ノワールミステリー『罪と悪』齊藤勇起監督インタビュー「初監督作品で挑んだ完全オリジナル脚本」「罪=悪なのか」
ガジェット通信 / 2024年2月20日 17時0分
高良健吾さん主演の映画『罪と悪』が公開中です。ある日、14歳の正樹が殺された。そして同級生の1人の少年が犯人を殺し、殺害現場となった家に火を放つー。20年間の沈黙を経て、罪を背負った幼馴染3人は再会するが、あの時と同じ場所でまた少年が殺される。その街で一体何が起こっているのかー。
監督・脚本を務めた齊藤勇起監督は井筒和幸監督作品を中心に、岩井俊二監督・武正晴監督・廣木隆一監督作品等での助監督を経て、完全オリジナルの脚本で挑む本作で初監督を務めています。齊藤監督に撮影での出来事や、作品への想いについてお話を伺いました。
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――本作非常に楽しく拝見させていただきました。ミステリーでのオリジナル脚本ということでご苦労もあったと思います。
撮影の準備を2ヶ月ぐらいさせてもらったのですが、その間にも自分で脚本の修正を重ねていて。出来上がった脚本にキャスト、各部署のスタッフから意見をもらって、さらに調整してという作業もあり、20稿くらいまで改稿を重ねました。でも、全然苦ではなく、色々な意見を入れられて面白いなと。
――俳優部からも意見やアイデアが出たそうですね。
企画の始まりの頃から話していたので高良さんは色々な意見を下さりました。出来立てホヤホヤの最初の脚本を見てもらったり、近くの喫茶店であって脚本について話したり、散歩しながら話したり。いつもなんだかんだで、3、4時間ぐらい話していた記憶があります。
――お茶をしながら、いずれ主演俳優となる方と作品について話をするというのは贅沢ですね。
すごく貴重な体験をさせていただきました。色々なご縁が映画の完成まで押し上げてくれたのだと思います。
――高良さん、大東駿介さん、石田卓也さんのお芝居が素晴らしくて、私がいうのも烏滸がましいのですが、皆さん素敵な歳の取り方をされているなと…!監督は皆さんと以前からご一緒していますよね。
高良さんは、基本的に変わっていないのですが、良い意味でマイルドになったというか、優しみが増した印象があります。大東さんと石田さんは以前と比べて大きく変わったイメージがあります。これこそ僕が言うのもおこがましいですけど、大東さんは芝居の質も変わったんじゃないかなって。お子さんがいらっしゃるので、この映画のストーリーも親目線から感じたこともあるのではないかと思います。
石田さんは若い時、すごく元気でちょっとヤンチャな印象があったのですが、久しぶりに会ったら、すごく大人の精悍な顔つきになられていて。農業をされていたり、色々な経験が滲み出ているのだなと。朔という役柄にはカッコ良すぎるかなとも思ったのですが、今の石田さんと会って、年齢を重ねた雰囲気がピッタリだなと思いました。
――3人の俳優さんの“疲れ”の表情が怖いくらいリアルでした。
俳優部の皆さんに細かい演出の指示などを、 そんなに僕はしていなかったと思います。「もうちょっとだけ間を詰めてほしい」とか、「今のテンションもうちょっと抑えてほしい」とか細かいお願いはありましたが、俳優さんが出してくれる芝居が答えだと思って臨んでいます。そのかわり、準備にはだいぶ時間をかけさせてもらいましたが。
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――素晴らしいですね。少年の死を巡る出来事で、辛いシーンも多い作品でした。監督の子供時代の記憶が着想のきっかけとなっているそうですね。
故郷で過ごした子供時代の色々なトピックスが作品につながっています。子供心に引っかかっている出来事、疑問に思った出来事などが。例えば職に就いていない、街ののけ者にされていて、大人は嫌うけど、子供には好かれているおじさんがいたな、とか。「あいつはやんちゃ坊主だから付き合うな」とか大人に言われても、子供同士は仲良くて“いいやつ”だったな、など。この様な事件にはなっていないですが、正樹のように約束していた場所に友達が来なかったというのも僕自身の経験だったりします。
――子供時代って遊んでいる時しかお互いに見えてないから、実は家庭とかでは悩みがあったのかな?とか今思えば思うことがありますね。
ありますよね。都会と田舎の違いも関係あるかどうか分からないですが、僕は生まれ育った町で、都合の悪いことを隠したがるという空気を感じていて。大人の嫌な部分とか、子供の綺麗だけれど悪い部分とか、そんなことを思い出しながら脚本のアイデアとなりました。
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――私も地方出身なので、春と朔が地元に残っていて、晃は一度地元を去っていて…という環境の違いがとてもよく見えました。
高良さんと話している時に感じたんですよね。高良さんは10代で東京に来ていて、僕も18歳で上京して地元に残らなかったっていう人間なのですが、たまに地元に帰ると、「ここで根張って生きていくんだ」という人が印象に残るんですよね。地元での過去も、周りが全部知ってる、それを背負って生きていくってすごいなと。地元で一生生きていくんだって覚悟を決めて、根を張ってる人の強みってすごいですよねという話を高良さんとした時に、主人公は晃ではなくて春だなと。それまで、何かが足りないと思っていた脚本が、春を主人公にした時に一気に広がってきました。
――ミステリーでありながら人間ドラマを強く感じられて魅力的でした。そして子役の皆さんも素晴らしかったです。
オーディションで選ばせていただきました。僕が助監督として作品に参加した時などに、あらかじめ目星をつけている子もいて、「この子を呼んで欲しい」とお願いしたこともあり、ぎゅっと濃いオーディションだったと思います。子役たちはかなりオールスターだったと思いますが、仕事もあって、学校も塾もあってということで、スケジューリングは大変でした(笑)。
――中学生は忙しいですよね…!
