掟・しきたりがいっぱい! 花見や祭りを彩る「露天商」に話を聞いてみた
ガジェット通信 / 2020年3月19日 7時30分
どうも、特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
これからの温かくなる季節、春の花見は楽しみなもの。
そんな花見の名所、商店街の盆踊り大会、神社やお寺の例祭や年中行事などなど、人々が大勢集ってくるところを楽しく彩ってくれるのが“露店”。
たこ焼きやお好み焼き、唐揚げ、タピオカミルクティー、綿あめなどの食べ物屋から、お面やコルク鉄砲の射的、輪投げ、くじ引きなどの娯楽店などが色とりどりに並び、大人になってもワクワクしてしまいますよね。
これらが、タカマチ(祭縁日)で稼ぐことを生業にしているテキ屋の仕事です。
今回は、とても忙しいと言われている露天商の内情を、現役テキ屋の草刈敦さん(仮名/51歳)に聞くことができました。彼らの仕事とは一体どのように進められるのか、綴っていきたいと思います。
露天商で使う様々なテキ屋用語
丸野(以下、丸)「どうも。露天商にはいろんな種類があるとお聞きしたのですが……」
草刈さん「ああ、そうやね、あるね。隠語みたいなテキ屋用語ってたくさんあるよ。基本的なもので言うと、露店の種類やね」
丸「へ~、隠語ですか」
草刈さん「まず、食べ物関係の露店を“コミセ”って呼ぶ。植木や苔玉を打ったりするのが“ハボク”、靴やバッグなんかを叩き売りをする“大締”、遊戯ものを扱う“ハジキ”、見世物や幽霊屋敷などが“タカモノ”、『男はつらいよ』の寅さんみたいに売り口上で商売啖呵を聞かせる“コロビ”、キャラお面や風船を売る“ナシオト”、易者を“ロクマ”、休憩所や茶屋を“ヤチャ”、くじ引き屋の“ジク”、組み立て式の小さな販売台で商売をするのが“サンズン”と言うね」
丸「へ~、そんなに専門用語があるんですね」
草刈さん「オレらは『神農会(しんのうかい)』というところの組織に入っていて、どの位置で何の店を出店するのか、誰が売り子をやるのかなんかを仕切ってもらってる」
丸「『神農会』ですか……」
草刈さん「露天商を生業にしている子分を抱えた一家やね。露店を出せそうな、多くの人が集まってくるイベントなんかと話をつけて、土地の一角で露店の商売をさせてもらう算段をつける。それから、出店位置の割りふりとか、自治体や警察への届け出なんかをすべて引き受けてくれるから、ホンマに楽やで」
丸「いろいろと手を尽くしてくれると……」
草刈さん「まぁ、その代わりに出店した連中からは、ちゃんとテナント料としてショバ代を取るし、親方は子分に商売に必要な道具や材料を仕入れてやって、売り上げから手数料をもらってるけどね。それがしきたりやから。キャベツやタコ、肉、卵なんかの食材やK-POPのアイドルグッズやエアガン、ぬいぐるみなんかの景品を山のように届くようにするのが親方の仕事。それなりにルートがないと大量買いできないしね」
丸「そりゃ、当然ですよね」
テキ屋はヤクザではない
丸「テキ屋さんって、やっぱりヤクザのイメージがあるんですけど、どうなんですか?」
草刈さん「正直、みんな荒っぽい奴が多いけど、ヤクザとはまったく違う。親方と子分のこの組織は、ヤクザが構えている“組”みたいなものとは全然別ものや。タカマチが執り行われる土地を縄張りにしているヤクザ、同業者には、やっぱりしっかりとアイツキ(六本木=ギロッポンのような付き合いの転倒語、仁義を切るとも言う)しないとアカンから、親方は顔見知りにはなるけど、ホンマに一線を画して商売してるね」
丸「なかなか大変なんですね」
草刈さん「だから、一人前に露天商を取り仕切る親方に人はついていくわけ。このアイツキは少しでも作法を外れたら、喧嘩なんかのトラブルになって大変なことになるから、親方になれる人はやっぱりすごい」
丸「ヤクザ屋さんとはまったく違うんですね」
草刈さん「うん。オレら、テキ屋も立派な個人事業主やから。みんな誇り持って仕事してるよ。仕事しながら酒なんか口にしてないもん。それだけ真剣に商売してるわけ」
いまだ残る古き良き日本の家長制度
丸「すごい結束力ですね」
草刈さん「オレらが、親方を父親のような存在に感じて、親方中心に強く結束しているのは、古き良き日本の家長制度みたいなものなんかも知れんね。今の時代、縦社会じゃなくて、年嵩も若者も同列横社会みたいなものやけど、それでは人のことや道徳を重んじたりしなくなる」
丸「僕もそれは感じてます」
草刈さん「でもテキ屋は、脈々と受け継がれた掟やしきたりの文化を守ることを一番に考えてる。テキ屋の縦社会は、道徳心を失わず、お互いが心地よい距離感を保って、相互扶助の精神を大切にしている。それも無意識のうちに実践されているのがいい。みんな仲がいいし、家族って感じやね」
丸「いい組織のカタチですね」
■
露天商=テキ屋の世界、僕自身、まったく知らないことだらけでした。
草刈さんは、思っていた以上に昔気質で働き者。
露天商というのは、菅原文太の実録路線のやくざ映画ではなく高倉健や鶴田浩二の任侠映画的な人情だけを大切にした世界と言えるのではないでしょうか。
(C)写真AC
(執筆者: 丸野裕行)
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