『グリーンブック 』監督インタビュー「初対面の人に先入観を持ってしまうことは誰にでもある。そこから相手を知ることが大切なんだ」
ガジェット通信 / 2019年3月13日 17時0分
トロント国際映画祭での<観客賞>受賞を皮切りに、第76回ゴールデン・グローブ賞で作品賞(ミュージカル&コメディ部門)を含む今年度最多の3部門を受賞。先日行われた第91回アカデミー賞で例年以上に混戦した作品の中で見事受賞を果たし、助演男優賞、脚本賞の3部門受賞に輝いた『グリーンブック』。現在大ヒット上映中です。
1962年の差別が色濃い時代、黒人用旅行ガイドブック「グリーンブック」を頼りにツアーへ旅立った、ガサツで無教養だけれど人間的魅力に溢れるトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)とインテリな黒人天才ピアニスト、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)。正反対のふたりの壮大なズレに笑い、やがて”まさかの友情”で結ばれる様子に涙するヒューマンドラマとなっています。
本作の監督を務めたのは、『ジム・キャリーはMr.ダマー』(1994)や『メリーに首ったけ』(1998)など数々のヒットコメディで知られる、ファレリー兄弟の兄・ピーター・ファレリー監督。アカデミー賞受賞監督でありながらとってもチャーミングなファレリー監督に色々とお話を聞いてきました。
――アカデミー賞3部門の受賞、おめでとうございます!
ファレリー監督:ありがとう!(満面の笑顔で)
――監督の周りのコメディ・クリエイター仲間は何と言っていましたか?
ファレリー監督:ジェラシー! 嫉妬されたよ。まさか自分がアカデミー賞を受賞するなんて、僕自身も驚いたけど、友人たちもいまだに驚いている感じだよ。『グリーンブック』を作っている時に、オスカーのことなんて微塵も考えたことはなかった。アカデミー授賞式の2カ月くらい前に、ありがたいことにその他の賞も色々とりはじめて、「もしかして(アカデミー賞を)獲る可能性もあるのかな……?」と実感してきたんだ。
――マハーシャラ・アリさんも見事助演男優賞を受賞されて、ヴィゴ・モーテンセンも素晴らしい演技でした。お2人とは喜びを分かち合ったのでしょうか?
ファレリー監督:アカデミー賞授賞式の夜は、まるで動物園みたいにみんながドドドッて押し寄せてきて2人と会話が出来なかったんだ(笑)。2人とも、一人の男として、人間として、最高なんだ。出会った瞬間からウマがめちゃくちゃ合ったからね! 映画というものは、作っている時はに絆が生まれるものだけど、特にこういうタイプの作品だから、より皆の絆が深まったのかもしれない。
――トニー(ヴィゴ・モーテンセン)とシャーリー(マハーシャラ・アリ)の2人の関係がとっても素敵に描かれていましたが、どの様にお話を組み立てていかれたのでしょうか?
ファレリー監督:この映画は正反対の性格のキャラクターが、旅の中で少しずつ「ここは自分と共通している」と知っていくストーリーなんだ。シャーリーが連行されてしまって、トニーが解決するシーンで、翌日、シャーリーが「昨夜のことは悪かった」と言うと、トニーは「よく見慣れているし、この世界は複雑なものだから」と言う。あの瞬間から、たぶんトニーは自分が持っていた黒人に対するステレオタイプなイメージが消えて「シャーリーは多面的な一人の人間なんだ」と思いはじめたんだと思う。初めて会う人に先入観を持ってしまうことは、誰もがあると思う。大体の場合、その人を知るにつれ、実際はそうではなく色々な側面を持っている人なんだと知って、成長してく。僕はこの物語のそういう部分に惹かれたんだ。
――本作は社会的なテーマを描いていながら、2人の男のロードムービーとしても楽しめる作品ですよね。
ファレリー監督:ロードムービーがどうということを意識してはいなかったんだけど、例えば僕が今まで作ってきた作品でいうと『ジム・キャリーはMr.ダマー』も『キングピン/ストライクへの道』も『メリーに首ったけ』も実はロードムービーの要素があるんだよね。「ロードムービーをやろう!」と意識しているわけではないんだけど、ロードムービーだと「この映画いい感じっぽいね」って思う気持ちも分かるんだ。
僕が思うに、車で長時間移動するという行為は普段の生活とは大きく違うので、不慣れな分だけいろいろなことに対してオープンな気持ちになれるんじゃないかな。僕はよく車でアメリカ横断をしているんだけど、旅に出ているときは、普段の生活とはまったく違う世界に身を置いているし、考え方もいつもとちょっと違う。その場における自分はアウトサイダーの立場でもある。多くの人がロードムービーが好きなのは、車で移動するという行為をとおして、人間がお互いに対してよりオープンでいられるように思うからだと思う。
――本作の話とは少しずれますが、監督は来日記者会見での記念挨拶の掛け声で「Shoplifters!(万引き家族)」と思わず叫ぶほど、『万引き家族』がお気に入りだそうですが、どの様な部分に惹かれたのですか?
ファレリー監督:まず、ああいったテーマの映画というのを観たことがなかったので驚いた。そして、フィクションではありながらも現代の問題を非常に上手に描いている所に惹かれたんだ。貧困で犯罪をおかしながらもお互いに支え合って、そして、少年が同じく万引きをしようとする自分よりも年下の少女を「君はしちゃいけない」と止める。過酷な状況でありながら浮かびあがってくる人間性というものに感動した。2017年(全米公開)には『The Florida Project(フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法)』という作品もあって、同時に世界中で子供の貧困を描いた作品が作られたことはとても興味深いよね。
――『グリーンブック』もそうですが、エンターテイメントでありながら色々な事を考えさせるという、映画の役割が再び強くなってきたのかもしれませんね。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
映画『グリーンブック』大ヒット上映中!
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