「必殺本まつり」開催記念対談 高鳥都+髙橋佑弥+山本麻「帰らぬ愛に泣く紅い原体験」後編
ガジェット通信 / 2024年10月18日 12時0分
書店フェア「高鳥都の必殺本まつり」開催記念鼎談の「後編」では、引き続き著者の高鳥氏と映画本書評放談コンビ髙橋佑弥&山本麻両氏による、果てしないおしゃべりの様子をお届けする。批評の面白さとは? 映画原体験は? はたまた写真の使用料は? 話題はよりディープな方向へとめどなく……。前編を上回る1万5000字のフルボリュームをどうぞ。
9月19日より全国56の書店でスタートした「高鳥都の必殺本まつり」[リンク]
作品の面白さは、誰の手柄か
髙橋 個人的に高鳥さんの必殺本ですごく新鮮だったのは、シネフィル的な見方をすると作品の美点は「作家」に還元されがちですが、実際は集団作業なので容易に割り切れるものではないということがよく分かるところです。常日頃から、映画監督の特徴を考えるときにテレビドラマも扱うとして、その人の担当回だけ見て済ませていいのかと疑問に思っていて……。
高鳥 難しい問題ですね。テレビの連続ものは長いので、よっぽど好きじゃないと批評のために全話見るのは厳しい。どうしても「三隅研次だけ」「工藤栄一だけ」とかになる。それから集団作業という観点で、例えば画面の端に映っている赤い傘を選んだのは助監督とか、俯瞰のワンカットにすると決めたのはカメラマンとか、いろんな要素がありますが、最終的には作家に還元されていいと思うんです。すべてひっくるめて監督なり脚本家なりに代表させないと、何も語れなくなってしまうので。
髙橋 なるほど。ただ、そのいっぽうで『週刊読書人』の対談では「スタッフ取材は“作家主義の邪魔だ”という声もあるのですが、そうした権威的なスタンスには抗っていきたい」と話されていましたよね。
高鳥 作家論に還元しようとすると、すごいノイズになるんだと思います。ただ、現場が集団作業であることは知ってほしい。そういう意味でも監督、脚本家、プロデューサーだけでなく、取材の機会が少ないスタッフから話を聞くことに重点を置いています。そこもある種の大穴狙いというか、やはり先人と同じことをやっても意味がない。
山本 工藤栄一とか、現場ウケがよくてスタッフに人気の監督もいますよね。
高鳥 『必殺』の場合も、やはり京都映画のスタッフからは作家性が強い監督の評価が高く、職人監督は割を食いがちというのはあります。スムーズな撮影より、苦労したほうが記憶に残りやすい。だから、工藤栄一と松野宏軌の二人はすごく対照的な存在で。
山本 スタッフのみなさんの松野評価のばらつきは生々しかったです。松野監督のエピソードは意識的に多く残しているそうですね。
高鳥 そうです。ずば抜けた最多登板で、必殺シリーズだけで200本以上……3桁撮っているのは松野宏軌だけですから。本人が亡くなられたあと訃報も出なかったし、晩年もインタビューを断られたそうで、あまり言葉を残していないこともあって。
山本 ほかの監督が断った台本の回を担当したり、予算不足の皺寄せが来たりするなか撮り続けた職人的監督であることは間違いないですよね。助監督の都築一興さんは「あんまり主義主張は言われない、とにかく流れるまま撮るというか、流されるまま撮るというか」と回顧しています。が、同じく助監督の皆元洋之助さんの「松野さんもけっこうしたたかで、自分のほしいカットは石原興に拝み倒してでも撮る」、スクリプターの野口多喜子さんの「石っさんにも松野さんが教えてましたよ。『必殺』の前の話ですが」といったこだわりを滲ませる証言もあります。
高鳥 しかし、俳優からの評価に「頼りない」「なにも言わない」と厳しいものがあるのも事実です。ただし、いくらカメラマンの介入が大きかろうと最終的には松野監督の手柄として評価すべきと思っています。なんだかんだ現場でOKを出して、仕上げを行い、最後に「監督 松野宏軌」とクレジットされているわけですから。大映テレビなんかは監督が撮った素材をもとにプロデューサーと編集技師が主導して仕上げていくケースがあるので厄介ですが、たいていのテレビ映画は各話ごとに監督主導で作られている。むしろ作家論として語りにくいのは、土台となる脚本の出来不出来に影響されること。往々にして、いい脚本は工藤栄一や蔵原惟繕のところにまわるので、そういう現場の力関係もあります。
山本 とくに2冊目の『必殺シリーズ異聞』を読むと、会社間の政治も作品に多大な影響を与えるということがよく分かります。そういう裏事情は作品を見ただけではわからない。
「批評、書けないんですよね」
高鳥 最近は作り手へのインタビューをもとに「監督がこう言っているから、テーマはこれだ!」という言説が多いじゃないですか。あれ、すごいキライなんですよ(笑)。もちろん当事者の証言は大事ですが、作者と観客の捉え方は別物だし、評論家が作り手の言葉を錦の御旗のように振りかざし、スポークスマンよろしく代弁するのはつまらない。
髙橋 わかります。そもそも本人に聞けば済むんだとしたら、見て感じる必要なんてないじゃんっていう。クイズの答え合わせのように作者の言葉を鵜呑みにしてしまうと、作品の面白さが閉じていく気がする。
高鳥 とはいえ、自分も東宝の美術助手の回想録で、自分とカメラマンのアイディアを監督の鈴木英夫が採用してくれなくてヒドかったと書いていたのを読んで、作品を見る前から「鈴木英夫はダメだ!」とか思ってましたけど(笑)。
山本 『映画裏方ばなし』(講談社)ですね。撮影予定が急遽前倒しになった『彼奴を逃すな』(56年)のセットで、下見にきた鈴木英夫が急に「洋裁店にマネキン人形がほしい」と言い出したのを、著者の鈴木一八さんは時間稼ぎのためだったのではないかと述懐しています。
高鳥 で、後年に作品を見て「鈴木英夫、めっちゃいいじゃん!」と驚く。いまは批評が弱体化していることもあって、当事者の声に重きが置かれすぎている気がします。インタビュー本を出しておいてこういうことを言うのも矛盾していますが、やはり第一には作品を見て個々に判断したいと思います。
髙橋 『映画秘宝』などに書かれるようになったころ、どこかで「映画批評を書いたことがない」というようなことを書かれていた覚えがあるのですが、あれはどういう……。
高鳥 批評、書けないんですよね。
髙橋 ということは、現時点でも書いてきてないという認識で?
