平成生まれの若者中心? 巻き起こりつつある「昭和歌謡リバイバル」は音楽シーンに何をもたらすのか
ガジェット通信 / 2020年8月22日 9時0分
近年、昭和歌謡がメディアやSNS上で注目を浴びる機会が増えている。このリバイバルは懐メロとしてではなく、平成生まれの若者による支持が大きく作用しているようだ。昭和歌謡を“新鮮”だと感じ、支持する層が生まれつつあるということだ。
YouTube、テレビの歌謡曲専門チャンネル、海外の音楽ファンによる再評価……きっかけはいくつもあるが、中でも2017年に荻野目洋子さんの『ダンシングヒーロー』(1985年)が登美丘高校ダンス部のバブリーダンスとして注目されたことは大きい。これをきっかけに「何だろう?」とYouTubeを観て、関連して表示される1970年代~80年代の歌謡界華やかなりし頃の映像にハマってしまったという人が相当数いるようなのだ。
今TwitterなどSNSを見ると、女性歌手ならば山口百恵さん、松田聖子さん、中森明菜さん、男性歌手ならば沢田研二さん、西城秀樹さん、田原俊彦さんといった具合に、ルックスも華やかで実力のある歌手たちに10代、20代の新たなファンが大量発生しているのを確認できる。若者は昭和歌謡、歌謡スターたちにどのような魅力を感じているのだろうか?
昭和歌謡はシンプルで覚えやすい
昭和歌謡を音楽的に分析すると、現代のポップスにくらべ非常に覚えやすいことがわかる。日本の歌曲は「5・7・5」調のシンプルな詩的なものに始まり、時代を経ることに複雑に口語的に変化しているのだが、それにともない歌詞の文字数が多くなり続けている。1970年代~80年代のヒット曲の歌詞は200~350文字程度とコンパクトであるのに比べ、近年のヒット曲の歌詞はおおむね500~600文字程度。中には800字を超えるものも珍しくない。
文字数の増加は洋楽のようなリズミカルな歌唱スタイルに寄与しているが、反面、覚えにくさやキャッチーなフレーズの生まれにくさにも繋がっている。そういった音楽に慣らされた若者にとって、一聴しただけで覚えられる強烈なフレーズ目白押しの昭和歌謡は大きなインパクトをもたらしているのではないだろうか。
また、昭和歌謡が日本の大衆音楽の進化の過程で、非常にほどよいバランス感のもと制作されていることもその大きな魅力の一つだと思う。日本のポップスは1970年頃にそれまでのレコード会社主導から、少しずつミュージシャン、アーティストの音楽的嗜好を反映して作られる傾向が強くなっていった。たしかに1950年代~60年代の昭和歌謡は現代のリスナーにとっては若干退屈だと思う。しかし、1970年代~80年代の昭和歌謡は現代のポップスに比べるとコード進行、楽曲構成ともにシンプルなのだが、音楽的技巧がたしかに感じられ、安心感とワクワク感が共存しているのだ。
沢田研二さんのヒット曲『TOKIO』(1980年※シングル盤)はその好例。当時、世界の音楽シーンで注目されつつあったテクノポップの要素を歌謡曲的な楽曲構成の中に取り入れ、子どもからお年寄りまで楽しめる大衆音楽として昇華している。現代では大衆音楽がこのような発想で作られることはほとんどなくなった。テクノポップならテクノポップとして、R&BならR&Bとしてそのまま忠実に作ってしまう。ミュージシャンが理論と創造力を駆使して複雑なコード進行をつむぎ出し、Aメロ、BメロにとどまらずCメロもあって当たり前。現代のポップスは確かに洗練されているのだが、大衆音楽としては良くも悪くも「高度すぎる」のだ。
魅力的だったソロ歌手同士の競い合い
昭和歌謡の魅力を語る上では、個々の歌手たちが持つ個性も無視できない。大勢のグループやバンドがほとんどになってしまった現代の音楽シーンとは異なり、当時はほとんどがソロ歌手。いかにも「スターです」というギラギラ、キラキラしたあの独特のオーラや、1曲に込められた暑苦しいまでの創意工夫はやはりソロや2、3人の少数グループで勝負しているからゆえのものだろう。
またそれが高じて生じた沢田研二さんとピンクレディーの衣装・振付合戦や中森明菜さんと松田聖子さんの陰陽相反するイメージ合戦などはファンを煽るだけでなく、彼らの音楽の魅力をも大いに増幅させていたことは明白だ。歌謡界という土俵の上で強力な個性たちが競い合い、引き立て合う……それが昭和歌謡の大きな魅力の一つとなっていたのだ。
実は昭和歌謡リバイバルは2000年代初頭にも一度起こっている。1970年前後の昭和歌謡をリスペクトするクレイジーケンバンドや大西ユカリさんといったミュージシャンがコアな音楽ファンに注目され、全国規模で昭和歌謡で踊るDJイベントが大量発生したのだ。このリバイバルはほどなくして終息してしまったが、今回のリバイバルはより一般的な音楽ファンの支持により起こっていることから、一時のブームではなく恒久的なものとして残るのではないかと期待している。
「歌は世につれ 世は歌につれ」という文句があるが、新型コロナウイルスの感染拡大によってこれだけ人々が等しく不安の中にいるにもかかわらず、その心を慰め、より所になるような新曲はほとんど登場していない。あえて挙げるなら星野源さんの『うちで踊ろう』や瑛人さんの『香水』くらいか。平成、令和と音楽マーケットの細分化が進んだ結果、仕方のないことなのだが、みんな他者との共感など求めずワイヤレスイヤホンでてんでばらばらな音楽を聴いている孤独の時代だ。
僕はそんな状況を少しだけ引き戻すためにも、海外における「オールディーズ」、「スタンダード」のような音楽ジャンルが確立されるべきだと思っている。音楽マーケットと同じく嗜好や生活様式も細分化が進む現代だが、せめてだれもが共感できる、共通の話題の種にできる音楽ジャンルの一つくらいあってもいいではないか。そして、そうなり得る音楽ジャンルは昭和歌謡をおいて他にないと信じている。現在起こっているリバイバルがそれに繋がるものになればいいのだが。
(執筆者: 中将タカノリ)
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