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映画『ブルーピリオド』絵画総括の海老澤先生に聞く「美術の世界、美術に夢中になる人の気持ちをたくさんの方に分かっていただけることが嬉しい」

ガジェット通信 / 2024年8月30日 11時0分

2017年6月に月刊アフタヌーンで連載が開始すると瞬く間に、「TSUTAYAコミック大賞」「このマンガがすごい!」など国内の主要漫画賞にノミネートされ「マンガ大賞2020」を受賞するなど国内外で絶賛、アニメ化やYOASOBI「群青」とのコラボレーションでも話題を集め、累計発行部数は700万部を超える大人気傑作漫画「ブルーピリオド」(作:山口つばさ)。主演に眞栄田郷敦さんを迎え、萩原健太郎監督で実写映画化。現在大ヒット上映中です。

SNS上では、圧倒的熱量で作られた本作に向けて「良すぎるから絵描いてる人も描いてない人も全人類みてほしい」、「映画化してくれてありがとうございます!間違いなくこの夏いちばん熱い映画です!」など熱烈な声が多く寄せられ、好きなことにひたむきに挑戦する若者たちの姿に「自分の好きを極めたくなったり、新しいことに挑戦したくなる作品で、背中を押してもらえる」、「何回も胸が熱くなって自然と涙が」、「お母さんとのシーンでボロ泣き、心に沁みました」と感動する声が続出。筆者もとても感動し、多くの方に観ていただきたい作品です。

本作で眞栄田郷敦さんへの絵の指導など絵画総括を行った、「ena美術 新宿」の海老澤 功さんは予備校講師歴43年!映画について、絵を学ぶということについて、萩原監督にもご同席いただき、お話を伺いました。

――本作とても楽しく拝見させていただきました。海老澤さんからご覧になって、どの様なことを感じましたか?

海老澤先生:美術の世界というのは、我々にとっては当然のことも、周りから見たら特殊なのだなと感じました。「情熱は、武器だ。」というコピーにもありますけれど、好きなことをして生きていくことは、僕にとっては当たり前だろうなという感じで。世の中、苦手なことをお仕事として一生懸命頑張っている方がたくさんいらっしゃると思いますが、ストレス溜まるだろうな、楽しいことをやっている方がいいよって僕は思うんです。もちろん好きなことを続ける苦しさもありますけどね。この映画で、美術大学を目指して頑張っている姿や、美術予備校のことを描いてくれて、美術の世界と夢中になる人の気持ちをたくさんの方に分かっていただけることが嬉しいなと思います。

――この映画を観たら、自分の好きなことを大切にしようと思えますよね。海老澤さんは絵画総括で携わられていますが、どの様なことをされたのですか?

海老澤先生:眞栄田郷敦さんに絵を教えることですね。絵を描ける様に指導してほしいということでした。私はこの学校で初心者からも教えています。地方の高校に通っていた子が、都会に出てきて一からスタートとなった時に、まずは講義を行います。大体6時間ほど講義をして、その後に絵を描いてもらって私が手を入れていくのですが、そうすることで座学で話すことと実践で行うことが一致するので飲み込みやすいんです。中には、最初の一枚からあまり手を入れないで 自分でやらせた方がいいなという子が美大受験生の中の1割くらいいますが、郷敦さんはその1割に入るタイプです。

――すごいですね…!

海老澤先生:木炭の使い方とか、そういった基礎的なことから教えますけれど、大切なのは「物の見方」で、郷敦さんは理解力がありました。最初の初心者の伸びから見ますとね。結構勝負になるなと。理屈が理解出来ても感覚的なことが分からない子もいれば、感覚的に優れていても正確に写すことは苦手という子もいますが、郷敦さんは両方バランスよくとらえているので、一年しっかり練習すれば本当に美大受験も狙えるなというレベルだと思います。

本人は「絶対受けない」と言っていましたけどね(笑)。もし受けざるを得なかったとしても、油絵は嫌だとチラッと言っていた気がします。努力が報われる科の方が良いのかもしれませんね。油絵というのは上手い順ではなくて、上手くなっても、落ちる人は落ちますし、センスが良ければ下手でも受かる場合がありますから。

▲眞栄田郷敦さん画「勝利」

――技巧的に上手なのと魅力的な絵の違い、という感じでしょうか。

海老澤先生:「大手予備校に通ったらこのくらいは描けるだろう」というのは人の素質として見ないので、この子はまだあまり絵のことを知らないけれど、自分の力でここまで描けるのか、というのは評価されますね。個性順で並べた山の頂上をとるので、描写力が2番と3番というよりも人と違った感性をこう取る。偏差値順では無いというのが難しいところであり、面白いところだと思います。

萩原監督:芸大は特に予備校に通っている受験生を嫌う、みたいな傾向もある様ですよね。

海老澤先生:予備校に通っていてそのとおりに吸収している子は、ある程度会社に行ったら出世するだろうけども、アーティストとして大成するのかな?という部分を芸大は見ていますよね。予備校の先生の言うことを聞きながらも、言うことを聞かないことも大切というか。

ただ美大に受かるための受験絵画では無くて、アーティストになるための大事なところを教育してこうという流れになってきています。絵の大事な部分を教えておけば、芸大に落ちて私大に進学してもアーティストになる人が増えていくであろうと。

