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むきだしの暴力にさらされる、少年の過酷な運命 映画『異端の鳥』レビュー

ガジェット通信 / 2020年10月9日 17時0分

10月9日公開の映画『異端の鳥』は、けして口当たりのいい作品ではありません。あまりの衝撃に、観終わった後に言葉を失ってしまう人もいることでしょう。でもその体験は、絶対に忘れてはならない何かを心の中に刻んでくれるはずです。

第二次大戦中、東欧のどこかにある小さな村にたった一人で見知らぬ老婆のところに身を寄せている少年が、村の少年たちから酷い仕打ちに遭うところから物語は始まります。いきなりむき出しの暴力にさらされ、少しでもなぐさめを得たいと思う観客の望みをはねつけるかの如く、少年の運命はどんどん過酷なものとなっていきます。

ポーランドの作家イェジー・コシンスキの『ペインティッド・バード』(西成彦訳/松籟社)を原作としたこの映画は、チェコ出身のヴァーツラフ・マルホウル監督により、撮影に2年、最終的に完成するまで11年が費やされました。その理由の一つは、主演のペトル・コトラールの成長をそのまま作品に反映したかったからだそうです。俳優ではない彼に偶然出会った監督が出演をオファーしたとのことですが、映画を観ればその起用が正解だったことがわかります。他にステラン・ステルスガルトやハーヴェイ・カイテルなど数人の有名俳優が出演していますが、物語にしっくりと溶けこんでいて、いい意味で存在感が消されています。チェコの巨匠ウラジミール・スムットニーによるモノクロームの撮影は限りなく幻想的で、その圧倒的な美しさは2時間49分の上映時間を忘れてしまうほどです。

原作と映画では結末も含めていくつかの点で異なっています。その中の一つは、小説はこの物語の主人公である少年の一人称で語られるため、その心情は彼の言葉で綴られるのですが、映画はほとんどと言っていいほどセリフがありません。少年が何を考えているのか、周囲の人々の残忍さにどう耐えているのかは、彼の表情や動作から推しはかるしかないのです。観客はスクリーンに映し出される風景や接する人々の表情を彼の視線で見ることによって、少年の置かれた地獄のような世界を知ることになります。

とても辛く、恐ろしい物語です。差別、暴力、虐待など、人間の残忍さと醜悪さがこれでもかと少年に襲いかかります。本作がヴェネツィア国際映画祭のコンペティションで上映された時は途中退場者も出たそうですが、そうした観客の中には、少年が置かれている状況があまりに過酷で観ていられない、という理由もあったようです。しかし最も恐ろしいのは、この物語で起きたことは、全て人間が起こしたということです。ここで描かれた人々の残虐なふるまいは、戦争のせいなのでしょうか。しかしその戦争を始めたのも私たち人間なのです。そんな世界で少年はどう生きていくのでしょう。とても丁寧に、真摯な姿勢で作られた見事な作品です。ぜひご覧ください。

【書いた人】♪akira

翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、「映画秘宝」等で執筆しています。

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