映画『徒花 -ADABANA-』永瀬正敏インタビュー「この物語自体に現代が追いついてきている様な、素晴らしいチャレンジだなと思います」
ガジェット通信 / 2024年10月31日 18時0分
⻑編映画デビュー作『⾚い雪 Red Snow』(19)が第14回 JAJFF(Los Angeles Japan Film Festival) 最優秀作品賞を受賞するなど、繊細かつ圧倒的に作りこまれた世界観が国内外問わず⾼く評価されている甲斐さやか監督の最新作、⽇仏合作 映画『徒花 -ADABANA-』が公開中です。
国家により、ある“最新技術”を用いて【延命治療】が推進された、そう遠くない現代が舞台の物語。本作で医師を演じ、スチールカメラマンとしても参加している永瀬正敏さんにお話を伺いました。
――とても素晴らしい映画をありがとうございました。永瀬さんは前作に続いての甲斐組参加となりました。
『⾚い雪 Red Snow』でご一緒して、また甲斐監督の作り出す世界の中に入れていただけたら良いなと一方的に思っていたので嬉しいです。甲斐監督とはたまに(井浦)新くんも交えて3人で食事をしたり、交流させていただいています。
――本作にはスチールカメラマンとしても参加されていて、どれも素晴らしい作品ですね。
ありがとうございます。出演のオファーをいただいたことも光栄ですけれど、「写真も撮って欲しい」とお願いされたことが非常に嬉しかったです。映画では以前行定勲監督の「贅沢な骨」という作品でも撮影させていただきましたが、別の作品でも、俳優としてではなくスチールカメラマンとしての依頼を受けたことがあり、その時もとても嬉しかったのですが、監督がその作品を撮る前にお亡くなりになってしまって実現しなかったので。今回は俳優として現場に行かせてもらった日数よりも、カメラマンとしての日数の方が多いです(笑)。
――作品に出演している俳優としての永瀬さんと、カメラマンとしての永瀬さん、現場ではどの様な感じだったのでしょうか。
新くんは特にですけど、一緒のシーンに出る方は全員これまでにも共演させていただいた経験があって、写真を撮らせてもらった方もいます。でも、現場で役をまとった皆さんを写真撮らせてもらうのは、普段と異なる雰囲気があって新鮮で幸せでした。皆さん協力的で有り難かったです。お芝居の時は気持ちを切り替えて、また違うスイッチを入れて現場に立たせていただいていました。
――映画自体もとても芸術的なシーンの連続で、スチールでもその瞬間を切り取られている様に感じました。
監督のイメージ画を見せてもらいながら、どの様な写真を撮ろうということを何度も打ち合わせしました。僕もクランクインする前にロケハンをさせてもらって、その時に浮かんだアイデアを監督に伝えさせてもらったり。本作は「それ」という、いわゆるクローンが登場するお話なので、“二面性”をどうやって表現しようかとずっと考えていて、現場でも俳優の皆さんに急遽思いついた新しいアイデアの撮影をお願いすることもありました。
――同じ俳優さんが演じられているのに全く別人に見える、すごく不思議な体験でした。
二役って難しいんですよね。僕も昔二役をやらせてもらったことがあって。その時には「メインの役を全部撮り終えた後に、もう一つの役を演じたいです」とお願いしました。そうしないと僕は難しかったから、新くんも(水原)希子ちゃんもとても高度なことをやられているなと思います。
――最初に本作の脚本を読んだ時にはどの様な印象を受けましたか?