自分の良さをどうやって伸ばしていくか、ということですね。もちろん最低限のことは教えますけれども、欠点を治すよりも良いところを伸ばしていこうという考えになっています。

――八虎さんの様に高校生の途中から目指して現役合格するっていう子もいらっしゃるんですよね。

海老澤先生:大体平均すると高1、高2から予備校に通うことが一般的ですね。映画の中で八虎さんは高校二年生の秋頃から芸大を目指しはじめて現役で合格することは稀で、大体2,3浪することが多いです。昔、私が受験の頃は45倍くらいあって2500人くらい受験して、現役で合格する子は2桁はいなかったですね。ちなみに現在は20倍くらいですけど、昔よりさらに上手い順での評価ではないので、確実に合格するのは同じく大変難しいです。そして近年においては、現役は10名以上合格する傾向になっています。漫画「ブルーピリオド」が人気になって中学生が影響を受けて都立の芸術高校の倍率も上がっているみたいですね。

――中高生の時に「ブルーピリオド」を読んだらすごく影響されそうですよね!

海老澤先生:浪人生はあんまり読まないんですよね。読むと辛くなるので…(笑)。

――そうですよね…劇中でも描かれていましたが、生徒さんの気持ちに寄り添うこと、励ますこともありそうですね。

海老澤先生:私はあんまりその辺立ち入らないようにしているんですけどね。なので、みんな悩みを打ち明けてくれないんですよ。こちらが真剣に聞いてあげないっていうこともあるんでしょうけど(笑)。

萩原監督:大葉先生のモデルになった鷹取先生、大葉先生の様に色々なことを教えていそうですね。

海老澤先生:先生は高校の先生も経験されていますし、本当に素晴らしい指導をされていますよね。私は人間教育が出来ないので、逆に先生に叱られています(笑)。

――ズバリ“良い絵”とはどんなものだと思いますか?

さきほど萩原監督がおっしゃっていたルソーなんて絵の技術がとてつもなく素晴らしいというわけではないんですよね。パースもおかしいですし。私は最初ルソーの良さが分からなかったのですが、以前教えていた生徒で素晴らしい絵を描く子がいたんです。石膏デッサンなんて下から1番目か2番目という実力で、私が教えている何十年間で5本の指に入る形の取れない子だったのですが、本当に良い絵を描くんですよ。その彼女が大好きだと言っていた絵がルソー の「岩の上の少年」という絵なのですが、一見なんだこの絵は?と思っても、絵のことを学んでいくと、塗りなども素晴らしいんですね。すごく気持ちが入った塗り方をしている。デザイン化的な、描写的に言うと下手でも、絵画的には非常に上手いということです。それをどう世間に理解してもらうか、アーティストというのはそういう無理解と戦っていくことも多いので。

▲アンリ・ルソー画「岩の上の少年」

萩原監督:歌もそうですよね。ものすごく上手でも心に響かないこともありますし、その逆の素晴らしい歌声もあって。

海老澤先生:例えばヨーロッパ旅行に行って、色々な絵を見る中で、「有名じゃなくて自分の好きな絵を見つけよう」と思うのですが、大体そういうのは見つからないですね。つまらない絵だな…と歩いていて、パッと目に止まるのはゴヤの肖像画だったり。やっぱり違うんですよね。絵から出てくる質というか結局は著名な画家しか目に留まらない。

こうして予備校の講師をしていて、生徒に教えることが好きなのは、生徒から学ぶからですよね。生徒に教えながらこれまで自分が気付かなかった絵の魅力に気づくからなんです。美術の世界というのは絶対的なことは証明出来ないですが、経験に基づいて判断することは出来ます。良い絵というのは多数決で残るのではなくて、その絵を推す意見の強さで残ってきます。そういった美術界のことをこの映画で少しでも知ってもらえたら嬉しいなと思います。

――今日は貴重なお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

『ブルーピリオド』大ヒット上映中!

<STORY>

生きてる実感が持てなかった。あの青い絵を描くまでは―これはからっぽだった俺が、初めて挑む物語。

ソツなく器用に生きてきた高校生・矢口八虎は、苦手な美術の授業の課題「私の好きな風景」に困っていた。

悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみた。

その時、絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を持ちはじめ、どんどんのめりこんでいく。

そして、国内最難関の美術大学への受験を決意するのだが…。

立ちはだかる才能あふれるライバル達。正解のない「アート」という大きな壁。経験も才能も持ってない自分はどう戦う!?

苦悩と挫折の果てに、八虎は【自分だけの色】で描くことができるのか。

<CAST&STAFF>

眞栄田郷敦

高橋文哉 板垣李光人 桜田ひより

中島セナ 秋谷郁甫 兵頭功海 三浦誠己 やす(ずん)

石田ひかり 江口のりこ

薬師丸ひろ子

原作:山口つばさ 『 #ブルーピリオド 』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)

監督:萩原健太郎

脚本:吉田玲子

音楽:小島裕規 “ #Yaffle ”

主題歌:WurtS「NOISE」(EMI Records / W’s Project)

製作:映画「ブルーピリオド」製作委員会

制作プロダクション:C&Iエンタテインメント

配給:ワーナー・ブラザース映画

(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

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