高鳥 ですね。まぁ、レビューというか短い紹介文なら書けますけど、いわゆる「批評」は自分の感覚だと書いた記憶がない。難しそうだなぁと(笑)。
髙橋 ご自分のなかで、レビューや解説的な文章と批評は明確に違うものなんですか。
高鳥 1000字や2000字で作品について書くのは、まぁ「批評」と捉えることもできるのかもしれませんが、とくに批評と思って書いてはないですね。「紹介」、あるいは「研究」じゃないかなと。『必殺仕置人大全』(かや書房)のとき、合計67話分のテキストを1話につき2000字ずつ書いて、あれも批評めいたものかもしれませんが、たとえば吉田広明さんの三隅研次論みたいな腰の据わった批評は自分には書けない……書いたほうがいいんですかね?
髙橋 いや、たしかに『ユリイカ』などによく載っているような批評らしい装いの批評もありますけど、むしろ個人的には、取材や解説に批評性が宿ることもあるなと感じるんです。調べた事実を積み上げて歴史を記述するアプローチも、捨象の選択が関わってくるわけだから、どうしても物語性が生じてくる。ひとつの視座を示すものにならざるを得ないなら、それは批評といっていいんじゃないかと。べつに「批評」であることにこだわる必要があるとも思っていませんが、その認識の差が興味深いというか。
高鳥 そういう意味では「批評が書けない」というのは、コンプレックスとまではいかないですけど、そろそろ書くべきかもしれない。あと、通常ならばライターや評論家は新作の試写を次々と見て、テキストを書く。昨今はTwitterの140字でキャッチーな紹介文を書くだけでも成立する。2時間の映画を見て、手短な応援コメント書いて1万とか2万もらえるの、いいですよね。でも、そのサイクルで資本主義に乗っかって時間を取られちゃうと、自分にしか書けないものができなくなる。だから試写のお誘いも基本お断りしていて、インプットなきまま墓掘りを続ける……特殊なライターだなと思います。
山本 ただ、もはや新作映画をめぐる評論行為自体が難しくなってきていますよね。試写で見てTwitter(X)などに感想をいち早く投稿したり、雑誌やパンフにレビューを書くにしても、基本的にポジティブな賛辞の表明であることがほとんどで、前提化していると言ってもいい。広報に組み込まれつつあって、フラットな論評の場とは言い難い状況に思えます。
髙橋 結果的に「単なる酷評」が読める場所はなくなってしまっていますよね。昔の映画雑誌を読むと、情け容赦無くメタメタに貶す評論がいくつも平然と載っていて、現在との差に愕然とします。「つまらない」と表明できない場で書かれた褒め言葉を、はたして信用できるものかなと。
高鳥 山根貞男は昔「あまりの愚劣さに呆れた」とか書いてましたもんね。ただ、映画ファンって血の気が多いじゃないですか。もう音楽や文学のファンに比べて圧倒的に凶暴で面倒くさい人が多いから、ヘタなこと書くと怖い。ちょうど北村紗衣さんと飯島弘規さんによる『ダーティハリー』談義がものすごく話題になりましたが、あれは「あなたの感想って最高ですよね! 遊びながらやる映画批評」という連載で、あくまで感想……批評ではない。そう言及している。しかし、一部の映画ファンや書き手からの反発はすごかった。たしかに「すんごく面白くなかったです!」から始まるセンセーショナルな切り口で、ウェブ媒体らしい反響を狙ったものだと思いますが、けっきょく感想なので、うどんかラーメンかの好き嫌いみたいなもんでしかないよなぁと。
髙橋 連載のタイトルに「映画批評」と入っていなかったら、少しは違ったのかなぁ……。あの記事は、まず真っ先に批判したブロガーの文章に相手を貶める意図が露骨に透けて見えたこと、そして内容に違和感を覚えた読者の指摘もニューシネマの定義や批評として云々、みたいなところに集中したことで、論点が横滑りしてしまった印象を持ちました。気になっているのは本当にそこなのかな、という。個人的には、結局のところ感想として「おもしろい」か「つまらない」かに尽きる記事だと思っているのですが。
高鳥 映っている画面そのものや監督についての言及がないという指摘も見かけましたが、でも感想ですからね。それぞれが自分に引き寄せてしゃべればいい。まず「門外漢が好きなこと言いやがって」という映画ファン特有の嫌悪感と排他性を感じました。また、そこを北村さんが上手にすくい上げて反論する。かたや銃に対するツッコミなどは識者からの「それは違う」という指摘を受け入れていましたね。
