『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』ファティ・アキン監督インタビュー 「作り手として初めて妥協していないのがこの作品なんです」[ホラー通信]
ガジェット通信 / 2020年2月13日 23時0分
30代で世界三大映画祭の主要賞受賞という快挙を成し遂げ、2018年公開の『女は二度決断する』でも話題を呼んだファティ・アキン監督が、次の題材に選んだのは、自身の生まれ育ったドイツ・ハンブルクに実在した連続殺人犯だった。
2/14より公開となる『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』は、1970年から75年にわたって4人の娼婦を殺害した男、フリッツ・ホンカの日常を描いたアキン監督初のホラー映画だ。ホンカは遺体をバラバラにして一部は外に捨てたものの、残りを部屋に隠していたため、たまたま起こった火事で遺体が発見され、逮捕された。73年生まれのアキン監督は、リアルタイムでの事件の記憶こそなかったものの、ホンカは幼少期の“おばけ”的な存在であり、大人たちに「気をつけないと、ホンカにつかまるぞ!」と言われて育ったという。
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ファティ・アキン監督「僕の育ったハンブルクでは、彼は民話的な存在になっているんです。彼が逮捕されたあと、1980年くらいまで及んだ裁判があるんだけど、かろうじて僕にも裁判のニュースの記憶はありますね。僕が10代のときに彼が退所したんですが、それまで刑務所ではなく閉鎖病棟のようなところにいたんですよ。そのころに、彼が釈放されるべきなのかそうでないのかという議論があったのを覚えています。ハンブルク含めドイツの北の方ではそこそこ知られていたんだけど、全国区での知名度はそれほどなかった。原作小説「The Golden Glove」やこの映画を通して、ドイツの愚かな彼のことを世界が知ることになったわけですね。
劇中にも登場する、ホンカが通っていたバー“The Golden Glove”は今でもありますよ。学生時代にわりと近くに住んでいたんだけど、絶対近くに行かなかったんです。一度だけ、タバコを切らしたときに買いに行ったくらいかな。そのバーは、入り口の所に「ここがホンカの場所だった」とメッセージが書いてあるんですよ。観光名所になっているというわけではないけど、このインタビューを読んで「行ってみたい!」と思う人にとってはそうなるのかもしれません。初めて行った人は、「思ってたよりもひどくないね」とおっしゃいますよ(笑)」
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映画のベースとなっているのは、ドイツのエンターテイナーで作家のハインツ・ストランクが、同事件を加害者目線で綴りベストセラーとなった小説「The Golden Glove」。アキン監督は、自分が生まれ育った地の殺人犯を題材にしたこの小説に魅了され、ホラー映画として映画化することを決めたという。原作者のストランクは、劇中でバーの客としてカメオ出演も果たしている。
アキン監督「もともと作家だとチャールズ・ブコウスキーやミラー、バロウズなんかが大好きで。前からブコウスキーは脚色したいと思っていたんですが、原作者もブコウスキーが好きなんですよ。そこで気が合ったんでしょうね。原作小説を読んだときに、僕は挑戦を突きつけられたような気がしたんです。ムーディと言ったらいいのかな、殺人の場面であったりバーの場面であったり、独特のムードがある描かれ方だったんです。それを果たして自分の映画のテクニカルなスキルで映像化できるだろうかという挑戦ですね。
それと同時に、ずっと作りたかったホラー映画を撮るチャンスでもあった。僕はホラー映画が好きなんですよ。いま映画監督をやってるのもホラーというジャンルへの想いがあったから、という部分があって。最近の『ゲット・アウト』『アス』や『The Lighthouse』(※『ウィッチ』のロバート・エガース監督の最新作。日本公開未定)、こういった作品が大好きです。自分だったらどんなホラー映画を作るだろうかと考えたときに、そもそも自分が怖いものはなんだろうかと突き詰めていくと、僕は幽霊がそんなに怖いわけではないと気付いた。ファンタジックなものよりも現実的なもののほうが怖さを感じるんです」
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自身が恐怖を感じるという“現実的なもの”=地元の連続殺人犯を題材に、念願のホラー映画を完成させたアキン監督。その感想を伺うと、作り手としての喜びに満ちた回答が返ってきた。
アキン監督「作ってる過程は、ホラーというジャンルを学んでいるような気持ちでした。エンターテイメントとして楽しめるものを作ると同時に、学びを得ているような部分があったんです。これはほんとうに正直な気持ちなんですが、これまで作ったすべての映画において、満足していないんですよ。観客の体験として妥協してもらっているわけでは決してないけれど。作り手として、金銭的だったり自分の忍耐が足りなかったり、誰かを傷つけないために妥協してしまう、ということが毎回あった。その妥協を一切していないのが今回の作品なんです。なので色んなことを学んだし、作るのも怖かったけど、それがあの小説が突きつけてきたチャレンジだと思ったし、念願のホラー映画を作るチャンスでもあったから。
実はこの作品が進むと同時に、ブラムハウス・プロダクションズ(※ホラー映画プロデューサー ジェイソン・ブラムの製作会社)からスティーブン・キングの小説の脚色をしないかというオファーがあったんですよ。それにあわせて今回の映画を3ヶ月前倒しにして撮影したので、スタッフの気が狂いそうになりましたけど(笑)。ただ、この作品を撮ったらわざわざアメリカまで行ってキングの脚色のホラー映画を撮る必要もないなというくらい充実を感じてしまったんですよね。結果的に、タイミングがあわなくて企画は頓挫してしまったんです。でもそれでもまったくがっかりしなかったくらい、本当にこの映画で充実していたんです」
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『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
2月14日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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