【インタビュー】『テリファー 聖夜の悪夢』ダミアン・レオーネ監督 アート・ザ・クラウンで「スラッシャーの“普通”を覆したい」[ホラー通信]
ガジェット通信 / 2024年11月28日 23時0分
おちゃめで残虐な殺人ピエロ“アート・ザ・クラウン”の目も当てられない凶行を描くシリーズ最新作『テリファー 聖夜の悪夢』が11月29日(いい肉の日)より公開。アート・ザ・クラウンの生みの親で、本シリーズをすべて手掛けてきたダミアン・レオーネ監督にインタビューを行った。
その内容のあまりの過激さに嘔吐・失神者が発生したことで一躍話題となり、世界的に大ヒットしてしまった『テリファー』シリーズ。3作目となる本作では、クリスマスを祝おうとするマイルズ郡の住民たちを、サンタクロース姿のアート・ザ・クラウンが恐怖のどん底に陥れる。2作目の『テリファー 終わらない惨劇』(22)の主人公シエナ(ローレン・ラベラ)を再び主人公に据えており、1作目の被害者であるヴィクトリアがアート・ザ・クラウンの共犯者として再登場する。
ダミアン・レオーネ監督は、特殊メイクアーティストとしてキャリアをスタートさせており、自身の監督作品でもゴアシーンでその力量を見せてきた。そんな彼に、ゴアなシーンを見せることのこだわりや、アート・ザ・クラウンという型破りなキャラクターが生まれた理由、ホラー映画ファンが反応せずにはいられない本作のカメオ出演などについてうかがった。
ダミアン・レオーネ監督インタビュー
アートさんの御髪を整えるダミアン・レオーネ監督
――大人がユニークな方法で殺害されるのはたっぷり時間を割いて見せますが、子供に関わるシーンは見せ方を変えたりと、観客にショックを与えつつ不快にさせすぎない絶妙なバランス感覚を感じます。残酷なシーンの“見せる・見せない”のバランスについてはかなり気を遣いますか?
ダミアン・レオーネ監督:そうなんです。やはりタブーとされていることってありますよね。子供や動物など、そういったものを扱うのはとてもデリケートなことです。僕は決して観客を疎外したくないし、引いてほしくはないんです。こういう映画は簡単に不快感を与えてしまうけれど、僕は意地悪なフィルムメーカーではなくて、観客に楽しんでもらいたいということが第一にある。もちろん一方ではゴアの限界突破を図ってはいるんだけど、同時にアート・ザ・クラウンというキャラクターを通してユーモアを取り入れています。だからこそ、このシリーズが観客に支持してもらえているのだと思います。
アート・ザ・クラウンの魅力はそのカリスマ性にあります。チャーミングでちょっとかわいい感じがして、友だちになりたいと一瞬思うんだけど、次の瞬間にはとんでもなく恐ろしいことをしていて逃げ出したくなる。その次のシーンではクスッと笑わされて、また好きになってしまう。よく人に言うのは、『テリファー』が上映されていることを知らずに劇場の前を通りかかると、観客の大笑いが聞こえてくることがあるかもしれないよ、ということ。通常、このタイプの映画では起こらないことです。なのでユーモアを上手に使うというのは、このシリーズを楽しんでもらう秘密兵器のひとつなんです。
――今回の映画だと、アートが人を殺しまくった後にクッキーのお皿を洗うところで大笑いしました。
レオーネ監督:あれは撮影中に僕が思いついたアドリブなんです。
検閲された作品を観て「騙されていたような気分になった」
――映画でゴアなシーンがあっても瞬間的にしか映らず、こちらとしては「素晴らしい特殊メイクの技術をしっかり見たいのに」とフラストレーションを感じることがあります。『テリファー』シリーズはそういった願望を満たしてくれると思っているのですが、特殊メイクの技術をしっかり見せるというのもやはりこだわりの部分なんでしょうか。
レオーネ監督:まさしく。僕も同じ経験をしていますよ! 子供の頃なんですが、その頃観ていたホラー映画ってテレビ用に検閲されていたものばかりだったんです。『エルム街の悪夢』にしろ『13日の金曜日』にしろ、バイオレンスの部分が省かれてしまっていた。母がビデオ店に連れて行ってくれるようになったころ、ようやく検閲されていないバージョンを観て「ああ、こんなことになってたんだ!」と思ったんですよ。これまで騙されていたような気分になり、そこでようやく満たされたんです。バイオレンスなシーンがあると「観た価値があったな」と思いますよね。
なので自分がメイクアップアーティストになり、映画を作るようになったら、できる限り「見せよう!」とそのときから決めていました。ゴアのメイクはある種のアートでもありますよね。そのアートというものに惚れ込んで何が出来るかということを特殊メイクアーティストとして考えるし、どこまでリアルに再現できるかということにも挑んでいる。仕事に誇りを持っているからそれを見せたいし、見せることでこのジャンルを押し上げていきたいと思っています。限界を超えて「観客はどこまで受け入れられるんだろう?」と思いながら作っていますね。
何かすごいものを作っているレオーネ監督、職人の顔付き
――観客としては残酷なシーンを楽しく観ていますが、俳優たちには心理的な負担はあるものでしょうか? 負担がないように気を遣いますか?
