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『NOPE/ノープ』は「多くの人が欲するパニックムービーでありながら、人をしっかりと描いている深みがある」:映画レビュー

ガジェット通信 / 2022年8月19日 11時0分

斬新な映像とアイディアで人種差別を鋭く描き、鮮烈な監督デビューを飾った『ゲット・アウト』(17)、前作同様に深いテーマを提唱し大ヒットを記録した『アス』(19)。自ら製作、脚本、監督をこなし、『ゲット・アウト』では第90回アカデミー賞で脚本賞も受賞したジョーダン・ピールの最新作『NOPE/ノープ』が8月26日(金)から全国公開されます。

田舎の広大な敷地の牧場経営で生計を立てる一家。長男オーティス・ジュニア(ダニエル・カルーヤ)は、家業をサボり市街に繰り出す妹エメラルド(キキ・パーマー)にウンザリしているところ、突然、空から異物が降り注ぐ。止んだかと思うも束の間、直前まで会話していた父親が息絶える。

オーティス・ジュニアは父親の不可解な死の直前に、雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃したことを妹に明かし、やがて兄妹はその飛行物体の物的証拠を収める“バズり動画”を撮影することを思いつく。「絶対に見つめてはいけない」“ヤツら”の存在・・・、彼らには想像を絶する事態が待ち受けていた――。日本に先駆けて公開を迎えたアメリカではランキング初登場NO.1を獲得している本作。試写会での“NOPE体験”レビューをお届けします。

「ゲット・アウト」「アス」と社会派のテーマを斬新かつ衝撃的に見せるスリラー作を世に送り出し一躍時の人となったジョーダン・ピール監督。

待望の新作は、監督の武器である斬新さや衝撃度がさらにそのスケールを広げてしまったのだからもう驚くしかない。

撮影監督には「ダンケルク」「TENET テネット」などクリストファー・ノーラン作品でも高く評価されるホイデ・ヴァン・ホイテマが起用され、南カルフォルニアの昼と夜の自然が美しく切り取られた。

そして今回、登場人物とともに観客が何度も眺めることになるのは、昼は青く夜は黒く頭上に大きく広がるあの”空”だ。

主人公は田舎で広大な牧場を経営するヘイウッド家の長男OJと妹エメラルド。

2人は「飛行機の部品が落下した」とされる事故で父親を亡くすが、OJは真実が他にある気がしてならない。

そんな中、牧場付近の上空や電子機器に不可解な現象が生じ始め、2人は空に時折姿を見せる正体不明の存在を何とか映像に捉えようと動き出す。

口をあんぐりと開けてしまうほどに意表を突く展開は、是非予断無しの状態で映画館で直接体験してほしい。ネタバレは厳禁だ。

その代わりここでは本作のテーマとこれに関係する登場人物たちのキャラクターについて触れてみたい。

兄OJに扮するのはピール監督も前々作でタッグを組んだダニエル・カルーヤ。

OJは父の死を機に牧場を継ぎ、馬を調教しながら馬への愛を忘れない寡黙で内向的な男だ。

妹エメラルドを演じるのはキキ・パーマー。

兄とは対照的に明るく器用で外交的な話し上手だが、牧場経営よりは華やかなショービズ界に関心があり、SNSを多用するなどして外部から注目を浴びることに余念がない。

他に重要なキャラクターとして、過去に子役をしていた経歴を利用してテーマパーク運営で成功を狙うリッキー・パクを「ミナリ」の名演が記憶に新しいスティーヴン・ユァンが、老いた熟練カメラマンのアントラーズ・ホルストをマイケル・ウィンコットが演じる。

父から継いだ牧場の経営と馬の世話に真摯に向き合うOJ以外の3人の共通点は、世間をアッと驚かせて自らに目を向けさせること。

それは自己実現といえば聞こえはいいが、その実、今まさにこの現実の世界に溢れる”承認欲求”にほかならない。

そんな承認欲求を満たすツールでもあるSNS、YouTube、映画など世間の注目を集めるものは、多くの人々を魅了して引きつけながら、その人々自身をも飲み込んでいく。

かのニーチェは「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」と語ったが、人は往々にして多くの好奇を集めるモノから目を逸らせなくなり、やがて自分自身を見失ってしまう。

ピール監督はこのような人々の欲求を「スペクタクル欲求」と呼び、この危険性について踏み込むことで本作のテーマとした。

監督が凄いのはその手法だ。

SFのようなジャンルで誰がそんなことを実践できるだろう。

最高の演技で演じられるOJとエメラルドの兄妹のキャラクターにはピール監督自身が持つ二面性が反映されているという。

まさにこの兄と妹が劇中で辿る運命にこそ、映画のテーマに対する監督なりの回答と、映画自体が持つ大きな「スペクタル」の2つが同時に含まれている。

終盤の展開は是非とも目に焼きつけたい。

多くの人が欲するパニックムービーでありながら、人をしっかりと描いているからこそまた見返したくるような味わい深さと感動がある。

サプライズを用意しながら、人間のあるべき本質からは脱線しない巧みさ。

ジョーダン・ピール監督の天才的な作家性は雲の上のさらなる高みへと到達してしまった。

【書いた人】毘沙門天 華男

映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。

映画『NOPE/ノープ』

原題:NOPE

監督/脚本:ジョーダン・ピール

キャスト:ダニエル・カルーヤ(『ゲット・アウト』)、キキ・パーマー(『ハスラーズ』)、

スティーヴン・ユァン(『ミナリ』)、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレア他

製作:イアン・クーパー、ジョーダン・ピール

アメリカ公開:2022年7月22日(金)

配給:東宝東和

(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS

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