アシュキン博士が開発したのは、「光ピンセット」という技術です。
アシュキン博士の研究がきっかけで、超微小な力で生体試料 (細胞やタンパク質)を動かしたり、これにかかる力を正確に計測する事ができるようになりました。
光ピンセットってどんなもの?
小さな点に集光した光の中心 (焦点)に向かって発生する力を利用して、誘電体を動かす技術です。レーザー光をレンズにより集光すると、その焦点に向かって力が発生します。この焦点を動かすと力が発生する位置が変わり、それに引きつられて物体も動きます。この時に発生する力が超微小です。とても小さな力を物体にかけることができたり、物体が動いた時にかかった小さな力を正確に測定することができます。
光ピンセットで発生する力は、動かしたい物体周辺で光が屈折して進行方向が変わるために発生します。方向の変化により、光の持つ運動量が変化するときの力の反作用で光による圧力 (放射圧)が発生します。この放射圧という、細胞や生体試料 (DNA、タンパク質)にダメージを与えづらい力を使って物体を操作するため、これらを壊さず扱う事ができます。
光ピンセットの応用が特に期待されている分野は、分子モーターの世界です。私たちの体は、たくさんの小さなモータータンパク質という分子モーターによって支えられています。
それではこれらの運動の観察やメカニズムの解明にどうアシュキン博士の研究が生かされたのでしょうか?
詳細は明日以降のブログでお伝えします!
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20181003-20183-100001-10nm.html
(2)ジェラール・ムル博士とドナ・ストリックランド博士の研究
レーザーの中で短い間隔で点滅を繰り返すものがあります。これを「パルスレーザー」と呼びます。ちょうどカメラのフラッシュを何度も焚くようなイメージです。
レーザーが発明されて以来このパルスレーザーの強度を上げることが課題でした。しかしながらレーザーを増幅していくと増幅器が壊れてしまう問題がありました。
そこで両博士が考えだした方法がCPA(Chirped pulse amplification)という方法です。チャープ(Chirp)というのは、時間とともに波長(周波数)が変わる信号です。時間とともに波長が引き延ばされて長くなったり、逆に時間とともに波長が縮められて短くなったりします。図で書くとこんなイメージです。
波長が時間とともに短く(狭く)なる様子
出典:Georg-Johann (Wikipedia Commonsより)
パルス信号が引き延ばされるとピークの強度が弱まります。そのため、引き延ばしてから増幅すれば増幅器にダメージを与えずレーザーパルスを増幅することができるのです。手順は以下の通りです。
(1)回折格子でパルス信号を引き延ばす(それによりピーク強度が小さくなる)
(2)増幅器で増幅する
(3)引き延ばされたパルス信号を元に戻す。
チャープを使ってパルス信号を増幅する仕組み
©Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences(日本語訳は日本科学未来館による)
この方法により、レーザーパルスを劇的に増幅させることに成功しました。そのときのジェラール・ムル博士はドナ・ストリックランド博士の指導教官で、ストリックランド博士の最初の論文となりました。1985年のことです。
簡単には書きましたが、これらを行う装置を実験室のレーザー装置の中に入れることは大変なことです。それに成功したことも評価された大きな要因です。
さて、この高強度なパルスレーザーがどんなところに応用されているか?こちらも、次回のブログでお伝えしたいと思います!
最後に、アーサー・アシュキン博士、ジェラール・ムル博士、ドナ・ストリックランド博士、改めまして受賞おめでとうございます!!
執筆: この記事は『日本科学未来館科学コミュニケーションブログ』科学コミュニケーター 高知尾 理さんの記事からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年10月08日時点のものです。
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