髙橋 「名作といわれているけれど私は面白くなかった」という表明のあとに、理由として極私的な所感を挙げながら説明してゆくだけの素朴すぎるくらい素朴な内容で、そもそも物議を醸すようなことが述べられていると思えないんですよね。納得いかなかったとしても、条件反射的に反発するより、むしろ作品に対して自分が感じている「いい」を改めて考えなおすきっかけにすればそれでよかったんじゃないかなと思ってしまいます。
高鳥 あの談義を読んで気になったのは「アメリカン・ニュー・シネマ」とナカグロを2つ使っているところくらいでしたが、そこは元指導学生である聞き手か、太田出版の編集者の判断でしょう。間違いではないけど、やはり文字面としては引っかかる。しかしあれだけ話題になればPVもすごくて、ウェブ記事としては大成功でしょう。
髙橋 批評といえば、大学時代にテレビドラマのカメラワークについて分析して論文を書いていますよね。気になって、なんとか読めないかと手を尽くしたんですが……。
高鳥 あぁー、たぶん読めないですね、手元にも残ってなくて。『警視庁鑑識班8』(99年)という2時間ドラマがあって、その冒頭で10分くらい長回しの捜査シーンをやっている。「表現として凝っていて緊迫感はあるけれど、果たしてチャンネルを変えられずに見続けてもらえるものだろうか」……みたいな内容だったような。よく考えたら、あれがいちばん批評に近いものだったかもしれない。
山本 批評を読むこと自体はお好きだと思うんですけど、どういうものが理想ですか。
高鳥 人生で初めて読んだ本格的な映画評論が『活劇の行方』(草思社)だったので、山根貞男は好きですね。結局、批評って文章の芸だと思うんです。つまるところ作り手からすれば好き勝手書きやがってという文章に、読者が乗るか乗らないか。映画の好みはけっこう違うんですが、山根貞男の文章ってなんか「かっこいい」んですよ。作り手の意図に隷属するようなものより、やはり自立した批評のほうに面白さを感じます。
髙橋 いっぽうで、さきほど「批評の弱体化」という言葉が出ましたけど、語弊を承知で言うなら、感性に頼った批評のなかにはもう通用しなくなってきているものもある気がします。一回性の時代には「一度でここまで見れるのか」みたいな驚きで成立する部分がありましたよね。現在は、まだまだ見れない映画も無数にあるにせよ、自宅にいながらにして容易に色々な映画を何度でも見れる状況に、言葉のほうが持ち堪えられなくなってきているとでもいうか。だから今後は調査の価値が上がっていくと思うんです。調べものは誰にでもできるけど、誰もが突き詰めてやるわけじゃないので。
高鳥 なるほど。ある時期から自分の原稿も調べて書く長いものよりインタビューのほうが圧倒的に反響が大きくなったんですね。だいたい苦労するのは調べ物のほうなので、ちょっと納得いかない部分もありましたが(笑)、「世の中的にはそっちかぁ」と、その結果として必殺本も次々と出せているわけですが……。
映画本談義 読む、買う、作る
山本 『活劇の行方』をお読みになったのはおいくつのときですか?
高鳥 中学3年か高校1年かな。多少は映画本を読むようになってきた頃で、旅先の広島の新刊書店で購入しました。よくぞ10年以上前の本が新刊で置かれていたなと思いますよ。ちょうどね、山根貞男の『日本映画時評集成2011-2022』(国書刊行会)の書評を依頼されたので、そんな自分語りも書くつもりです。よくよく考えたら書評はコンスタントに書いているので、あれも批評といえるのか……いや、自分のなかでは紹介ですね。
髙橋 『活劇の行方』は森﨑東論や前田陽一論が面白かった印象があります。当時は作品を簡単に見られる状態ではなかったですよね。
高鳥 そうですね。ましてや、田舎の学生だったので。もっとも衝撃を受けたのは「東映集団時代劇論」でした。工藤栄一のことは『必殺』で知って、『十三人の刺客』(63年)などもタイトルだけ知ったんですが「こんな豊穣な世界があるのか」と。とにかく作品を見たくなる文章で、蓮實重彦みたいなケレン味ではなく地道なんですが、そこもいい。
山本 山根さんといえば、さきほど「好みはあわない」というお話がありましたけど、具体的にどのあたりの作品のことでしょうか。
高鳥 たとえば阪本順治とか、だいたい褒めるじゃないですか(笑)。
山本 あぁ〜!
高鳥 批評の党派性というか……それはそれですごいとは思いますが、賛同はできない。まぁ本人も実際どれもいいと思っているわけではなく、しかし一貫して伴走を続けた。
髙橋 なんだかホッとしました。ぼくも阪本順治のよさがぜんぜんわからなくて。阪本順治が出てきた頃から、リアルタイムでイマイチだったんですか?
高鳥 いや、『トカレフ』(94年)とか好きでしたけど、ピンとこない作品のほうが多いですね。こういう説明こそ、言語化して批評にしなきゃいけないんでしょうが。逆に、お二人は原体験的な一冊はありますか?
