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映画『石とシャーデンフロイデ』白磯大知監督・三村和敬・富田健太郎インタビュー「社会の中の“認識するポイント”が増えるといいなと思います」

ガジェット通信 / 2024年11月24日 12時0分

第24回TAMA NEW WAVEコンペティショングランプリ受賞 &ベスト男優賞(三村和敬)ダブル受賞した『石とシャーデンフロイデ』が、11月29日まで新宿ケイズシネマにて上映中です。

他人の不幸を見聞きした時に生まれる喜びやうれしさといった快い感情「シャーデンフロイデ」を題材に、不器用ながらも自分の人生を諦めきれない人々の日常をつづった本作。2022年公開の中編「中村屋酒店の兄弟」に続いて長編初メガホンをとった白磯大知監督、ヒトシ役の三村和敬さん、圭太役の富田健太郎さんにお話を伺いました。

【ストーリー】ヒトシの友人は数年前にバイクの事故で死んだ。ただ、ヒトシが心を閉ざし始めたのはそれよりも前のことだ。事故で死んだ友人の妻・美緒は、当時ヒトシと恋人関係だった。しかし、美緒はヒトシとの交際中、その友人と深い関係になりヒトシに別れを告げたのだ。死んでしまった友人へのやるせない気持ちと、今は隣にいない美緒の存在をどこか感じながら、ヒトシは今も自分の思いと向き合わず、言い訳とともに生きるのだった。 ヒトシ・美緒を取り囲む個性豊かな人々、それぞれが 何かに寄りかかり、誰かを見て安心し、誰かと思いあって生きていく。大きな事件も不思議なことも起こらない。今の自分を認められたとき、ほんの少しだけ前にすすんでいたことに気付く。自分の人生を諦められない人々の不器用で優しい物語。

――作品拝見させていただいて、素晴らしい作品をありがとうございました。途中で「すごく辛いお話かも」と思ったのですが、最後にすごく救われて。そうすると全体を通して優しさがある作品だなと気付かされました。

白磯:ありがとうございます、良かったです。一般的に暗いと思われることを題材にする機会が多くて、文面だけ読むとなかなか、僕の頭の中にあるものをダイレクトに伝えられていないなという反省点もあるのですが、僕の頭の中で行われてるその出来事とかは全然暗いことではないんです。日常にある些細な幸せや喜びを、映画を通して客観的に気付いていただけたら良いなと思って脚本を書いています。ごくありきたりな会話だけれど、それを観た方の気持ちがちょっと救われたりとか。最後はもちろんちょっとだけお客様に託すような終わり方ではあるのですが、映画の冒頭よりも、エンドロールの時間に幸せを感じるようになっていれば嬉しいなと思います。

富田:本作の撮影が3年前のコロナ禍で、2024年の秋に公開されるということは、とても大事なんじゃないかと思っています。これが3年前に上映されていたら、映画自体を最後まで明るく思えなかったかなと。3年が経って、自分たちも一つ底から抜けたというか、非日常から日常に戻ってきたこのタイミングで公開されて良かったなと感じています。もちろん生きていく上で今も辛いことがあると思います。それでも、頑張って陽気に振る舞おうとしている姿が切なかったり、愛おしいと感じられるのかなと。

白磯:映画って受け取り側によってもすごく変わりますよね。ハッピーな時に寂しい映画を観るとどこか愛おしく感じたり、しんどい時に楽しい映画を観たらよりしんどくなったりするから。

――三村さんと富田さんによるセリフの言い方や表情がとてもリアルに感じられて、元々交流もあるということなので、あて書き的な要素もあるのでしょうか?

白磯監督:あて書きに近いかもしれないです。脚本を読んでもらって2人に意見をもらっていましたし、役についての話も深めていたので、途中からは2人により寄っていく脚本になっていったと思います。

――三村さんは「ヒトシに対する役のアプローチこそがシャーデンフロイデだったのかもしれない」というコメントをされていましたね。

三村:演じている時には思わなかったのですが、完成した映画を観た時に誰かの気持ちを主観的に捉えるというよりかは、客観的で箱庭を見ている様な気持ちにもなって。「かわいそうだな、こんなやつら」と思っちゃう自分も少しだけいますし、「(ヒトシが)可哀想に見えるといいな」と思いながら演じていたなと気付いたというか。もちろん、ヒトシという奴が本当に幸せになってほしいって気持ちもあるし、一生懸命に生きている奴という認識があった上で演じてはいたんですけどね。友達と話したり、元恋人と接したりするその様が面白く見えるといいなと思ったので、僕としては良いアプローチだと思っているのですが。

白磯:三村君が書いてくれたコメントで、「ヒトシから見て今の自分はどう映っているのだろう」という言葉を見た時にハッとしたんですよね。自分から見て可哀想な奴と思ったとしても、その相手から見たら逆転していることっていっぱいあるなと。そういう視点の広がりというか、社会の中の認識するポイントが増えるといいなと思いました。

――お2人は最初にプロット等を読んだ時にどの様な感想を抱きましたか?