中学2年生とか、3年生の思春期真っ只中の夏を撮影にごっそりもらってしまうということで、心配もありました。ストーリーやシーンにも辛い部分が多いので。無邪気な部分とカッコつける部分がちょうど半々くらいにある世代ですよね。リハーサルはもちろんしましたが、徹底したリハーサルというわけではなくて、「自分たちが今持っている感情を膨らませて欲しい」と伝えました。例えば、いきなりゾンビと戦う話なんかをやると、自分が経験したことが無いからセリフが上ずったりする。
そうではなくて、自分たちが生きている範囲の中の延長線でお芝居してもらいたかったので、自分自身の感情は絶対に手放さないでと。「自分ならこう言うかな?」とか「自分ならこうするな」という引っ掛かりを大事にしてもらいました。
――ラストの回想シーンは本当に切なかったです。
あれはもう解放です。あの撮影でオールアップだったので、好き放題、騒いでいい、遊んでいいよと伝えて。川の水を機材にかけるなよと注意しながらも、かけてきて(笑)。でもそういった表情が味になったと思いますし、やり切った笑顔を出してくれたと思います。
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――監督はこれまでたくさんの作品で助監督をされていますが、よく「助監督が一番忙しい」というお話を聞くんですよね。
そうですね、まずやることが本当に多いんです。監督が言ったことを、全部実現できる過程を作らなくてはいけないので。今回僕が監督をやらせていただくことになって、チーフ助監督を甲斐(聖太郎)さんという僕の先輩にお願いしました。スタッフィングで一番最初にお願いしたと思います。発想力、体力、全て含めて経験豊富な方にお願いしたかったんですよね。前に西川美和監督にお会いした時「助監督は背中を預けられる人じゃないとダメだよ」というお話をしてもらって、改めて、信頼出来る人じゃないとなって。甲斐さんは「監督デビュー作だから無条件で受けるよ」と快諾してくださったのですが、撮影が終わる頃には「今度から監督デビュー作でも無条件で受けるのをやめよう(笑)」と言われました(笑)。本当に感謝していますし、甲斐さんをはじめ皆さんがいなかったらこうして映画は完成していないと思います。
――またぜひ監督の作品を拝見することを楽しみにしていますね。
撮ってみたいテーマもアイデアも色々ありますので、また作らせていただけるならチャレンジしたいです。大変なことはたくさんありましたけれど、自分で作り上げた企画だからこそ、本当に楽しかったです。
罪=悪なのか?ということはずっと思っていたことでした。今は一般の人でも罪を悪と即断しがちな世の中ですが、それはやめようよという気持ちはずっとありますね。自分の書いたストーリーに一生懸命応えてくれた役者陣、スタッフ陣には感謝しかありません。そして、ご覧いただいた方の記憶の片隅に残ってもらえる作品になってくれれば幸いです。
――今日は素敵なお話をありがとうございました!
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『罪と悪』公開中
【キャスト】 高良健吾 大東駿介 石田卓也 村上淳 / 佐藤浩市(特別出演)椎名桔平
【監督・脚本】 齊藤勇起
【製作プロダクション】 ザフール
【配給】 ナカチカピクチャーズ
(C)2023「罪と悪」製作委員会
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