髙橋 ぼくは、完全に山田宏一信奉者なんです。世代的にはデジタルネイティブなんですけど、わりと長いあいだ実家にインターネット環境がなくて、映画のことを知りたければ本を読むしかなかったところ、早々に『友よ映画よ、 わがヌーヴェル・ヴァーグ誌』(平凡社)と出会ってガツン!とやられちゃいました。読みはじめたときは、トリュフォーもゴダールも知らず、もちろん作品も見たことがなかったんですが、読み終えるころには見たことないまま虜になっていた(笑)。
高鳥 なるほど、そうだったんですね。おふたりが『映画秘宝』で連載している新刊映画本対談も、初回が山田宏一で始まっていたので、なんて保守的なんだ!と思いましたが(笑)。
髙橋 もちろん好きだから取り上げたのですが、大ベテランだからといって、あえて扱わないというのはナシにしたいと決めていました。新刊が出る、という事態が素晴らしいことに思えて。ぎりぎり同時代を過ごせていることが嬉しいんですよね。
高鳥 そのまま読み進めたら自分の本も出てきたので、「なんて素晴らしい連載なんだ!」と思い直しました(笑)。真面目な話、いまどき毎月4ページも割いて、8000字かけて映画本についてじっくり対談する場があるというのは貴重ですよね。『映画秘宝』も例のDM事件からの休刊・復刊でずいぶんライターが入れ替わって、その恩恵を若手のおふたりが受けた。残るという意味で、やはり紙媒体は重要です。
山本 山根貞男の映画時評じゃないですけど、やっぱり定点観測として続けることに意義があるタイプの試みだと思うので、できるだけ長く続けていきたいと思っています。
高鳥 山本さんの原体験は、どのようなものだったのでしょうか?
山本 ちょっと言いづらいのですが、じつのところ私は映画本の原体験と言われてぱっと思いつくものがなくて……。大学入学時に上京し、名画座に行くようになったのと同時期に映画本のいわゆる名著を短期集中的に読んだからか、影響は受けてるはずなのに、1冊ごとのビビッドな出会いの記憶が抜け落ちてしまっていて。なので、髙橋と2021年にnoteで新刊映画本クロスレビュー企画をはじめてから読んだ本のほうがふとした瞬間に思い出す、原体験的な指針になっているものが多いです。あくまで一例ですが、鷲谷花『姫とホモソーシャル』、河野真理江『日本の〈メロドラマ〉映画』、遠山純生『〈アメリカ映画史〉再構築』、吉田広明『映画監督 三隅研次』などですね。
高鳥 なるほど。そもそも、おふたりはどうしてnoteで対談を始めたんですか?
髙橋 大学時代に貧乏学生だったというのが第一の理由です(笑)。当時、毎月刊行される新刊映画本が気になるけれど、すべて買うことはできないし、なけなしのお金で買う1冊でハズレも引きたくないという状況で……どれが面白くて、どれが面白くないか、ストレートな感想を教えてくれる場があったらいいなと思っていたんですよね。映画本の感想って、とくに新刊は意外なほど少ない。Twitterなどで検索しても、見つかるのは献本された人の内輪褒めくらいで、信用できるかわからないし、書評は参考になるけれど出るまでに少し時間がかかる。でも、ワガママな読者としてはすぐ知りたい(笑)。それで卒業後に、誰もやってくれないなら、会社員になったのだから、いったん自分で試してみようと思ったのがきっかけです。
高鳥 すばらしい……でも、大変そうですね。面白い・面白くないを教えてもらえるなら読む側は助かるけれど、自分でやるということは、つまらないかもしれない本も積極的に読まなくてはいけないわけだから。
山本 そうなんです(笑)。noteの記事では、毎月5冊を取り上げていて、読みたい本だけでは枠が埋まらないことも多い。だから気乗りしない本も選ばざるを得ないわけで、かなりしんどい読書もありました。でも逆に、消極的に選んだ本のなかに素晴らしいものがあったりもして。そうやって始めた企画を、いま映画雑誌で連載できているのは本当にありがたいです。noteより字数も増えたので細かい部分にも言及できるし、対談形式になって間口も広がっているかなと。
選書フェアで売れた本、売れなかった本
髙橋 映画本といえば、『必殺シリーズ異聞』刊行記念の選書フェアがすごく面白かったです。
高鳥 あれは書泉グランデの店員さんが持ちかけてくれた企画で、とても嬉しかったですね。ジャンルも映画本だけじゃなくてOKということで。
髙橋 メモってきたので列挙しますと──『終生娯楽派の戯言』『光と影 映画監督工藤栄一』『東映ピンキー・バイオレンス浪漫アルバム』『シナリオ 仁義なき戦い』『映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件』『破滅 梅川昭美の三十年』『喰うか喰われるか 私の山口組体験』『マッドマックス 怒りのデス・ロード 口述記録集』『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』『青木雄二漫画短編集 完全収録版』『blue』『散歩のとき何か食べたくなって』『終業式』『文庫版惹句術 映画のこころ』『日本映画時評集成1976-1989』『実録テレビ時代劇史』『デビュー作の風景』……あとは『時代劇は死なず!』などの春日太一本とCDが少々ですね。
山本 映画本のセレクトも興味深いですけど、漫画とかCDがあるあたりが自由ですね。
高鳥 「何でもいい」と言われたので選んだんですが、最終的に一番売れたのが、ほかでもない青木雄二の漫画短編集だったという(笑)。
髙橋 え、そうなんですか。『ナニワ金融道』の底力、なのでしょうか(笑)。
高鳥 文庫で値段が安いから。逆に1冊も売れなかった本もあって、せっかく渋谷のロフトで紙を買って手書きPOPまで作ったのに、それは悔しかったですね。
髙橋 やっぱり「映画本は高い」というイメージってあるんですかね。個人的には、巷で言われているほど映画本が高価と思えなくて。いわゆる鈍器本で1万円前後とかでも、当然じゃないの?って思ってじゃんじゃん買っちゃうんですが。
高鳥 いやいやいや! 高いですよ。中身のよさは別として。
髙橋 たしかに1万円と聞くと高価にも思えますけど、新作映画に2000円とか払ってることを考えると……。昼食に1000円以上出す人とかも珍しくないわけで。
高鳥 しかし同じ1万円でも、家電製品と映画本じゃ感じ方がぜんぜん違うというか、本のほうが高いと感じる。映画本の著者がこんなこと言うのはよくないですけど、けっこうケチなので(笑)。『日本映画時評集成2011-2022』なんて最初の刊行から倍近くの値段になってて……しかし山根貞男によるライフワークの完結編が1万円以下で読めるのならば、飲んだり食ったりを我慢すればいい。
髙橋 そう考えると、立東舎の必殺本はページが土壇場で増えたりしているのに安いっていう(笑)。ゴマをするわけじゃないですけど、めちゃくちゃリーズナブルですよね。
山本 3冊目の『必殺シリーズ始末』は当初416頁の予定だったのに、最終的に480頁に。64頁も増えて、お値段そのまま3080円。
髙橋 だから頁単価は7.4円から6.4円に値下がりしている(笑)。
山本 こういう場合は、どれくらい直前で増えてるんでしょうか。校了間際とか……?
