犯罪者インタビュー:「スシスシ詐欺」の男
ガジェット通信 / 2019年4月3日 21時0分
特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。裏社会ライターなんて商売をやっておりますと、いろいろな過去を持つ人々と知り合う機会が多くなります。
しかし最近知り合ったのは寸借詐欺を繰り返し、3回も手錠を打たれたEさん(55歳)でした。彼なりに工夫を凝らした詐欺を繰り返していたそうなんですが、話を聞きながら興味を持ってしまったのは新ジャンルの詐欺である“スシスシ詐欺”の手口でした。
今回は彼がどうやってそれを思いついたのか、さらにその手口はどんなものなのかを教えてもらいました。
(※編注・マネすると犯罪になります)
詐欺師歴35年の彼が編み出した騙しの数々
丸野(以下、丸)「これまでどんな詐欺の手口を考えてこられましたか?」
Eさん「そうですねぇ、行列のできる店の前で注文を聞いて回って前払いで料金を受け取ったり、連れ込み宿(※ラブホテル)の前に張り込んで不倫らしきアベックを撮影して金をせびったり、他人が所有している山で勝手に松茸狩りの看板を出して金を騙し取ったり……そんな感じかなぁ」
丸「刑法264条の詐欺罪などに当たりますけど、なんだか地味ですね」
Eさん「前科三犯になっちゃったし、もう歳だしね。それじゃあ立件しづらい“ユルい詐欺”で、老後は地道にやっていこうと思ったわけですよ。で、そこで考え出したのが、オレオレ詐欺ならぬ“スシスシ詐欺”」
丸「今までの詐欺の経験を集約したのが、“スシスシ詐欺”なんですね?」
Eさん「そうなんですよ」
「ウチのバカ息子が……」
丸「でも、なんで寿司なんですか?」
Eさん「オレ、寿司握れるんですよ。昔、詐欺師になる前に鮨屋で板前修業してたから。酢飯も作れるし、一連の動作を体が覚えてる」
丸「寿司屋になっていた方がよかったんじゃないですか?」
Eさん「まぁね、人生いろいろありますよ。詐欺の手口としては実にシンプル。この方法は刑法には触れないのがミソ(※)。まず仕出し屋の衣装を着て、昼メシ前の11時頃、いくつも会社が入ってる(オフィス)ビルに向かうの」
※編注・個人の見解です
丸「それから?」
Eさん「で、それぞれの会社を直接訪ねて、“すんません! 別のフロアに配達するはずの特上寿司の折り詰め5個を、ウチのバカ息子が間違えて50個って注文受けちゃったんです。大量に余らしちゃったんですが、お安くしますので助けていただけませんか?”と声をかけるんですね」
丸「ほほう」
Eさん「2,000円のところを1,500円で買い取ってくださいと持ちかける。オレみたいな年寄りが物悲しい眼をしてれば、相手の同情心につけ込めるわけですねぇ。“まぁ、お気の毒に! じゃあ、みんな大将に協力してあげましょう!”となるわけでね」
丸「ヒドいですね、ホント」
Eさん「昼食前ということもあって、安さに釣られて買ってみると、中身はかっぱ巻きやしんこ巻きの巻き物だけ。期待した握り寿司は入ってなく、もともと100円もしない寿司しか入っていない。しかも醤油すらついていない。折り詰めに店名も電話番号も書かれちゃいなので、苦情の入れようがない」
丸「1日に何個ぐらいの巻き物の寿司を作るんですか?」
Eさん「大体50ですねぇ。どこのオフィスでもこの声掛けをすれば、4~5件で、すべて完売です。1日に70,000円ほどの稼ぎにはなりますねぇ。さらにこれね、現金支払いの対価を生鮮食品で渡しているので、詐欺事件として立件するのは難しく不可能に近いんですよぉ。おまけに相手はどこの誰だかわからず、領収書もなし。」
丸「寿司を食べていない状態をもとに不実告知(※)を立証して、契約無効を争うことしかできないんだ」
※編注・不実告知:事業者が消費者と契約を結ぶ際に、重要事項について客観的事実と異なる説明をすること。騙された購入者が消費者契約法を元に争う場合、不実告知であることを立証して契約取り消しをはかることができる
Eさん「1日数時間、自宅で寿司を作ってから軽自動車でオフィスを回って、ものの40分ほどで仕事が終わる。それからはパチンコ。楽な仕事ですよ、本当に。でも一筋縄ではいかない職場もあってね」
丸「と、いいますと?」
スシスシ詐欺の失敗
Eさん「“これ全部いただくから、それでその息子さんはおいくつ? どこの保険に入られてるの?”と保険会社に営業をかけられたり、懸賞詐欺の会社に飛び込んで怒鳴られたり……」
丸「いろいろと苦労もあるんですね」
Eさん「一度逃げ出したのは“おっちゃん大変やな。今から総長が来られるから全部もらうわ”とヤクザ経営の会社に飛び込んだとき。こんな代物を売りつけたら最後、地の果てまで追いかけられるハメになりますから……」
丸「一番の修羅場はどんなことが起きたときでした?」
Eさん「同じビル内で30個売りつけて、階下の会社へ行ったときでした。“すいません! ウチのバカ息子が……”といつもの感じで入ってゆくと、そこは超ブラック系企業の営業会社だったらしく、けたたましく電話が鳴ってたんですよ。そしたら、“なんだ、寿司屋? おお、今事務所に入ってきた。……ふんふん、何? おいコラ、どういうことだ! ジジイ!! 上の会社もウチの系列会社だ!!”って、ビル中を追いかけまわされて……。あのときは生きた心地がしなかったですねぇ、ええ」
丸「同じビルに入っているといっても、普通はテナント同士で交流すらありませんよね。しかし、系列会社で(Eさんのことが)筒抜けになるとは……。ご愁傷様です」
Eさん「対面式の詐欺ですんで、法的制裁ではなくて直接鉄拳制裁を加えられる恐れがあるのが“スシスシ詐欺”です。素人は手を出さない方がいい。玄人の私でさえ、もうやってはいません。あのときは本当に死ぬかと思いました」
■
いかがでしたか?
ひょっとするといつの日か、あなたが勤める会社のオフィスにも、Eさんがやってくるかもしれません。彼のお手製かっぱ巻きを食べてみてはいかがでしょうか?
(C)写真AC
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