あまり知られていない「新薬臨床試験ボランティア」の入院生活とは?
ガジェット通信 / 2020年7月17日 11時0分
新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい、ワクチンの完成が待たれている昨今。ワクチンが実用化されるためには、新薬の臨床試験を実施して、その効果と副作用の有無を確認しなければいけません。
もちろん効果検証には人間が必要なわけですが、検証対象となる人はいわば「実験台になる」ということになります。
世の中には、コロナワクチン以外にも様々な新薬が生み出され、実用化するための臨床試験が行われています。今回は新薬の治験ボランティア歴10年の平川誠さん(仮名/37歳)に、世間の人はあまり馴染みのない「新薬臨床試験ボランティア」の生活について、裏社会ライターの丸野裕行がインタビューしました。
<※写真はすべてイメージです>
治験には通院と入院の2種類がある
丸野(以下、丸)「治験ボランティアをはじめられたキッカケを教えてください」
平川さん「失業中だったので、友達に誘われて通院タイプの治験に参加しました。薬を服用しながら、12回病院に通うんです。それで採血とか問診とか採尿、血圧測定を受けて、有償ボランティアの報酬を受け取るんです。そのときは、1回の通院で11,000円だったかな。“これは、おいしいわ”となりまして。それから今ではもう30回はやっているんじゃないですかね」
丸「ええ~、10年間で30回ですか。治験には、通院型もあるんですね」
平川さん「そうですね、通院タイプと入院タイプがあります。30回の治験参加というのは、休薬期間というのがあるんですよ。3~4ヵ月間は、治験を休まないといけないんで」
治験参加の方法
丸「へ~。治験にはどうやって参加するんですか、わからないんですけど」
平川さん「ああ、病院側と組んでいるボランティアセンターに登録するか、治験サイトで探して参加する感じですね。まずは説明会を受けて、治験参加の心得や治験定義、クスリの種類なんかを説明されます。それから健康診断。体の条件が合えば、自分に合ったものに参加ができます。僕なんかは、見ての通り太り気味なので、コレステロール値が高いんです。それだといろんな治験に参加できます。若いうちから軽い疾患を持っていたので、糖尿とか、肝臓の薬とかね」
丸「あのう、唐突なんですが、怖くないですか?」
平川さん「副作用のことですよね? はじめは“大丈夫かなぁ~”とは思いましたけど、まぁ大丈夫ですね。あったとしても、吐き気や下痢、動悸息切れ、食欲がなくなる程度がほとんどですから」
入院タイプの治験はパラダイス
丸「入院タイプの治験ボランティアというのは、なんだか怖そうなんですけど」
平川さん「いやいや、仕事がなかったり、予定がない人間にはパラダイスですよ。病衣を着てからはとにかく検診。食事は3食付いていますしね。食事も病院食みたいにマズくて粗末なものではなく、意外とうまいです。とんかつや唐揚げ、焼肉、豚生姜焼きなどのメインと卵とうふやマカロニサラダなどの副菜とみそ汁、漬物が付いてきます。一人暮らしでラーメンばっかりすすっているような人ばかりが参加しているので、豪華といえるのではないでしょうか」
丸「外に出られない寮生活みたいなものですね。でも、暇をつぶすのが大変そう。僕なんかは、パソコン持っていって仕事すれば、一石二鳥ですけど……」
平川さん「いや、それが違うんですよ。施設によってまちまちだと思うんですが、あてがわれる自分の部屋の他に、食堂や娯楽室があります。娯楽室には『グラップラー刃牙』や『キングダム』などの人気漫画や最新映画のDVDがあったり……」
丸「へぇ~、充実!」
平川さん「この間参加した施設には、プレステ4とニンテンドースイッチがありました。みんな、思い思いにそこで時間を潰します。まぁ、10日以上の入院になることが多いので、同じボランティアの中で友人ができますけど。あ~でもない、こうでもないと1日中話してますね」
一部外出が許される
丸「しかし、パソコンを使う仕事以外で、よくそんな10日間以上も検査入院できますね」
平川さん「いや、みんな働いてない人とか会社の入社日まで時間があるとか、そんな人ばかりですから。実際、僕も仕事をコロコロ変えているので、時間があるときは治験ボランティアに参加しています」
丸「でも、まったく外出できないのはキツいですね」
平川さん「辺りを散歩したり、公園でくつろいだりする時間を取ってくれる治験もあります。でも、これがツラい。だって、ビールの自販機やコンビニ店の誘惑がすごいんですよ。もうねぇ、『カイジ』の生ビールのシーンくらいツラいですよ。間食も取れないしね」
急に発疹が全身に……
丸「なるほど。こう、治験に参加していて、イヤなことはありませんか?」
平川さん「そうですね、やっぱり同室者がいるので、プライベートな空間はトイレだけになっちゃいますね。それと同室者がイヤなやつだったりするとキツいかな。あとは、運動制限があるんですよ。急に体を激しく動かしたりすると、きちんとしたデータが取れないらしくて……。体がなまりますね。1日5回以上の採血もイヤですね」
丸「“これは恐ろしかった!”という出来事はありましたか?」
平川さん「ああ、一度肝臓だったけな? それの新薬治験で薬を飲みはじめた2日後の朝に突然全身発疹が出たことがありました。全身の肌が引っ張られている感じがして。あのときは、同室者に助けを求めましたね。それは治験が中止になりました。症状はすぐに引きましたけど……」
この取材を行ったあとで調べてみると、治験ボランティアというのは厚生労働省の管理下にあり、もし副作用が出たとしても治療や入院費用、薬の代金などの補償をしてもらえるとのこと。
しかし、今回の平川さんのように急に副作用に襲われることもあるということも踏まえると、これを読んでいるあなたが治験に参加するかどうかは慎重に検討した方がいいかと思います。
(C)写真AC
(執筆者: 丸野裕行)
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