高鳥 間際まではいかないですけど、結構ギリギリではあります。ぼくも担当編集の山口(一光)さんも数字に弱いので、なぜか収まらないんですよ。あれは不思議で仕方ない。
「スチールの使用料は高いのか?」問題
髙橋 最近の映画本って、スチール写真も少なくて結構寂しく感じることが少なくないんですけど、必殺本はスチールも多い印象です。
高鳥 「1枚いくら」という契約なので、本の予算内で可能な限り載せていますが、それほど多いわけでもないはずです。写真が多い印象があるとしたら、それは現場スナップのおかげで、これに関してはスタッフの方々から提供してもらっているので。
山本 現場スナップがどれもいいんですよね。撮影風景だけでなく、夏の海水浴の宴会写真なんかまであるし。あと、山﨑努の野球好きエピソードは随所でちょこちょこ出てきますけど、『必殺仕置人大全』では眼鏡をかけてキャッチボールしている写真もあって、あまりに精悍で思わず拝んでしまいました。
髙橋 色々な映画本関連のインタビューを読むと、どうやら1枚につき大体1〜3万円くらいということらしいですね。
山本 合ってますか?
高鳥 会社次第ですね。それこそ山根貞男が本のなかで嘆いていましたが、昔に比べるとスチールの使用は厳しくなっています。でも個人的には映画本の華は図版だと思っていて、写真やセット図面、インタビューの最後に近影のポートレートを載せているのもビジュアル面を重視する狙いです。自分であくせく撮っていて、取材よりそっちが緊張する(笑)。でも、現場スナップを含めてもどのみちインタビュー1人に対して1〜2点なので、ふんだんには使っていない。『仕置人大全』のほうは、めちゃくちゃ使いましたが。
髙橋 国書刊行会の映画本も、状況によって「1枚いくら」ではなく、印税のパーセンテージなどで交渉して契約すると書いてありました。
高鳥 『仕置人大全』の場合はまとめてグロスの契約で、そこは立東舎の実績と培われた関係性があったのでしっかり交渉できました。まぁ、別の版元なんですけど(笑)。
髙橋 色々伺っていてもスチールはかなり厄介そうですが、読者としては画面のキャプチャーばかりだとやっぱり物足りなさを感じてしまいます。文章の言及箇所を示す図版としては、わかり易くはあるのですが。
高鳥 動画のコマ止めとスチール写真では一枚画としての強度が明確に違いますよね。映画と同じアングルのほうがいいという考えもありますが、キャプチャーだと確実に画が弱い。コントラストも低いので、ぬるっとしてしまう。
山本 映画の画は、止めて見られることを意図して撮られているわけじゃないですしね。
高鳥 『あぶない刑事インタビューズ「核心」』の場合、DVDマガジンで使用されたキャプチャーを提供していただきましたが、すべてコントラストを調整し直しました。キャプチャーも映画会社によってOKとNGがあるんですよ。
山本 あぶ刑事本はサブタイトル画面のキャプチャの挿入も印象的でした。「高鳥都の必殺本まつり」で対象商品を購入するともらえる『必殺仕置人』のクリアファイルもサブタイがずらっとならんでいてワクワクします。
高鳥 あのサブタイは特例で許可をいただきました。いまもね、こうやって話しながら「この話を記事にしたとき、入れる画像が少なそうだな〜」と不安になっていますが、大丈夫ですかね(笑)。
いかにして映画好きとなりしか
山本 ここからは趣向を変えて、高鳥さんがいかにして映画好きになったのかの道程を、根掘り葉掘り質問してみたいと思います。
髙橋 高鳥さんは1980年4月10日生まれ、岡山県笠岡市ご出身ですね。80年4月といえば、鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』公開月。ぼくは『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』なのでちょっとうらやましいです。
高鳥 田舎なので映画館も遠くて、中学1年のときに見たハリソン・フォードの『逃亡者』(93年)が、はじめての映画館鑑賞でした。遅いんですよ。
髙橋 『消えた映画館を探して〜おかやま、昭和の記憶〜』(吉備人出版)という本によると、笠岡市は「西には広島県、南は瀬戸内海に面している。笠岡港は江戸期には西回りの航路の寄港地として栄え、西の浜には今も当時の面影を残す倉庫や蔵が点在している」とあります。廻船業が盛んな土地なんですか。
高鳥 すごい下調べだ(笑)。端的に説明すると獄門島と浅野組(指定暴力団)の町ですね。それから天然記念物のカブトガニ。実家も船会社をやっていました。とくに映画を見にいく文化のない家庭で、それこそ石原裕次郎が最後みたいな……。だから劇場の代わりにテレビの再放送で『必殺』を見て、深作欣二や工藤栄一の名前を覚えていったんです。
山本 よく原稿に書かれるVシネとか火サス(火曜サスペンス劇場)なども、当時テレビで。
高鳥 そうですね。どちらもテレビをつければやっていたので。当時から「チープな土曜ワイドよりシックな火サスのほうが表現として上だな」と明確に感じていました。監督だと猪崎宣昭、下村優、山田大樹、当麻寿史といった中堅どころ。Vシネはご存じ三池崇史と……あとは望月六郎がアツかった。
