ゾンビミュージカル『アナと世界の終わり』監督インタビュー 「リアルな青春物語がだんだんホラー映画になっていくんです」[ホラー通信]
ガジェット通信 / 2019年6月1日 22時0分
じわじわと話題を集めている青春ゾンビミュージカル『アナと世界の終わり』が5/31にいよいよ公開。
本作は、“ライアン・ゴズリングがシリアルを食べない動画”で話題となった今は亡きライアン・マクヘンリーの短編『ZOMBIE MUSICAL』を原案として長編映画化したもの。リアルな青春ドラマであり、ミュージカルであり、ゾンビコメディでもある物語を見事に映像化した、新鋭ジョン・マクフェール監督にお話を伺いました。
[インタビュー時の様子 左:ジョン・マクフェール監督 中央:ロディ・ハート(音楽) 右:トミー・ライリー(音楽)]
――これまでいくつかの短編と長編一本(日本未公開)を監督されていますが、いずれもロマンチック・コメディですね。ホラー的な要素のある映画を撮るのはこれが初めてだったのですか?
ジョン・マクフェール監督:どうしてこれまでロマンチック・コメディばかり撮る状況だったのか自分でもよく分からないんです(笑)。当時付き合っていた彼女にも「あなた全然ロマンチックじゃないし、私と一緒にそんな映画を観もしないくせに、なんでそんな映画撮ってるの!」と怒られたくらい。スコットランドってね、作られる映画がどれもすごく惨めなんですよ。ドラマにしても、ドラマチックすぎて落ち込むようなものばかり。だから逆に、楽しくて素敵なものを作りたいというような想いがあったのかも。でもね、実のところ僕のDVDコレクションはホラー映画が大きな割合を占めていて、あとはコメディ、そしてロマンチックなものはほんのちょこっとです(笑)。
――大のホラー映画ファンだということで、今回のようなゾンビ映画を撮るのは念願だったのでは?
マクフェール監督:もうほんとに念願叶ったという感じです! 今回の映画で、ステフ(主人公アナの友人)がスパチュラで退治するゾンビがいるんですが、それを演じたタイラー・コリンズは僕の大親友なんです。タイラーと一緒にいたときに濃霧が迫ってきたことがあって、「『ザ・フォッグ』と『28日後…』を組み合わせたゾンビ映画とかさ、いつか作れたらいいよなぁ」なんて彼が言うんですよ。でも僕は「もうゾンビ映画は死ぬほど作られてるし、僕にそんな機会なんて回ってこないよ」なんて言っていた。その3年後にまさかゾンビ映画の監督をしているなんてね!
ゾンビは子供たちが初めて対峙する“死”の象徴
――実際にゾンビ映画というのは沢山あるわけですが、他の作品との差別化については考えていましたか?
マクフェール監督:「ゾンビ映画として新基軸を!」という気持ちはあまりなくて、あくまで主役は子供たちかなと。この映画におけるゾンビというものは、登場人物たちにとっての“脅威”であると同時に、“死”の象徴でもあるんです。10代の子供たちが初めて体験する、向き合わなければならない“死”をゾンビが表現している。なので僕にとってこの映画の中心はキャラクターたちのドラマであり、彼らの友情や関係性、成長の物語です。
自分の求めるものが、自分の思ったとおりの道のりで手に入らないことも人生にはたくさんあるわけです。回り道をしながらどうやってそこにたどり着くか、という物語でもあって。“ゾンビは脅威の象徴ではあるけど物語の中心ではない”といったところでしょうか。ただ僕もホラー映画ファンなのでね! ゾンビの造形は黄疸を強くしたり、「動きや歩き方はこうしよう」とかあれこれこだわらせてもらって、めちゃくちゃ楽しかったですけどね(笑)。
リアルな青春物語がだんだんホラーになっていくんです
――正直この映画を観る前に「キラキラしたティーンエイジャー物なのかな」と身構えていたんですが、実際はそんなことはなく、人生のシビアな側面を描いている物語でしたね。キャラクターたちも“クラスの人気者!”みたいな感じではなくて、ごく普通の生徒たちです。そういったリアルさはこだわりだったのでしょうか?
