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短編アニメ『ファーストライン』ちな監督&角野隼斗インタビュー 「仕掛け絵本を観た時のわくわく感を映像で」「映像を引き立たせる音楽を」

ガジェット通信 / 2024年6月30日 11時30分

東宝による若手才能支援プロジェクト「GEMSTONE Creative Label」。そのレーベル初の劇場公開作品として、4人の新進気鋭監督たちによる短編オムニバス映画『GEMNIBUS vol.1』が、現在東京と大阪で2週間限定公開中です。

その一作『ファーストライン』では、新鋭ちな監督とピアニスト・角野隼斗さんのタッグが実現しました。「アニメーション=生命を吹き込む事」の面白さと残酷さを、劇中劇として大胆に描いていくアニメーター物語。まるで飛び出す絵本のように楽しい本作についておふたりに聞きました。

■公式サイト:https://gemstone.toho.co.jp/content/firstline/ [リンク]

●才能ある若手クリエイターのみなさんに発表の機会を与えようという、このプロジェクトそのものについてどう受け止めていますか?

ちな監督:オリジナルで何かを作るチャンスは少なくて、アニメは特に商業現場で働いている人たちからするとなかなかないと思うんです。その中で東宝という大きな会社が業界の若い人たちにチャンスを与えてくれたことはいいことだと思いますし、その中で作ってくれたアニメという一枠を背負うことになると思いました。なのでここで失敗したら次からないんだろうなと(苦笑)。そういう気持ちで頑張ろうと思いました。

角野:僕としてもこのプロジェクトがあったおかげでこういう機会をいただけたので、同世代のちな監督と一緒に仕事が出来たと思っています。本当にありがたく思っています。

ちな監督:オリジナル企画だからこそ、角野さんに劇伴を依頼するチャンスもあったのだと思います。

●映像と音楽を作るにあたりかなり密接なやり取りがあったとうかがいましたか、どのように作業を進めたのでしょうか?

ちな監督:まずは脚本を作った上で、それをベースに一度角野さんとお会いすることにして、「音楽で面白いことをしたいです!」とお伝えしました。もともと角野さんのことを面白い音楽家だと思っていたので、その感じでやってほしいとお願いしました。それが最初です。

角野:面白いことを期待され、面白いことが許される現場はいいですよね! 今回の話をいただいた時から映像と音楽が密接に関わっている作品を作りたいということで、自分としても面白そうだなと思ったし、劇伴は初めてだったのでチャレンジングで楽しかったですね。

●映像が先に存在するので通常の楽曲制作とは異なりますよね。そして今回、劇中の効果音(SE)も一部担当されたようですね。

角野:「ここでこういう効果音がほしい」というように要望をいただくのですが、効果音ではなくて、音楽の一部として成り立っているような作り方と言いますか、それは普通の映画音楽とも違うような作り方のような気がしていて、まるで音で遊んでいるようなイメージとでも言いますか。

制止画で動かなかったものが、アニメーションで動くようになる場面での音になるわけなのですが、それは実際に音楽の上でも楽譜の上のものが生命を与えられていくような感じで、まるで音が生きて遊んで跳ねまわっているような表現ができて楽しかったですね。

ちな監督:自分が脚本と絵を担当しているので、絵を書いている時は「大丈夫かな?」と、しんどく辛い、肉体的にもけっこう追い詰められるんで、大変だなと思いながらやっているのですが、角野さんの視点で作品を解釈され音楽を作ってくださったので、作品をより楽しんで観れたんですよ。殻に閉じこもっていたところを俯瞰して見られる。その瞬間がめちゃくちゃ楽しくて。劇伴収録の時とかめちゃくちゃ楽しかったです(笑)。

角野:音楽がかなり重要な位置を占めるということは、やっていても充実感を感じてはいました。僕がフィルムのアニメを観てインスピレーションを受けて、自然と自分の中から出たものを即興でつなぎあわせていく。そういう作り方をしていたので、僕のほうも俯瞰で観ていたんです。この作品と出会ったことで、自分もこういう音楽を作ることが出来たと言える、それはコラボレーションのいいところですね。

●まるで飛び出す絵本のようで、わくわくする作品になりましたね。

ちな監督:抽象的なイメージとしては、仕掛け絵本のコンセプトはありました。これは角野さんと出会う前、プロデューサーと実際に企画をもんでいる時から、仕掛け絵本みたいにしたいと…言ったかな!? 僕が会社で触れ回っていただけかも知れないのですが(笑)、そのイメージはありましたし、そういうことを言ってはいました。

実際、完成した映像を観た時、仕掛け絵本って立ち上がる瞬間、絵だけの力では立ち上がらないので、それは音楽の力もあるなと思いました。

角野:それはアニメーターに焦点を当てる前から思っていたのですか?

ちな監督:ひとつのコンセプトとしてはありました。

角野:初めて聞きました(笑)。

ちな監督:尺が短いということもありましたし、まさしく開いて面白い、子どもが仕掛け絵本を開いた時のわくわく感を映像でやりたいという気持ちは、個人的にはありました。今回、すごくきれいで美しいものが出来たという満足感はありましたね。

角野:僕は映像ありきなので、それを引き立たせる音楽であればいいなと思いましたし、効果音的な部分をどう作るか、作っている時に試行錯誤していたと思います。4曲くらい作るのですが、独立した4曲というよりは、関連を持たせたかったので、音楽的なこだわりはいろいろありました。

●今回の経験を踏まえ、次の仕事にいかせそうなことは何でしょうか?

角野:映画の劇伴は初めてだったので、これは自分にとって経験になったというか、何よりも監督が音楽に対して意思があったからこそ、それがいい方向に働いて、自分の底が引き出されていいものが出来たということはあったと思います。今後も劇伴を作っていけたらと思っているのですが、今こうして仕事が出来たことは大きな糧だと思っています。

ちな監督:今回の経験が次の長編アニメ、劇場版につながっていけばいいなと思っていますが、初監督、初脚本、オリジナルのものを、こういう濃い10分で作れたことは、自分はここからアニメ業界が始まるのだという気持ちがあり、いい感じに転生できたなと思っています(笑)。最初はそれこそどこに向かうのか分からず、がむしゃらにやっていたところもあったのですが、こういう作品を作れたことは幸せだったと思うし、自信にもなるし、挑戦的なものを作れたことは自分の軸になりました。これからもどんどん面白いことをやっていきたいなと思います。

■イントロダクション

「平家物語」「薬屋のひとりごと」で絵コンテ・演出を務め「TOHO animationミュージックフィルムズ」監督にも最年少で選出された、新鋭ちな監督が紡ぐアニメーター物語。「アニメーション=生命を吹き込む事」の面白さと残酷さを、劇中劇として大胆に描いていく。音楽は活躍目覚ましい唯一無二のピアニスト・角野隼斗と奇跡のタッグが実現し、フィルムスコアリングで作品の隅々まで音を彩った。28歳の若き天才2人が贈る、”音も楽しむ”新感覚アニメーション。

(C) 2024 TOHO CO., LTD.

6月28日(金) – 7月11日(木)

TOHOシネマズ 日比谷・TOHOシネマズ 梅田にて2週間限定公開

(執筆者: ときたたかし)

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