髙橋 望月六郎! 高鳥さんはオールタイムベストに『鬼火』(96年)、Vシネ本でも『実録・青森抗争』(02年)を選んでいましたよね。ぼくも『修羅の血』(04年)とかが好きで好きで。変な映画ですが。
山本 昨年、文春オンラインに掲載されたインタビューも衝撃的でした。「望月六郎監督(66)は、なぜ表舞台から消えガードマンになったのか」。
高鳥 『ザ・ノンフィクション』にも出てましたね。当時は宮坂武志や井出良英も勢いがあって、Vシネが第三のメディアでした。しかし致命的に批評が存在せず、埋もれてしまった作品も多いのが悔やまれます。
髙橋 お定まりの質問ですが、最初に見た映画の記憶って覚えてますか? 初の映画館鑑賞は『逃亡者』とのことでしたが。
高鳥 おっ、いいですね、映画的記憶(笑)。すぐ思い出せるテレビの記憶でいえば、やっぱり必殺シリーズの再放送で『必殺必中仕事屋稼業』(75年)、雨がザーザー降っていて駕籠の中にいる悪人をすれ違いざまに殺すという、俯瞰ショットがあって……。
山本 第19話「生かして勝負」ですね。蔵原惟繕監督回で、助監督は高坂光幸さん。
高鳥 ぼくより詳しいな(笑)。それともうひとつ。衝立を後ろ側から手で突き破って、相手の心臓を握りつぶすという『暗闇仕留人』(74年)の殺し。これも俯瞰です。小学校低学年のころですが、両方とも自分の目では見れない真上からのカメラアングルを鮮烈に覚えていて、後年「これだったのか!」と。
山本 ラピュタ阿佐ヶ谷の特集で上映作にも選ばれていた、第5話「追われて候」ですね。早撮りの田中徳三監督回。
高鳥 そう、「なんであれを選ぶのか」というマニアからの批判もありましたが、映画的記憶を優先しました。あと、少人数で大名行列を襲うシチュエーションが好きだったので、工藤栄一の『十三人の刺客』のテレビ用の予告編がすごく印象に残っています。橋を爆破して混乱が生じているところで斬り合うハードなアクションで、勢いよく槍が目に刺さったりする……ただ、あとからいざ本編を見てみたら、そんなシーンなかった(笑)。たぶん『将軍家光の乱心 激突』(89年)の人馬もろとも大炎上とか、いくつかの活劇シーンがごっちゃになって脳内で偽記憶が醸造されていたのではないかなと。
髙橋 幼少期の原体験における偽記憶というか、思い込みってありますよね。ぼくの場合、覚えている最初の映画記憶は、物心つくかつかないかのころにテレビで見た『酔拳』(78年)なんですけど、おそらくジャッキー・チェンが登場するより前にチャンネルを変えられちゃったみたいで(笑)。きちんと見直すまで、序盤に登場する蹴りの達人が主人公の映画だと勘違いしていた。
海の上のシネアスト(?)
山本 高鳥さんの学生のころ、90年代から2000年代前半は現在と真逆で洋高邦低の時代だったと思うのですが、これまで高鳥さんは基本的に邦画について書かれてますよね。今日はせっかくなので、洋画についても伺ってみたいなと。
高鳥 洋画かぁ……難しいな。
髙橋 当時から、すでに邦画の比重が大きかったんですか。
高鳥 そうですね。あまりソフトを買わない人間なんですけど、いま自宅にあるBlu-rayの洋画は『アンストッパブル』(10年)、『バーニング・オーシャン』(16年)、『天使の復讐』(81年)の3本……ということは、そのへんが好きなんでしょうね。
髙橋 逆に興味深いです。むしろ、何か理由があって書かないと決めているのかなと思ったんですけど。
高鳥 いやいや、そんなことはないです。ただ、外国人の名前と顔が覚えられないというのはあります。中学のときから英語が苦手で、テストの点数も悪かったので。友達に誘われて、スピルバーグの『プライベート・ライアン』(98年)をぜんぜん予備知識なしで見て、ド肝抜かれたりしましたけどね。あのノルマンディー上陸作戦を最前列で……。洋泉社末期の映画秘宝がムックを量産していたころ、洋画のジャンル別100みたいなシリーズがあって『プライベート・ライアン』も担当しましたが、あれに毎回声かけてもらったのは、いい経験になりました。邦画班よりぜんぜん原稿のダメ出しも厳しくて(笑)。
髙橋 ムック時代の映画秘宝、たとえば94年の『悪趣味洋画劇場』は中学時代ですよね。それをガイドに洋画を見ていくという流れはなかったんでしょうか。
高鳥 本屋さんで手に取って「こういう世界があるんだ!」と思いましたが、でも翌年に出た『悪趣味邦画劇場』のほうが強烈でしたね。
山本 ちょうど同じころに、山根貞男『活劇の行方』も手に取られたというお話でしたが、ほかにはどんな映画本を読んでいましたか。
高鳥 90年代の映画少年としては、わりあい普通の道だと思います。ムック時代の秘宝、ワイズ出版、徳間書店の浪漫アルバムが出たころで、いま振り返ると批評的なものと取材的なものを両方とも摂取できていた。
髙橋 『悪趣味邦画劇場』にも少しだけ東映ニューポルノへの言及がありましたが、存在を認識したのはここからですか?
