映画『世界は僕らに気づかない』人種問題、セクシュアリティなどの社会課題に対し 「一度立ち止まって考えなければいけない」
ガジェット通信 / 2023年1月16日 10時45分
本年度の大阪アジアン映画祭にて「来るべき才能賞」を受賞した話題作『世界は僕らに気づかない』が2023年1月13日(金)より新宿シネマカリテ、Bunkamura ル・シネマほかにて絶賛公開中です。1月14日、公開記念舞台挨拶が実施され、主演の堀家一希さん、ガウさん、飯塚花笑監督が登壇し、海外の映画祭での様子や、撮影時の貴重なエピソード、そして日本語字幕版上映についての監督の思いを語りました。
本作は、トランスジェンダーである自らの経験を元に制作した『僕らの未来』が国内外で注目を集め、2022 年公開の『フタリノセカイ』で商業デビューを果たした飯塚花笑監督が、レプロエンタテインメント主催の映画製作プロジェクト「感動シネマアワード」にて製作したオリジナル長編第五作。群馬県太田市で、フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親レイナ(ガウ)と一緒に暮らす高校生の純悟(堀家一希)のアイデンティティや様々な愛をめぐる問題を描いています。
今回、脚本・監督・プロデューサーを務めた飯塚監督は、オール群馬ロケの本作の初日を「シネマテークたかさき」(群馬県高崎市)と「イオンシネマ太田」(群馬県太田市)で迎えたことを報告。「本作は本当に群馬産と言っていいくらい、ずっと群馬にこもって制作から撮影を行っていたのですが、地元の方の協力がなければできなかったというくらい、ものすごくバックアップしていただいたので、その方々にようやく作品を届けられたのがうれしかったです」と感謝の言葉を述べつつ、「私自身、群馬の映画館でアルバイトをしていたので、その劇場で自分の作品が上映されるということで、その頃が思い返されたりして、舞台挨拶で泣いてしまうくらい感極まってしまいました(笑)」と照れ笑い。
そんな同所での舞台挨拶について、堀家は「本当に温かかったです。僕はあまり話すのが得意ではないのですが、エネルギーを込めて『ね?』とか同意を求めると、皆さん笑ってくれたり。温かい場所でした」と振り返り。続けてガウは「私たち、群馬の人たちに支えられて生きている親子を演じているのですが、その私たちが本当に群馬の人たちに愛していただけるという気持ちになりました。そんな人たちと久しぶりにお会いできてすごく楽しかったと同時に、飲み過ぎてしまいましたね(笑)」と、ざっくばらんに話して、会場から笑いをこぼれます。
また、キャラクターを「どう作ったか」という問いに、堀家は「脚本に僕のことを投影してくれるということで、1 年ほど前から、僕のパーソナルなことを監督とZOOM でお話する機会があって。僕が考えていたことを純悟に投影していただいたので、演じやすくしてもらったなという感じはあります」と回答。これに飯塚監督は「(脚本制作前の打ち合わせなど)映画作りでそういう時間を設けていただけることは少ないので、今回は1 年前からとガッツリお話できる機会をいただいて、貴重な時間だったなと思います。やはり演じる役に、本人の中にあるパーソナルな部分が入っていると演じやすいというのはあると思います。そして(そうすることによって)芝居もとてもエモーショナルなものになる」と付け加えます。
一方のガウは「(フィリピンダブルという主人公の設定と同様に)私もスコットランド人の父とフィリピン人の母を持ち、12 歳で日本にやってきたのですが、そのときの私の母も『こんなことで苦労したのかな』と思ったり。役場で、純悟が母親から『漢字が読めない。読んでよ』と言われたりするのですが、『私自身も母にやってあげているな』『(純悟のように)嫌な顔をしながらやっているんだろうな』と思い返したり、反省させられたり。私はスコットランド人とのダブルなので『正直、私ではない人の方がいいのではないですか?』と話させていただいたこともあるのですが、監督には『あなたにしかできないものもあると思うので、是非やってくださいと言っていただいて、今回レイナを演じました」と、キャスティングの際の裏話を明かすと共に、「監督は『このようにしてください』というのは言わない。『このときレイナはどう思ったかな?』と。演技指導というよりかは『あくまでも最終の決断はあなたの中にあるんだよ』というのをくれるんです」と、飯塚監督のスタイルについても言及しました。
そんな飯塚監督について、堀家も同意し「『そこに起きたものがリアルだから』と。『自分がこうしたいから』と価値観を押し付けてこない」とコメント。すると、飯塚監督は「ハリウッドの“監督になるための教科書”に『答えを押し付けてはいけません』と書いてあったので(笑)」と話し、会場は笑いに包まれます。
また、この回は日本語字幕付き上映が行われ、舞台挨拶にも手話通訳者が登壇しての舞台挨拶となっていた。これには監督の強い思いがあり、それについて問われると、「身近に聾者の友人がいるのですが、同じ日本映画の話ができない。外国映画であれば普通に字幕がついているので一緒に見れるのですが、日本映画となると一緒に見ることができない。だからつけたかった」と説明。
最後に「本作に込めた想い」を問われると、「この国は人種的にいろいろなルーツを持った方がいて、たくさんの出稼ぎ労働者の方がいらっしゃって。その子供たちが日本の学校に通っているというのが、当たり前の景色としてあるのですが、そんななかで(自分自身)過ごしてきたのに、こういったことについて、あまりちゃんと考えてこなかったなという反省がすごくあって。『彼らが学校の勉強についていっていないんじゃないか』といったことなどに対しても無自覚で、むしろ冷ややかな目で見ていたりして、僕自身、すごく後悔しているというのがあります。日本には、そうした方々が今も当たり前にいらっしゃるのですが、一度立ち止まって考えなければいけないのかなと考えたのが、この企画がスタートした経緯です」と、飯塚監督。
堀家は、「この映画は始まったばかりです。少しでも共感していただけたらSNS などで拡散していただければと思います」と熱くお願いした。ガウも「いろんな愛の形、メッセージが盛り込まれている映画。これをきっかけに、何か気付いたものがあれば、近くの方たちに伝えていただければと思います!」と話して、イベントを締めくくりました。
映画『世界は僕らに気づかない』は新宿シネマカリテ、Bunkamura ル・シネマほか公開中。
(C)「世界は僕らに気づかない」製作委員会
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