三村:僕は富田君に監督を紹介してもらって、一緒に映画を作ろうと声をかけてもらったのですが、同世代で年齢も一つしか変わらないのに、こういった題材を書きたいと思うことがまずすごいなと思いました。普遍的で大きなテーマだなと僕は感じたので、それを映画にしようとしている所に監督の気概を感じました。

白磯:ありがとうございます。脚本を書いた時が25歳くらいで、自分がヒトシや圭太の年齢と近かったからこそ、感じていたことをリアルに描けたのかもしれないです。

富田:最初は監督が明るく撮りたいと思っているということは聞いていつつも、どうしても読み物として読んだ時に暗い印象があるなっていうのはありました。けど、「シャーデンフロイデ」というテーマはすごくしっくり来ました。確か、初稿の段階ではハッキリとタイトルに入れるというのは決まっていなかったのですが、構想の段階では聞いていて。三村君が言った様に普遍的なテーマでもあり、多くの方が共感出来る言葉でもあると思いました。日常にすごく近いお話だから、どの様に映像で表現するのだろうということが楽しみでした。

――スーパーの裏でのシーンもすごく印象的で、「頑張れ、応援しているね」みたいなことを言われるよりも、たまたま生まれたあの空間で雑談することの方が心地良いというか。嫌な部分も優しい部分も、解像度がものすごいですよね。

白磯:僕は、“無意識の部分”に興味を持っている瞬間が多くて。意識的にやっていることとか、認識していることって、言語化も出来るし、共通な話題にも出来ますけれど、思っているけど避けてしまっていることって人間の無意識の部分に多くあるのかなって思った時に、その代表的なものが、シャーデンフロイド的な要素なのかなと。

映画の中でも少し触れていますけど、海外で起きている事件やニュースで悲惨なことを見た時に、悲しいとか憤る感覚ももちろんあるんですけど、どこかで「日本って平和だよな」と思ってしまう時がある。「可哀想だな」とか。しかもその「可哀想」という言葉自体が結構強いので、みんな必死に言わない様に避けて言葉を選んで表現していいる様に見える瞬間があるんですよね。

僕が1番最初にこの映画を人に届けるのは難しいなと思った1個の要素として、「共感した」と言いづらい部分でした。 シャーデンフロイデのことを話すことってすごく難しいから、そっと気付いてくれたらとか、そっと視野が広がってくれたらいいなという想いは僕の普段考えていることから出ています。

富田:スーパーのシーン、僕も好きで、「普通」ということをそのまんま直球で描くことって実は難しいし恥ずかしいことだと思うんですよ。僕だったらなんですけど、普通ということにコンプレックスを持ったり、普通じゃないものに憧れてしまいがちで。なので、白磯監督の魅力は「普通」をそのまま描き切る強さと、恥ずかしい部分をさらけ出せる所なんじゃないかなと感じました。

生きている人には、楽しいことと辛いこと平等に与えられているはずなのに、映画はどちらかに偏っていたりする。この映画はヒトシと圭太の良い時と悪い時を平等に描いているから、ずっと不安な気持ちになるというか。でもそれが、先ほど監督が言った「言葉にしづらい部分だけれども、人が無意識的に思っていること」だと思うし、世界の見方が変わったら良いなという気持ちが込められているのかなと思います。

白磯:ヒトシも圭太も美緒も、この映画の登場人物に当てはまることなんですけど、0から1になる話ではなくて、マイナスに近かった人が0に戻るみたいなことが描けたらいいなと人物像を描く上で意識しました。しんどいし、大変なことが多いし、真剣に向き合えば向き合うほど嫌になるけれど、いざ向き合ってみたら意外と大丈夫だったとか、昨日よりなんか体軽いなみたいな。ちょっとした変化なんですけれど、ずっと避けてきた問題と向き合わざるを得なくなるという所を書いています。

――素晴らしいですね。監督は俳優さんもやられているからこそ分かる部分もあるかなと思うのですが、自分が書いた脚本を2人が演じてくれたことにより、想像を超えてきたというシーンはありますか?

白磯:めちゃめちゃありましたね。当時僕が撮影でいっぱいいっぱいな所があったのですが、2人の芝居を見ていると安心する部分がありました。アベレージ以上のものをしっかりと出してくれました。2人には無理を言って何テイクもしてもらうシーンがあったのですが、言えば言うほど良さが出てくるから、それをもっと見たくなってるい自分もいて。居酒屋で2人が会話しているシーンは、2人の空気感が大きいというか、役柄でありながらもプライベートから培ってきているものもしっかりと乗っかっているし、しかもそれがお芝居を全然邪魔していない。富田くんが言ってくれたアドリブの会話も、圭太にしか見られなくて、それに相槌を打っているだけなのに、ヒトシと圭太が存在しているというのは、この2人じゃないと出来なかっただろうなと思います。

――お2人が現場で監督に凄さを感じた部分はどんな所ですか?

三村:普通に話していると本当に優しくて楽しい方なのですが、映画のことになると一気に視野が広がるというか、大きく物事を捉える方だなと思いました。今回ご一緒して、僕が言うのもおこがましいですけれど、次回作をはやく観たい監督さんだなと思いました。もっと作って欲しいですし、僕も関われたらもちろん嬉しいですけど、 そうじゃなかったとしても、観客として純粋に観たいです。

富田:付き合いがすごく長いので、映画監督としての部分だけを見ることは難しかったのですが、 映画を撮っている時の眼差しは、今まで見たことがないものだなと感じました。映画でいうと、ヒトシと圭太って仲が良いからこそ、大切なことを言えない瞬間があるじゃないですか。「これを言ったら傷ついてしまう」ということを知っているから言えない、みたいな感じで。僕も白磯監督と仲が良いから、いざ一緒に映画を作ろうとすると照れてしまったりするのだろうか?と思ったのですが、そんなことは全く無く、監督の目をしていたから、こちらも気合いが入りました。仲が良いということを作品に持ち込むことなく、妥協なく自分のやりたいことをやりきるし、納得出来るまで粘るというところが役者からしたらすごく信頼出来るなと思いました。

――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

(C)2021「石とシャーデンフロイデ」製作委員会 配給:プロジェクトドーン

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