まず、チャレンジャーだなと感じました。パンデミックなど色々なことが重なって、監督が思われるところがたくさんあったのだと想像しますが、こういったテーマに真摯に向き合い、それをどう映像として表現するのかがとても楽しみだなと思いました。本作は監督が20年ぐらい前に思いつかれたアイデアなんですよね。でもこの物語自体に現代が追いついてきている様な、素晴らしいチャレンジだなと思います。
――完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
監督の明確なヴィジョンが現れている作品だと思います。心の中に突きつけられるような。劇場を出て、ご自宅まで持って帰っていただける作品だと思います。自分に関しては、これは語弊があるかもしれないのですが、僕は画面にできるだけ映りたくなかったんです。脚本を読んだ時に、監督の意図は僕が演じる医師という役柄は色々な方がイメージするティピカルな医師とは違うだろうなと思いました。本作では、様々な疑問と決断に対峙する人物が描かれていて、「“それ”を殺してまで自分が生きて良いのだろうか」と新次も葛藤する。まほろも悩みますよね。そんな心の葛藤“肯定する自分と疑問を感じざるおえない自分”の二面性を具現化した人が医師で、「あなたは生きるべき人です」と言いながら、その言葉には裏もあるかもしれない。そんな医師という役柄を演じる上で、画面には映らなくてもいい、声だけが響いている“透明な存在”でいたかったんですよね。
でも全く映らないのも意図的すぎるし、監督のジャッジをいただきながら、出来るだけ存在感を出さない様に、セリフも表情もフラットでいることを意識していました。“無色”な感じですね。色は新次やまほろ、観客の皆さんにつけていただきたいなと思っていました。
――「勝手にデザインしたやつシリーズ」のヴィジュアルがとても素敵で(https://twitter.com/m_nagase_66/status/1841415891877278046)あのシーンをセレクトしたこともとても印象的だなと感じました。
いやぁ、本当に勝手にやっていただけなのですが(笑)、でも見てくださりありがとうございます。撮影した時に僕が感じた印象を、デザインチームの皆さんに言葉ではなく形として伝えたいと思いまして。写真のデータと一緒に最初にお渡ししていたものなんです。花が浮かんだガラス瓶に半分しか水が入っていないものは、僕の中では死生観を表しています。またクローンというのは科学的に作られたイメージがあるので、シャーレの中とか、そういう意味でガラス瓶を使って、1輪の花の浸かっている部分のどちらかが自分でどちらかが“それ”であろうと撮影しました。お花をたくさん買ってきて選んで、自宅を真っ暗にしてひとりで撮影しました。
――永瀬さんのお写真や作品を見ていると、映画を観た時の気持ちが蘇ってくる感覚があります。
うわぁー、嬉しいです。どの役柄にもバックボーンがあって、それが映画の中で全て描かれているわけではないですけれど、そこを想像するだけでも楽しめますよね。誰に感情移入をするかで、視点を変えて観ていただける作品だと思うので、何度も劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。この作品を通して、甲斐監督の世界観がもっともっと世界に広がっていって欲しいなと思います。『⾚い雪 Red Snow』の撮影が終わった後も「ずっと映画を作ってください、すぐに作ってください」と監督に伝えていました。それは新くん、今回ご一緒した希子ちゃん出演者の皆さんも一緒の気持ちだと思います。
――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました。
撮影:たむらとも
【ストーリー】裕福な家庭で育った新次(井浦新)は、妻との間に⼀⼈娘も⽣まれ、周りから⾒れば誰もが望むような理想的な家族を築 いていた。しかし、死の危険も伴うような病気にむしばまれ、とある病院で療養している。⼿術を前にした新次には、臨床 ⼼理⼠のまほろ(⽔原希⼦)が⼼理状態を常にケアしていた。しかし毎⽇眠れず、⾷欲も湧かず、不安に苛まれている新次。 まほろから「普段、ためこんでいたことを話すと、⼿術に良い結果をもたらす」と⾔われ、過去の記憶を辿る。そこで新次 は、海辺で知り合った謎の「海の⼥」(三浦透⼦)の記憶や、幼い頃の⺟親(⻫藤由貴)からの「強くなりなさい、そうすれ ば守られるから」と⾔われた記憶を呼び起こすのだった。記憶がよみがえったことで、さらに不安がぬぐえなくなった新次 は、まほろに「それ」という存在に会わせてほしいと懇願する。 「それ」とは、病気の⼈間に提供される、全く同じ⾒た⽬の“もう⼀⼈の⾃分(それ)”であった……。 「それ」を持つのは、⼀部の恵まれた上層階級の⼈間だけ。選ばれない⼈間たちには、「それ」を持つことすら許されなかっ た。新次は、「それ」と対⾯し、⾃分とまったく同じ
映画『徒花-ADABANA-』
公開表記:10月18日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開
配給:NAKACHIKAPICTURES
©2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ
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