映画『逃げきれた夢』主演・光石研&二ノ宮隆太郎監督インタビュー「生まれ育った“土地”が僕を見ているという感覚」
ガジェット通信 / 2023年6月15日 17時0分
映画『逃げきれた夢』が公開中です。本作は映画デビューから45年、日本の映画・ドラマ界を支える名優の光石研の12年ぶりの映画単独主演作となっており、自身の地元・北九州を舞台に人生のターニングポイントを迎えた中年男・末永周平を熱演。また、物語のカギを握る周平の元教え子・平賀南には、総勢800人のオーディションを突破した吉本実憂。主人公の妻・彰子を坂井真紀、娘・由真を工藤遥、さらに旧友・石田は光石本人とも仲の良い松重豊が務めています。
監督・脚本は俳優としても活躍の場を広げる新鋭・二ノ宮隆太郎。映画監督・瀬々敬久が審査員を務め2019年フィルメックス新人監督賞のグランプリ受賞作である脚本を基に二ノ宮監督自ら映画化することで興業映画デビューを飾ります。第76回カンヌ国際映画祭ACID 部門に正式出品されるなど、注目を集めている本作。光石さんと二ノ宮監督にお話を伺いました。
――本作大変楽しく拝見させていただきました。監督が光石研さんへあてがきした脚本と設定ということですが、お2人の交流はどの様なことからはじまったのでしょうか?
二ノ宮:小さい頃から映画が好きで、光石さんの映画をたくさん観ていました。『森山中教習所』(2016)という映画で、光石さんがヤクザの親分、自分が下っ端役で共演もさせていただいて。今回念願かなって光石さん主演の映画を作ることが出来ました。
光石:『森山中教習所』の後に監督の作った映画をスタッフ伝いに聞いて、観させていただいて。
二ノ宮:その時、光石さんが自分の監督した映画の感想をハガキに書いて送ってくださったんです。ものすごく嬉しかったです。
――素敵なお話をありがとうございます。この物語の構想はどの様にかたまっていきましたか?
二ノ宮:光石さんが故郷である、九州の黒崎という場所へお仕事で行った時に、自分もついていかせてもらいました。
光石:そんな広い街ではないのですが、繁華街だったりするので、「昔ここの公園で遊んでいたんだよ」とか「これが通っていた小学校」という話をしながら、2,3時間歩いて。それを下敷きに脚本を書いていただきました。
――地元で撮影する主演映画ということで、光石さんはどの様なお気持ちで取り組まれましたか?
光石:生まれ育った所で、ほぼ等身大の役を演じるということは恥ずかしかったですね。あの街には、僕の0歳から18歳を見ている人がたくさんいるので。今は人も少なくなりましたが、その土地が僕を見ているという感覚で。そんな場所で芝居をするということは本当に恥ずかしいんですよね。その気持ちが先行して、ずっと恥ずかしがっていました。親の前で芝居をしたことなんて無かったしね。
二ノ宮:光石さんは全シーンに出演してくださり、相当な負担の中お芝居してくださったと思います。今回は(光石さんの)お父様が出演してくださり、光石さんとお二人のシーンがあります。現場で生のお芝居を見て、自分があんなに感情を揺さぶられたのは初めてでした。ぜひ観ていただきたいです。
光石:実の親と共演することなんて、そうそう無いですからね。なんだかずっと薄ら笑いしているんですよ。でも、とっても嬉しかったみたいですよ。二ノ宮組はスタッフがみんなお若いですから、そういう若い方がたくさん街に来て撮影してくれるというのは、父にとってはお祭りの様な楽しさがあった様です。
――街の描き方がとても素敵でした。皆さんの歓迎が伝わってくる様な感じで。
光石:北九州はフィルムコミッションがしっかりしているので、たくさん協力していただきましたね。
――改めてにはなりますが、監督からご覧になった光石さんのすごさ、存在感というのはどんな所に感じていらっしゃいますか?
二ノ宮:自分が光石さんのお芝居のことを話すなんておこがましいのですが、「そこにいる」という感覚です。どんな役柄でも「そこにいる」ことが出来ることが光石さんの凄さだと思います。
光石:特に今回はね、年齢も背格好も僕と同じだし、僕にあてて書いてくださっているから、「そこにいる」という感覚も強かったのかもしれませんね。
――光石さんは本当に多様な役柄を演じていらっしゃって、素人な感動で申し訳ないのですが、どうやってその役を切り替えていらっしゃるのかなといつも感動しています。意識していることはありますか?
光石:僕は何も無いですね。監督が「今回こういう役です」と教えてくれて、スタッフの皆さんが衣装を着せてくれて、メイクをしてくれて、そういう工程を経ると自分も“その気”になるというか。この話は特にそうですけれど、ベースは俺ですからね。いきなり188cmの役は出来ないし。皆さんも出来ることを長くやっているだけです。
二ノ宮:自分が出来ることはもう、気持ち良くお芝居をしていただくことくらいで、何もしていないのですが。
光石:そんなことないですよ。ちゃんと導いてくれました。
――日常の中で変化していく感情の機微の描き方が本当に素晴らしいですよね。
二ノ宮:自分は昔からSFやアクションで派手なことが起きたり、殺人事件が起こるミステリーではなくて、日常の中での些細な感情の揺れを描いた作品がずっと好きで。そういう作品を作りたいと思っていました。
光石:60歳過ぎて友達や仲間に会うと、大体病気の話から親の介護の話になりますよね。身につまされる様な題材ですよね。それをよく、お若い二ノ宮監督が描かれているなと思います。
二ノ宮:自分は介護の仕事をしていたこともあるので「年をとる」ということについては、以前よりよく考えていました。自分の父はもう辞めていますが、学校の教頭先生をやっていたのでその時に聞いた話とか、自分が感じてきたことを脚本には入っています。
光石:日常を丁寧に描いていらっしゃるから、僕と同世代はもちろん、色々な世代の方も共感したり、ひやっとする部分があると思います。感じ取るメッセージはきっとどんな人にもあるんじゃないかな。
二ノ宮:少しでも多くの方に観ていただけたら幸いです。
――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
撮影:オサダコウジ
『逃げきれた夢』公開中
【あらすじ】 北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平。ある日、元教え子の南が働く定食屋で、周平は支払いをせず無言で立ち去ってしまう。記憶が薄れていく症状によって、これまでのように生きられなくなってしまったようだ。待てよ、「これまで」って、そんなに素晴らしい日々だったか? 妻の彰子との仲は冷え切り、一人娘の由真は、父親よりスマホ相手の方が楽しそうだ。旧友の石田との時間も、ちっとも大切していない。「これから」のために、「これまで」を見つめ直していく周平だが――。
監督/脚本:二ノ宮隆太郎 出演:光石研、吉本実憂、工藤遥、杏花、岡本麗、光石禎弘、坂井真紀、松重豊
製作総指揮:木下直哉 プロデューサー:國實瑞惠、関友彦、鈴木徳至、谷川由希子
撮影:四宮秀俊 照明:高井大樹 録音:古谷正志 美術:福島奈央花 装飾:遠藤善人
衣装:宮本まさ江 ヘアメイク:吉村英里 編集:長瀬万里 音楽:曽我部恵一 助監督:平波亘 制作担当:飯塚香織
企画:鈍牛倶楽部 製作:木下グループ 配給:キノフィルムズ 制作プロダクション:コギトワークス
(C)2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ 公式サイト:nigekiretayume.jp 公式Instagram:@nigekiretayume
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