マクフェール監督:リアルさはとても重要なことでした。若者をきちんと描くということを重要視していて。若い子たちって実はとても頭がいいですよね。周りで起きている事を、大人が思うよりも遥かにちゃんと把握している。一方で、いわゆる“若者っぽさ”もあって、ゾンビアポカリプスが起きても「ジャスティン・ビーバーがゾンビになった」とか、「テイラー・スウィフトはどうしてるか」とか、そういうセレブの噂話はするだろうなと(笑)。そういうことを含めてきちっと描くというのはすごく重要でした。
物語の冒頭は、観客のみなさんに登場人物がどんな人間なのかを知り、思い入れを持ってもらうための、リアルさに根ざした“青春パート”です。彼らもいろんな夢があるし、不安もある。そういったものを描きながら、物語が進んでいってだんだんホラー映画になっていくんです。この映画は、音楽や脚本やゾンビとのバトルも楽しいけれど、その物語を引っ張っていくのはキャラクターなので、まずは最初にキャラクターを好きになってもらうことが大事だと考えていました。
――まさしく、映画の冒頭の“青春パート”でキャラクターたちがとても好きになりました。ジョンが歌う「これはディズニーじゃない(This isn’t Disney)」という歌詞がその後の惨劇を予感させもして、ドキドキしましたね。
マクフェール監督:『Hollywood Ending』の「This isn’t Disney」の歌詞は、スコットランドのアクセントで「Isn’t it」が“イズニー”という感じの発音になるので、“ディズニー”とかけているんです。今回は監督の僕も脚本家も作曲家ふたりも全員男性でしたが、10代の女性視点の音楽も作らなければならなかった。歌詞について議論する機会も沢山つくり、キャラクターやそのバックグラウンドが伝わるようなものを目指しました。「これから先の展開は思ったとおりにはならないよ」ということをほのめかす歌詞も入れ込んでいます。
安全な道を歩くより、失敗してそこから学びたい若者たち
――アナのキャラクターも非常に印象的でした。恋愛に夢見てもいず、守ってもらうことも考えず、積極的にゾンビと戦っていきますよね。あのキャラクターはどうして生まれたのですか?
マクフェール監督:アナは“自分なりの声”を持ったキャラクターにしたかったんです。アナの親は彼女に進学して良い職についてほしいと思っている。どんな親だって子供のためにそれを望むだろうけど、子供の方からすると、違う夢を持つこともある。親だって、自分の選択を後悔していることもありますよね。やっぱり若者も、誰かから言われて安全な道を歩くのではなく、自分で失敗してそこから学びたいものだと思うんです。アナはまさしくそういう子で、ある意味ではみんなと変わらない等身大のキャラクターです。色んなことを経験していて、恋愛の失敗も経験して、ジョンは親友だから恋愛関係にはなりたくないとか、自分の中でそういう整理ができている。ブレがないんですよ。そういった彼女の強さが、経験を経て更に強くなっていくのを描ければいいなと思いました。
――本作で他のホラー映画の影響を受けている部分はありますか?
マクフェール監督:実は沢山の映画へのオマージュを詰め込んでいるんです。僕らはみんなホラー映画ファンだし、とにかく映画そのもののファンなので、思いつくことは全部やりました(笑)。墓地を歩いているシーンは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』から来ているし、その他にも『死霊のはらわた(EVIL DEAD)』『死霊のえじき(DAY OF THE DEAD)』『ブレインデッド』、ザック・スナイダーの『ドーン・オブ・ザ・デッド』、“デッド”と名のつく映画は全部オマージュを入れました! あとは三池崇史監督の『カタクリ家の幸福』のポスターを映り込ませたり、アナのベッドの横の棚に貝殻が置いてあるのは『デモリションマン』へのオマージュです(笑)。
――(笑)。そういったイースターエッグを探すのも楽しいですね!
マクフェール監督:自分たちでも忘れてるくらい色々入れたので、観るたびに「あ、これもやったね」と言ってみんなで盛り上がっていますよ(笑)。
映画『アナと世界の終わり』
5/31(金)公開
―― 表現する人、つくる人応援メディア 『ガジェット通信(GetNews)』この記事に関連するニュース
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