レオーネ監督:出来上がった作品と現場はかなり違う雰囲気ですよ。だいたいジョークを飛ばし合っていて、笑いに溢れていて、ライトな空気というか。どちらかというと心理的というよりも肉体的な負担はあるかもしれません。スペシャルエフェクトは少しずつ撮っていくので、俳優が長い時間その状況に身を置かなければならないことがあります。2作目のベッドルームのシーンの撮影が一番過酷だったかもしれませんね。アリー役のケイシー・ハートネットは何時間も叫び続けなければいけませんでしたから。
大事なのは自分が撮りたいものをしっかり準備してシェアすること、相手をリスペクトすること、なるべく居心地よく過ごしてもらえるようにすること。参加したみんなに楽しんでもらいたいので、そのために最善を尽くすよう努力しています。大事なことは監督と俳優が同じビジョンを共有していることだと思いますね。
スラッシャーの“普通”を覆すアート・ザ・クラウン
――アート・ザ・クラウンは“銃を使う”という点で、スラッシャー映画の伝統的な殺人鬼と一線を画しています。クラシカルなスタイルが好きなスラッシャーファンが気にする点でもありますが、そこは敢えて狙ったものでしょうか? 固定されたスラッシャーの殺人鬼像から離れようとしているのでしょうか?
レオーネ監督:意図的にですし、それまでの“普通”を覆していきたいというのもあります。アート・ザ・クラウンは特に予測できない存在であってほしいんです。初めて銃を持たせたのは2本目の短編のとき、つまり長編を作る前なんです。そのときに「スラッシャーもので新しいことができないかな、見たことのないものを作れないかな」と考えていました。銃ってその存在だけで充分恐ろしいものですよね。それをジェイソンやフレディ、マイケル・マイヤーズに持たせることは可能なんだろうか?という疑問から始まったんです。それで短編でやってみたのですが、あんなに反応が極端だった試写は最初で最後でした。ブーイングも聞こえれば大笑いも聞こえて、「やれやれー!」と言ってる人もいれば、とにかく大声で叫んでいる人もいて。しかも撃たれるのが、観客がファイナルガールだと思っているキャラクターだったんです。
それをどうしてやりたかったかというと、アート・ザ・クラウンは予測できないだけでなく、いかにアンフェアで信用してはいけないキャラクターであるかを表現したかったからです。彼はなんでもバッグから取り出せる、銃だけじゃなく火炎放射器や液体窒素まで。そうした予想外の武器が出てくることがこのシリーズの慣例になりつつありますね。
――今回の作品にあなたのヒーローであるトム・サヴィーニ(※過去のインタビュー参照)が出演しているのを見て驚きました。彼の出演はどのように実現したのですか? 彼があなたの作品の撮影現場にいることにどんな感慨がありましたか?
レオーネ監督:本当に本当に特別なことです! 特殊メイクに出会わせてくれて、そして惚れ込ませてくれたヒーローですからね。そこから自分は映画作家になり、そして『テリファー』が生まれたわけだから、考えてみればこのシリーズの責任は彼にあるわけですよね(笑)。
僕とアート役のデヴィッド・ハワード・ソーントンはよくコンベンションに行っていて、トムに会っては「大ファンです」とアピールしていたんです。彼のところに行って、どれだけ大きなインスピレーションを受けているかを伝えました。私が雑誌のインタビューで彼について言及することがあればその雑誌を見せていましたし、アート・ザ・クラウンのファンコポップ!(フィギュア)を作って彼にプレゼントしたりしていた。それがちょうど1作目ぐらいの、爆発的に人気が出る前です。それから徐々に人気が出始めて、彼もそれに気付いてくれたのか、トムの方から「これはすごく面白いから、メイクアップでもカメオ出演でもいいから自分も関わりたいな」と言ってくださったんですよね。本当に究極の夢が叶ったみたいな状態でした。「あなたが自分の作品に出演してくれるんだったら人でも殺せます!」ぐらいの気持ちだったので(笑)。一気にそこでカメオのシーンを書いて、自分のヒーローに対してオマージュを捧げることができた。映画製作者として原点に立ち戻れたような感覚でしたね。
『テリファー 聖夜の悪夢』
11月29日(金)(=いい肉の日)より、TOHOシネマズ 新宿ほか全国公開
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