「虐げられた人たちがいるので、何とかしないといけない」 北朝鮮の政治犯強制収容所に生きる家族を描いた衝撃作『トゥルーノース』監督インタビュー
ガジェット通信 / 2021年6月7日 18時0分
北朝鮮の政治犯強制収容所で過酷な毎日を生き抜く日系家族と、その仲間たちの姿を3Dアニメーションとして完成させた衝撃作、映画『トゥルーノース』が公開になりました。強制収容所内の恐るべき実態を描く一方で、家族愛、仲間との絆・ユーモア、死にゆく者への慈しみの心情などが表現され、ひとつの希望を見い出せるラストも注目の本作。監督は、レオナルド・ディカプリオも激賞したドキュメンタリー映画『happy – しあわせを探すあなたへ』のプロデューサーの清水ハン栄治さん。「政治的な立場でどうのと叫ぶのではなく、ヒューマンライツのことだけを言いたくて作りました。こういう虐げられた人たちがいるので、何とかしないといけない。そこだけは凛として啓蒙したいと思っています」と熱く語る監督に話をうかがいました。
■公式サイト:www.true-north.jp [リンク]
■ストーリー
絶望の淵で、人は「生きる意味」を見つけられるのか? 1960年代の帰還事業で日本から北朝鮮に移民した家族の物語。平壌で幸せに暮らすパク一家は、父の失踪後、家族全員が突如悪名高き政治犯強制収容所に送還されてしまう。過酷な生存競争の中、主人公ヨハンは次第に純粋で優しい心を失い他者を欺く一方、母と妹は人間性を失わず倫理的に生きようとする。そんなある日、愛する家族を失うことがキッカケとなり、ヨハンは絶望の淵で「人は何故生きるのか」その意味を探究し始める。やがてヨハンの戦いは他の収監者を巻き込み、収容所内で小さな革命の狼煙が上がる。
●本作は初監督だったそうですが、まずは劇場長編の感想はいかがですか?
監督業は大変でした。自分の持っている引き出しを全部使わないと映画は作れないですね。なので次から次へと作る人は本当に器用な人だと思うし、僕みたいな門外漢が撮るとなると、過去の知識・スキル・コネクション、自分の成功・失敗談もすべて渾身で捧げて、ようやく完成すると思いました。脚本も書いたので、総棚卸しみたいな感じでネタを下ろして、本当に、ようやく完成したような感じです。
●収容所体験がある脱北者の方々にインタビューを行い、10年もの歳月をかけて作り出されたわけですが、北朝鮮がしていることにびっくりしました。
とても残念な話ですよね。昔から世界中からイロモノ扱いされ、狂信的に映る独裁制なので「今に失脚するだろう」と60年、70年と言われてきた。でも冷笑していた民主主義国家を含む大多数の体制が政権交代したり、磐石な権力を維持できていないんです。でも北朝鮮は違う。実は、ある意味めちゃくちゃクレバーなんですよね。それは世界の専制の歴史を調べ、暴動や反逆を阻止するシステムを作り上げている。独裁国家の完成品みたいなものなんです。
●だから国の外から描かないと、起こっていることが伝わらないわけですよね。
独裁の成り立ちは、ひとつは強制収容所の存在で、悪いことをすると地獄に連れていかれると脅す。それでも立ち上がる人はいるので、もうひとつは連座制ですね。共同責任なんですよね。たとえば僕が体制を批判すれば、僕の家族三世代が収容所に送られてしまう。そうなると反乱する人は出てこない。そこまで計算して体制を維持しているわけです。これは独裁という意味でみた時に、成功しているんですよね。
●北朝鮮強制収容所の内情を描きつつ、過酷な環境で生きていく家族とその仲間たちが成長していく姿を3Dアニメーションで描いているわけですが、どういう点に気をつけましたか?
もちろん取材が前提になっている物語ですが、過酷なエピソードをただ並べたわけではないんです。脱北者の方たちは想像を絶する悲劇を経験されているので、子どもが犬に喰われたとか、公開処刑の順序とか、そういう話をしたがるのです。でも、そういう話題ばかりではなく、たとえば公開処刑された家族は、あとでみんなで慰めると。それはどう慰めるのかと尋ねると、いろいろと人間味のある話が出てくるんです。
●どちらかと体制批判の政治色より、家族の問題に焦点が当たっていますよね。
観客の心がゆらぐのは、感情的にウェットな部分ですよね。慰めあう時にどういう話をするのか、何人くらいいたのかなど。僕はジャーナリストではなくストーリーテラーなので、そこを探っていくと世界中でどのような環境で暮らしている人にもつながるところが出てくる。そこを大事にした感じですね。どの親も子の健康や成功を願っているわけで、そこに国籍や国境はない。悲劇ですが、そこに焦点を当てました。
●希望を捨てずに生き抜こうとする人々の姿に心動かされましたが、これから映画を観る方たちにメッセージはありますか?
僕は日頃「映画を作ったのは、在日コリアン4世だからですか?」とよく聞かれるのですが、それだけではないんですよね。もちろん向こうに渡った場合、自分の身にも起こっていたかもしれないけれど、僕はこの映画は、政治的な立場でどうのと叫ぶのではなく、ヒューマンライツのことだけを言いたくて作りました。こういう虐げられた人たちがいるので、何とかしないといけない。そこだけは凛として啓蒙したいと思っています。
『トゥルーノース』
配給:東映ビデオ
(C) 2020 sumimasen
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
(執筆者: ときたたかし)
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