高鳥 『邦画劇場』のあとかな。家業が神戸と博多を往復する貨物船だったので、ぼくも夏休みなんかになると船に乗っていて……忘れもしない神戸の元町商店街にあった海文堂書店でワイズの『石井輝男映画魂』と日本カルト映画全集の牧口雄二『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』の巻を買って、そのときですね。こんな過激な映画があったのかと。
髙橋 本日の準備として、高鳥さんがお書きになったものを順番に読み直してきたのですが、まとめて読んでいくと根っこで繋がっているというか、こうやって話を聞いていても、すべて原体験の延長線上にあるんじゃないかという印象が強く……逆にちょっと珍しい気もしたんです。
山本 たしかに、強烈な原体験があったとしても、のちに好きになった作品のほうにより深い関心を抱くことも少なくないですよね。幼少期に好きだったものを、大人になっても同じように好きとも限らないし。子供の頃は邦画中心で、あとからジョン・フォードとかを見て、以降は洋画中心になるとか。
髙橋 キャパが狭いし、そこを掘り下げたいタイプなんですね。あ、フォードで思い出したんですけど、『駅馬車』(39年)は船で見たんですよ。夏休みに乗組員のおじさんが持っていたガビガビのVHSで。それが面白くって……後年、牧口雄二監督の思い出の映画だと知って「趣味が合いますね!」と(笑)。
髙橋 『駅馬車』というチョイスは、そのおじさんが……?
高鳥 色々な番組を無作為に録画したVHSですね。そのおっさんは映画好きで、それから海の上って電波が不安定でテレビの映りが悪いんですよ。だからビデオが欠かせない。『駅馬車』と同じテープに高校野球が入っていたりして、さらに『洗濯屋ケンちゃん』(82年)と『必殺』が両方入ったビデオを貸してくれたりもしました。小6とかのころだったので、いま思えば親に内緒でとんでもない英才教育を受けていた(笑)。
山本 裏ビデオと『必殺』のセットは、なかなかパンチのきいた組み合わせですね。
高鳥 船に乗っていたのも会社を継ぐための実地研修みたいなもので、高校のとき父親が亡くならなければ、ぜんぜん別の人生だったでしょうね。でも、楽しかったですよ。そのシネアストのおっさんは港に着くとスナックに連れてってくれて、きれいな姉妹がやっている店で「どっちともな、わしに惚れとるんや」とか言いながらカモにされてた(笑)。
髙橋 原体験の話題が続いているので、「高校のときレンタルビデオで見た」という高鳥さんのオールタイムベスト映画『狂った野獣』(76年)についても伺いたいんですが、どんな遭遇体験だったんですか。
高鳥 中島貞夫の名前は知っていましたが、監督で選んだわけではなく片っ端から70年代の東映作品をレンタルビデオで見たなかの1本でした。杉作J太郎さんの『ボンクラ映画魂』(洋泉社)で紹介されていて、あの本は脇役大全集のバイブルだったので、それもあって見て、やられたというか。
山本 中島貞夫は、この年に4本も監督しているんですよね。『狂った野獣』以外は『実録外伝 大阪電撃作戦』『沖縄やくざ戦争』『バカ政ホラ政トッパ政』。しかもその前年にも4本撮ってる。そのうちの1本とはとても信じられないような映画です。
高鳥 雑なところも多くて、でも、そこがいいんですよ。最初からバスジャックが起きて……というスピーディな展開も好きなんです。『駅馬車』と同じ、動く密室劇だし。
山本 『駅馬車』も、開幕早々に物語が動き始める映画ですね。
高鳥 ただ『狂った野獣』も、じつは渡瀬恒彦が湖を泳いでいくラストだけあんまり好きじゃなくて……。当時、同時に見たのが深作欣二の『暴走パニック 大激突』(76年)で、こちらは最後に「その後、二人は海外に逃亡して銀行を荒らした」みたいなテロップが入って終わる。それがすごくかっこよかったので、ダビングして最後だけ『暴走パニック』のほうに差し替えて、自分だけの理想の『狂った野獣』を作っていました。感動的でしたね。
山本 急に実録テイストになってしまう(笑)。
高鳥 そっちのほうが好きだったんですね。必殺本の京都取材の合間、中島貞夫監督に『狂った野獣』一本勝負の取材をすることもできて、まさかあれが生前最後のインタビューになってしまうとは思いませんでした。「思い立ったら即」という電光石火の取材でしたが、バスジャックにしろインタビューにしろ、突発的な行動力が必要なのかもしれません。
髙橋 実話誌『昭和39年の俺たち』の『狂った野獣』に話題を限定したインタビュー……あれは「こういう切り口もアリなのか」と衝撃でした。実話といえば『実話ナックルズ』で知られるミリオン出版の『GON!』に中2で投稿して掲載され、高校時代は『噂の真相』にはまっていたそうですが。
高鳥 あぁ、すっごいよく調べてるなぁ(笑)。そうそう、『GON!』に1回だけ投稿して載ったんですよ。「生まれてきた子が大滝秀治」というネタで……送ったときは大爆笑だったんですけど、いま思うと死ぬほど寒い!
