入浴は急死を誘発する最も危険な日常行動(すきま医学)
ガジェット通信 / 2018年10月22日 15時0分
今回はブログ『すきま医学』からご寄稿いただきました。
入浴は急死を誘発する最も危険な日常行動(すきま医学)
![](https://px1img.getnews.jp/img/archives/2018/10/01-2.jpg)
厚生労働省の研究班の調査によると、日本全体の入浴中急死者数は年間約19,000人と推定され、冬季に多く、ほぼ9割が65歳以上の高齢者、ほぼ9割が浴槽内での発生、とのことです[1]。交通事故死者数(平成29年:3,694人)をはるかに上回り、自殺者数(平成29年:21,321人)に匹敵します。防止策が講じられ後二者は減少傾向にありますが、入浴中急死に関しては、一般市民への(防止策も含めた)周知が不十分であると思われます。
日本は世界有数の溺死国(そのほとんどが高齢者)です。2000~2002年のWHOの統計によると、小児や若年者はほぼ同等ですが、65歳以上の高齢者の溺死率は他の先進国より極めて高い水準にあります(男性は米国の約12倍)。日本の高齢者の溺死は浴槽溺死をほぼ意味します。浴槽溺死率はなんと米国の約25倍です(日本の浴槽溺死者数を4800人と仮定した場合。1979~1980年の米国では710人)[1]。
入浴可能な健康状態にある高齢者が入浴中に急死するのは何故か。死因究明には法医学的検索が重要ですが、異状死体(医師によって病死であると明確に判断された内因死による死体以外の死体)の日本の解剖率は11.2%(平成22年:司法解剖4.7%、行政解剖6.5%)と諸外国と比較しても極めて低い水準であり、また解剖しても、「入浴中急死では原因不明が多い」ことからこの検索には限界があります。
入浴中急死者と被救助者は背景としての共通点も多いため、彼らは連続する病態を有するとも考えられます。両者を分析した日本救急医学会の実態調査によると、入浴中急死の原因は、従来考えられていた心臓病や頭蓋内出血の可能性は否定的で、「体温上昇および血圧低下による意識障害や脱力のために出浴が困難となりさらに体温が上昇し致命的になる状態(熱射病)、意識障害による溺没・溺水からの溺死、血圧低下が遷延・進行しての心停止」であると結論付けています[1]。
湯冷め対策としてなのか、それとも「身体を温めると健康になる」との考えからか、風呂好きな日本人は比較的長時間の高温入浴を好みます(高齢者は特にその傾向が顕著)。入浴事故は早期に発見すれば死亡には至らず、体温低下に伴って回復し、軽症にとどめることが出来ると考えられています。以下に入浴事故の予防法を列記します。
1. 湯温は41度以下、入浴時間は10分まで(タイマーの活用が望ましいが、おでこや鼻の頭が汗ばむ程度が目安)
2. 飲酒後はアルコールが抜けるまで入浴を控える(飲酒しなければ安全との誤解も解く必要がある)
3. 精神安定剤、睡眠薬などの服用後入浴は危険
4. 食直後の入浴を控える(高齢者は意識障害や血圧低下を来しやすい)
5. 浴槽は浅め(あるいは水位を下げる)で半身浴が望ましい(ただし長時間入浴は不可)。縁に手をかけて入浴する(溺水の予防のため)
6. 強い疲労を感じる時は入浴を控える(疲労による交感神経の過緊張後の入浴は意識障害や血圧低下を来しやすい)
7. 浴槽の出入り場に手すりを設置。脱衣場等に椅子を設置
8. 入浴前に脱衣所や浴室(例えば、シャワーで湯をためる等)を暖める(入浴時の温度差を少なくするため)
9. 入浴前に同居者に一声掛け、同居者は、普段より入浴時間が長い時は入浴者に声掛けをする。高齢者は出来るだけ一人で入浴しない(入浴事故は個別の浴室で発生しやすいので公衆浴場が望ましい)
10. 単身者の場合、出浴時に浴槽の栓を抜く習慣をつける(溺水の予防のため)
11. 出浴時には急に頭位を高くしない。浴槽の縁に座る(血圧低下を防ぐため)
12. 入浴後に水分補給をする
参考資料
[1] 平成25(2013)年度 厚生労働科学研究費補助金(疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究)「入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究」研究代表者 堀 進悟(慶應義塾大学医学部)
執筆: この記事はブログ『すきま医学』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年10月21日時点のものです。
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