山本 わはは。確かに赤ちゃんみたいな顔ではありますけどね、大滝秀治。
髙橋 あのペンネームの由来って、諸説あるというか、何度か異なる理由で説明していたと思うんですけど、結局どれが……。
高鳥 全部いいかげんですよ。意味はないというか、字面ですかね。じつはライター仕事をするために考え出したわけじゃなくて、テレビの仕事でちょっと使っていたペンネームをそのまま引き継いで……当初は、書く仕事がここまで続くとも思ってなかったから。それこそ『GON!』の編集長だった比嘉健二さんが秘宝ムックの暴走族ドキュメンタリー映画の原稿を読んで、「これ書いた人を紹介して」ということで比嘉さんの実話誌にも参加するようになった。なんだかんだと狭いところで繋がってるなと思います。
貴重な番宣資料の発掘・収録
髙橋 宴もたけなわではございますが(笑)、最後に「高鳥都の必殺本まつり」と新刊の『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』についてもおうかがいできればと思います。
高鳥 そう! ぼくの話なんてどうでもいいんですよ。「必殺まつり」は、フェアに高鳥都って名前を冠しているのが恥ずかしいのですが、そっちのほうが売れるのであれば、よろこんで神輿になりましょうと。購入者向けの特典で小冊子とクリアファイルを作ったんですが、先ほども話題に出たクリアファイルは『必殺仕置人』全26話のサブタイトル入りのデザインを自分で考えた自信作です。たぶん誰も指摘しないこだわりを明かすと、下地の白も100%ではなく少し落として、70年代のテレビ映画っぽい雰囲気にしました。
山本 新刊についてはどういう経緯で出すことになったんでしょうか。もともとは「三部作」ということでしたが。
高鳥 今回は俳優15名のインタビューにスタッフ座談会が3組という構成ですが、もともとやる予定ではなかった。俳優については、かつて辰巳出版の『時代劇マガジン』が必殺シリーズのDVDリリースに合わせて取材を行っていたので、それを本にするのがベストだと思っていました。しかし、先方と協議をしてもなかなか動き出さないので、先に仕掛けた次第です。その前の『あぶない刑事インタビューズ「核心」』が50名だったので、15名なんて楽勝かと思っていましたが、ひたすら俳優の話をまとめるのは、なかなか作業にメリハリがなくて……苦労しましたね。
髙橋 高鳥さんは東京の美大を出て、あまり公にはしていませんが映像関係の仕事をする傍らライター業を続けて、いまや「インタビューの名手」と呼ばれています。やはり批評の側ではなく、現場経験があるというのは取材をする上でも強みでしょうか?
高鳥 いや、ほとんど関係ないと思います。たしかに松竹撮影所にも何度か出入りしたことがありますが、当時から面識があるのは石原興さんや一部の方だけで、みなさんに取材するときもあくまでライターとして接しています。だって、中途半端に「ぼく、現場のこと知ってますよ」なんて恥ずかしいじゃないですか。もちろん相手に「お、こいつ多少はわかってんな」と思わせるフックはあるかもしれませんし、それまでの経験が役に立っている部分も否めませんが、どっちかといえば取材より企画や構成面だと思います。
山本 わずか数年のあいだに3冊も読んできたので、だんだんと慣れてきてしまってもいるのですが、1冊目のときは監督・脚本・撮影以外の多くのスタッフにインタビューを行っている点にかなり新鮮な印象を受けました。しかもスタッフ・キャストのたまり場的な喫茶店のマスターにまで取材をしていて、こんな本は他にない(笑)。
高鳥 これまでの本は取材される機会の少ない裏方のスタッフに話をうかがったからこそ、あまり比較対象がなくて得した部分があると思います。それは狙いどおりだったんですが、今回の『必殺シリーズ談義』は俳優中心なので、正直なところ化けの皮が剥げるんじゃないかという不安もあります。しかし、みなさんけっこう遠慮なく語ってくださったので、読みごたえあるものになっている気はしますね。
髙橋 これまではキャストの取材があっても、あくまでメインはスタッフ、というスタイルできていたので、新刊は俳優中心という情報が出たときは驚きました。まだ読むことができていませんが、とても楽しみです。
高鳥 ぐるっと一周回って王道になってしまった……。俳優中心ということは現場スナップという奥の手が使えず、これまでの4冊で一番スチール代がかかっているんですよ。「ちょっと大丈夫かな〜」という枚数なので、売れてくれなきゃ困るなぁというのが本心ですね。ぼくが編集者なら止めてるレベルで(笑)。
山本 表紙は1冊目を彷彿とさせる、シルエットのスチールですね。いま考えると1冊目もかなり攻めた表紙でしたが、今回はさらに人物のサイズが三分の一くらいになっているという(笑)。でも必殺シリーズらしさがビンビンに伝わるデザインでかっこいいです。
高鳥 映画本なのでまずビジュアルにこだわりますし、やはり攻めたものにしたい。そうだ、スチールの選別で大阪の朝日放送テレビに行った際、ふと担当の方との世間話から必殺シリーズの番宣資料が残されていることが判明したんですよ。「仕掛けて仕損じなし」……記念すべき『必殺仕掛人』第1話の貴重な資料が今回の本に収録できたのはうれしいことで、このあたりも見どころですね。書名とも上手くリンクできたと思います。
というわけで、このたびの鼎談はこれにてタイムアップ! お楽しみいただけましたでしょうか。夕刻から開始された語らいは、場所を移して酒場でも続き、解散したのは終電間際だったとか。必殺インタビュー本の第4弾『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』は10月18日に発売となります。既刊3冊とあわせて、新たなファン参入のきっかけとなることを願うばかりです。二大特典付きの「高鳥都の必殺本まつり」も全国56の書店で開催中、ぜひお立ち寄りください。
(執筆者: リットーミュージックと立東舎の中の人)
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